第475話 追加の解毒剤

 ダニエラお義姉様が言った通り、その日に面会はなく、残りの時間を客室で過ごすことになった。

 俺たちが王城へ来ていることは秘密なので外を出歩くわけにもいかず、ただただ部屋で過ごすだけだった。


 翌日、午前中はソフィア様たちとともに部屋でお茶を飲み、午後になってから面会の時間になった。

 ボーンドラゴンのこともあるし、忙しいはずた。その合間を縫って会ってくれるのだから、本当にこちらへ感謝しているのだと思う。

 場所はレイブン王国の王妃殿下の部屋だった。ここなら国王陛下が入っても問題にはならない。お互いにあいさつをしたところで、すぐに国王陛下が切り出した。


「私のわがままに付き合わせてしまって、本当に申し訳ない。どうしても自らお礼が言いたかったのだ。エルヴィンだけでなく、多くの騎士を救ってくれてありがとう」


 国王陛下が頭を下げた。それをダニエラお義姉様がすぐにあげさせた。さすがはお義姉様。頼りになる。俺たちはただ、黙っておくことしかできなかった。どんな顔をして話せばいいのか分からん。


「エルヴィンさんをお助けしたのは確かですが、多くの騎士とは?」

「ダニエラ様が支援物資として届けてくれた中級回復薬で、多くの負傷者を救うことができたのだよ」

「そうだったのですね。お役に立てたようでうれしいです。ところで、毒のような症状はありませんでしたか?」


 ダニエラお義姉様の発言に驚いたように目を丸くした国王陛下。王妃殿下も目を丸くして、扇子で口元を隠していた。どうやらその情報は外へは出していなかったみたいである。


「どうしてそれを?」

「エルヴィンさんに毒の症状があったので、解毒剤も飲んでもらったのですよ」

「なんと! それで、ダニエラ様が持っていたその解毒剤は効果を発揮したわけですな? エルヴィンがこうして元気でいるわけですから」


 なんだろう、何かが引っかかる言い方だ。まるでレイブン王国の解毒剤が、ボーンドラゴンの毒に効かなかったかのようである。アレックスお兄様とダニエラお義姉様が俺の顔を見てきた。同じことを考えているようだ。


「失礼ですが、解毒剤が効かなかったのですか?」

「ああ、そうだ。毒の進行を食い止めることができたようだが、完全には除去できないでいる」

「ダニエラ様、その解毒剤はもうないのでしょうか?」


 すがるような声で王妃殿下がダニエラお義姉様に聞いてきた。あるけど、数は少ない。大量に必要ならば、素材を集めてもらって新たに作る必要があるだろう。こちらに視線を投げかけて来たダニエラお義姉様にうなずき返した。ここまで来たのならやるしかないな。


「解毒剤なら私の義弟のユリウスが作ることができますわ」


 注目が俺に集まった。何かを期待するような目。ちょっと心配そうな目。驚いた目。実に様々である。


「素材さえ準備していただければすぐにでも作ることができますよ。必要な素材は普段作っている解毒剤と同じもので大丈夫です」


 少しの沈黙の後、国王陛下の顔が引き締まった。王妃殿下はうれしそうな顔をしている。ソフィア様とエルヴィン様はまだ驚いているようだ。どうやら俺が魔法薬を作れるという話は半信半疑だったようである。


「すぐに準備させよう。場所は王城にある調合室で問題ないかな?」

「それで構いません。それから、できればでよいのですが、信頼できる魔法薬師を何人かお借りできればと思います。さすがに私一人で全員分作るのは難しいです」

「分かった。それもすぐに手配しよう。もちろん、口は封じておく」


 王としての顔になった国王陛下がそう言ってしっかりとうなずいた。別に作り方が知れ渡っても構わないんだけどな。どうせそのうち広めるつもりだし。レイブン王国でその足がかりができれば、俺としても都合がよい。まあそれも、人を見てからだな。


 その後は例のボーンドラゴンの話になった。どうやら極秘扱いにしておくのも限界がきたようで、今は周辺の住民に話して、別の場所へ移り住んでもらうように手配しているところらしい。国外にこの話が広がるのは時間の問題だろうと言っていた。


 その顔は苦渋に満ちていた。ボーンドラゴンによってレイブン王国に被害が出つつあるという情報は、当然、レイブン王国にとっての弱みになる。なるべくなら外に出したくなかったのだろう。


「エルヴィンに手柄を立ててもらって、せめて伯爵になってもらおうと思ったのだが、うまくいかないものだな。それならばソフィアもなんの問題もなく、エルヴィンの元へ嫁ぐことができたのだが……」

「お父様……」


 どうやらソフィア様とエルヴィン様の婚約には国王陛下も賛成のようである。後継者問題にソフィア様が加わらなくてすむからなのかな? レイブン王国の内情はよく分からないが、後継者争いで兄弟がもめてたりするのだろうか。ちょっと不安になってきたぞ。


「聖剣を使ったと聞きましたが、本当なのですか?」

「まあ、そうだな。どうもうまく機能しなかったみたいだが本当だ。ボーンドラゴンとの戦いで折れてしまったがね」

「修復できるのですか?」

「やってみなければ分からないが、難しいだろう。ユリウス様は聖剣に興味がおありかな?」


 国王陛下がほほ笑ましい者を見るかのような目でこちらを見てきた。他のみんなも似たような感じだ。子供らしいと思われているのかも知れない。そりゃあ近くに聖剣があるのなら、一度見てみたいと思う。カインお兄様とミーカお義姉様なら飛びついているはずだ。


「どのような剣なのか、一度見てみたいですね」

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