第474話 王城に到着する

 アレックスお兄様とダニエラお義姉様が答えに窮している。

 一国としてつながりを持ってよいものか。もしそうなれば、その代表はダニエラお義姉様ということになる。何かあれば、国の責任になるのだ。


 国だけじゃない。一緒にいるハイネ辺境伯家も責任を取ることになりかねない。断るべきだ。そう提案しようと思ったが、それよりも先にソフィア様が口を開いた。


「国王陛下との面会は極秘扱いになりますわ。だれにも公表することはありません。国王陛下の知人が訪ねて来たということさせていただきます」

「それは、そこで話したこと、起こったことはすべてなかったことにする、ということでいいんだね?」

「はい。その通りですわ」


 どうやら本当にお礼が言いたいだけのようである。それなら大丈夫なのかな? アレックスお兄様とダニエラお義姉様がお互いに顔を見合わせている。お義姉様がうなずいた。どうやらこの申し出を受け入れるようである。

 国に帰るのが遅くなるな。仕方ないか。


「分かりました。その条件でならお引き受けしましょう。あくまでも個人的な面会ということにして下さい」

「もちろんですわ」


 そう告げると、大きく頭を下げてソフィア様は去って行った。ソフィア様も本意ではないんだろうな。断りたいけど断りきれなかったのだろう。エルヴィン様のこともあるし、ソフィア様は大変そうだな。倒れなければいいけど。


「ここから王都までどのくらいの距離なのですか?」

「馬車で三日ほど行った場所にあるわ。準備はこのままでよさそうね」

「そうだね。帰る準備は完了しているからね。いつでも出発できるよ」


 ソフィア様、というかレイブン王国はすでに準備を済ませていたのだろう。次の日の朝には王都へ向けて出発することになった。馬車の数と人数が増えた一行が王都へと向かう。


「ユリウス様、大丈夫でしょうか?」

「昨日のうちにお兄様がハイネ辺境伯家へ手紙を出していたから、ある程度の事情は伝わるんじゃないかな。それでもお父様とお母様が知るまでには時間がかかることになる。ファビエンヌから伝えてもらえればよかったんだけど、そうもいかないからね」


 ネロも困り顔である。俺も同じ顔をしていることだろう。こんなことならファビエンヌにあげた物と同じような物を両親にも渡しておけばよかった。だが、使い方によっては非常に危険な魔道具なので作れずにいた。


 どこでも話ができるようになれば、戦争に使われるのは目に見えている。戦争だけじゃない。暗殺やスパイ活動も格段にやりやすくなる。この世界に存在させるべきではない。

 そんなことを考えている間に馬車は王都へと無事に到着した。パッと見た感じではスペンサー王国の王都よりも少し小さいような気がする。


「このまま王城へ向かうようです」


 馬車の行く先を確認していたライオネルがそう告げた。その顔は魔物と対峙した騎士のようだった。不安なのは俺だけではなさそうだ。


「そうか。それならカーテンは開けない方がいいね」


 街並みを確認したいところだが、俺たちの顔はあまり見られない方がいいだろう。他国から客人が来ていたとなると、少なからずウワサになりそうだ。

 しばらく進むと馬車が停車した。どうやら目的地に到着したようである。素早くライオネルが周囲の確認をしている。


「問題はなさそうですが、くれぐれも気をつけて下さい」

「分かった。気をつけるよ」


 ライオネルはずいぶんと警戒しているようだ。俺たちを捕まえる罠だと思っているのかも知れない。その可能性もあるな。俺も油断しないように気を引き締めた。何かあれば、問答無用で暴れよう。


「ユリウス様、お疲れではありませんか?」

「大丈夫ですよ。馬車での移動にも慣れてきましたから」


 馬車を降りるとすぐにエルヴィン様が声をかけてきた。すぐ近くにはアレックスお兄様とダニエラお義姉様の姿もある。全員無事に到着したようだ。お城の入り口付近にはすでに何人もの使用人が立っていた。


「アレックス様とユリウス様は初めてでしたよね? ようそこ、レイブン王国の王城へ」


 ソフィア様がにこやかにあいさつをする。その表情に悪意の色は見られない。特に何か罠があるようでもなさそうだ。ソフィア様とエルヴィン様、使用人たちに連れられてお城の奥へと進んで行く。


 どうやら俺たちが連れ行かれているのは、王城本体ではなく、最奥にある王族のプライベートスペースのようである。いいのかな、そんな場所に他国の人間が入っても。

 そのまま客室へ移動する。内装はとても豪華である。だがダニエラお義姉様は王族、そして俺とアレックスお兄様は高位貴族なので、いつも通りな感じである。慣れって怖い。


「これからすぐに国王陛下との面会があるのでしょうか?」

「到着したばかりだし、旅の疲れもあるから明日になると思うわ」

「そうですか。ダニエラお義姉様、国王陛下はどんな人物なのですか?」


 恐る恐る聞いてみた。厳しい人物ならば、非常に疲れる面会になりそうだ。メンタルがやられるので、なるべくなら緩い国王陛下ならうれしいな。

 うーんと考え込むダニエラお義姉様。どうやらそれなりに厳しい人物のようだ。なるべく話さないようにしておこう。


「厳しいところはあるけど、それは国王としての顔だと思うのよね。個人的に会ったときいはソフィア様思いのお父様って感じだったわね」

「なるほど」


 そうなると、ソフィア様を婚約者にしたいと思っているエルヴィン様は風当たりが強いのかな? それとも逆に、ソフィア様がそれを望んでいるので影ながら支援している?

 聖剣を貸し出したりしているし、後者の可能性が高そうだ。そうなると、本当にお礼が言いたいだけなのかも知れない。

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