第470話 いざレイブン王国へ

 お父様とアレックスお兄様、ダニエラお義姉様が慎重に言葉を選びながら、レイブン王国での出来事を話した。もちろん、他ではだれにも言わないようにと最初に言ってある。

 この話はファビエンヌにもしなければならないな。もしかするとお父様は、ファビエンヌがこちらへ来てから、一緒に話すつもりだったのかも知れない。


 早めにアンベール男爵家へ迎えに行けば良かったのだが、突然朝早く俺が訪れたら迷惑だろうと思ってためらっていたのだ。こんなことになるのなら迷わず行けば良かった。


「それでユリウスも一緒に行くことになっているのか。大変だな、ユリウスも」

「長期滞在するわけでもないですし、大したことはないですよ。それでも、カインお兄様とミーカお義姉様が王都の学園へ旅立つ日までに戻って来られるかどうかは、微妙なところですが……」

「ユリウスちゃん……」


 耳元でミーカお義姉様の声が聞こえる。なぜなら今の俺はミーカお義姉様の膝の上に座っているからだ。どうしてこうなった。背中には当然、二つの柔らかいスライムのような感触がある。先ほどからカインお兄様の目が笑っていないのが怖い。


「現状では、いつまでに戻って来られるかはハッキリと分からないね。でも、やるべきことが終わり次第、すぐに戻って来るよ」


 アレックスお兄様の言葉にダニエラお義姉様もうなずいている。レイブン王国に長居すれば色々と妙なウワサが立つかも知れない。そのことを心配しているようだ。あくまでもソフィア様に会いに行くだけにしておかなければならない。


 魔物がいるかも知れないと聞いて、さすがのロザリアも何も言わずに黙っている。ワイバーンに襲われたことがあるからね。あのときに恐怖がまだ残っているのだろう。ロザリアには悪いが、あの事件があって良かったと思う。おかげでロザリアが危険なところへ首を突っ込まなくてすむ。


「キュー……」

「ミラも連れて行ければ良かったんだけど、さすがに大事な聖竜を国外に連れて行くわけには行かないんだ。それにミラがいなくなれば、ロザリアとファビエンヌが寂しがるからね」

「私もミラちゃんがいなくなると寂しいわ」

「キュー!」


 ミラがミーカお義姉様と俺の間に割り込んで来た。押し出された形になった俺は、ようやくミーカお義姉様から解放されて自分の席に戻ることができた。隣ではミーカお義姉様の豊満な胸がミラの動きでプルンプルンと揺れている。これは目の毒だな。カインお兄様の目もタカのように鋭くなっていることだし、なるべく見ないようにしよう。


「お父様、このことについてはファビエンヌにも話しておきたいのですが、よろしいでしょうか?」

「もちろんだ。ユリウス、さすがにファビエンヌ嬢を一緒に連れて行くことはならんぞ」

「分かっていますよ。ファビエンヌにもミラのことを頼みたいと思ってます」


 サロンでの話し合いが終わるとすぐにファビエンヌを迎えに行く。いつもよりも時間が遅くなってしまった。今頃、アンベール男爵家でヤキモキしているかも知れない。ミラを回収して、急いでアンベール男爵家へと向かった。


「そのようなことがあったのですね。もちろんこのお話はだれにもしませんわ」


 アンベール男爵家からハイネ辺境伯家へ向かう途中の空で、ファビエンヌに事情をかいつまんで話した。すぐに了承してくれたファビエンヌ。その顔にはハッキリと”心配だ”と書かれていた。


 ファビエンヌの気持ちは良く分かる。逆の立場なら、間違いなく止めていただろう。だからこそ、これ以上、この話題はしないことにした。レイブン王国から戻って来たときには笑い話にしてあげなければならないな。頑張らないと。


 俺がいない間はハイネ辺境伯家の騎士団がファビエンヌを送り迎えしてくれることになっている。アンベール男爵家で魔法薬を作って、それを届ける形にしても構わないと言ったのだが、王宮魔法薬師たちが「ファビエンヌ様にいて欲しい」と願い出て来たのだ。


 どうやらファビエンヌの魔法薬師としての実力を認めたらしく、姉弟子のように慕っているようだ。それ自体はとてもうれしいのだが、なんか複雑な心境である。なんでだろう。


 レイブン王国へ行く準備は急ピッチで行われ、手紙が来てから二日後には出発の準備が整っていた。ハイネ辺境伯家の門の前には家族や、騎士団、王宮魔法薬師の姿があった。もちろんファビエンヌの姿もある。


「気をつけて行って来るように。アレックス、ライオネル、ダニエラ様とユリウスを頼んだぞ」

「もちろんです」

「お任せ下さい」


 どうやらお父様はアレックスお兄様一人では俺を抑えきれないと思ったらしく、いつものようにライオネルを専属の護衛としてつけてくれた。いいのかな? ライオネルって一応、ハイネ辺境伯家の騎士団長なんだけど。それだけ俺が厄介者だと言うことか。否定できないのがツライ。


「行ってくるよ、ファビエンヌ」

「お気をつけて下さいね」


 ファビエンヌとお別れのハグをしながら、耳元で話す。


「できるかぎり毎日、指輪で報告するから」

「はい。くれぐれも、無理はしないで下さいね」

「分かった。無理はしない」


 ファビエンヌとキッチリと約束する。信頼関係を結ぶのは大事な仕事である。

 そのあとはお母様やロザリア、ミラ、カインお兄様、ミーカお義姉様とあいさつをしてから馬車に乗り込んだ。


 大事にしないために、護衛の数は最小限だ。馬車二台に、護衛の騎兵が六人。少々不便な旅になるだろうが、そこはダニエラお義姉様も了承ずみだ。申し訳なさそうにするダニエラお義姉様にアレックスお兄様と一緒に笑顔を向けて、馬車がレイブン王国を目指して出発した。



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