第463話 商会の売れ筋商品

 湯沸かし器の魔道具を作り終えたので、次は商会へと向かった。行くのは俺とファビエンヌ、ミラ、それからネロである。ちょっとミラが目立つのだが、ハイネ辺境伯家で飼っていることはすでに周知の事実なので、そこまで騒ぎにはならないだろう。


 と言うか、そもそもハイネ辺境伯家のメンバーのだれかが来ただけでもそれなりの騒ぎになるのだ。今さら感はあるな。

 はぐれないようにファビエンヌと手をつなぎ、ミラを小脇に抱えて移動する。目指すはもちろん、魔法薬売り場だ。


「まだ昼を過ぎたばかりなのに、だいぶ在庫が減っているな。どこかの商人が大量に買いつけに来ているのかな?」

「たくさん作ったと聞きましたが……」

「そのつもりだったんだけどね」


 思った以上に、魔法薬が入荷されるのを待っていた人が多かったみたいだ。これはホットクッキーを作っている場合じゃなかったな。追加の初級回復薬や解毒薬を作っておくべきだったか。アレックスお兄様も遠慮せずに言ってくれたら良かったのに。


「これは毎日、魔法薬の売れ行きを報告してもらった方が良さそうだな」

「そのようですわね。薬草の数は大丈夫ですか? 私の家の薬草園でもそれなりに育っていますので、遠慮なく言って下さいね」

「ありがとう。そうさせてもらうよ」


 植物栄養剤を使って一気に育てることはできるけど、育ちすぎてちょっと怖いんだよね。安心して使えるくらいの魔法薬に改良しなければならないな。まさか効果を落とす方向で悩むことになるとは思わなかった。ゲームの中じゃ、一瞬で育ってラッキーとしか思っていなかったからな。


「キュ!」

「ああ、ミラはあのお菓子が食べたいんだね。あれ? なんだか見たことないお菓子だけど、ダニエラお義姉様が考案したのかな?」


 ダニエラお義姉様は王都にいる期間が長かったので、新しいお菓子や、珍しいお菓子をたくさん知っている。今はその知識を生かして、お菓子職人部隊を率いているようだ。他にも、刺繍部隊や裁縫部隊も率いている。ハイネ辺境伯家のファッションアイコンと言っても過言ではないだろう。


 その辺りは男連中では分からないからね。ロザリアがそこまで育つまでにはまだしばらく時間がかかる。ダニエラお義姉様がハイネ辺境伯家に来てくれて本当に良かった。お母様だけだと、こうはうまくいかなかっただろう。


 ミーカお義姉様は女性が動きやすい服装を提案してくれることだろう。女性騎士に人気の下着なんかも作られるようになるかも知れない。夢が広がるな。


 その後は商会にある執務室へ向かい、魔法薬の在庫のことについて話しておいた。アレックスお兄様は俺に遠慮していたみたいだが、お客様を大切にしなければならないと力説して納得させた。


「アレックスお兄様、領外から買いつけに来ている商人がいるんじゃないですか?」

「うん、いるみたいだよ。でも制限をかけるのが難しくてね。今のところは十個以上のまとめ買いは禁止させてもらっているよ」

「十個……結構緩めですね」

「そうなんだけど、親のいない子供を育てている教会から、それなりの数を購入できるようにして欲しいと言われてね」


 困ったように眉をハの字にしたアレックスお兄様。制限をかけたいけど、かけられないということか。冒険者の中にも安全マージンを確保するために量を確保したいと思っている人もいることだろう。難しい問題だな。


 どんなに買われても問題ないくらいの在庫を確保できれば良いんだけど……現状では厳しいな。人手は少ないし、素材の確保もまだまだ足りない。あるだけのものでなんとかしなければならないのだ。


「王宮魔法薬師が来ることになるのは、むしろ良かったのかも知れませんね」

「そうだね。私もそう思うよ」


 その後は屋敷に戻ってから、追加の魔法薬を作りながら過ごした。




 数日後、王都から王宮魔法薬師が来ることになった。名目は魔法薬の作り方を国内に広めるということなのだが、実際は違う。俺に完全回復薬の作り方を教わりに来るのだ。

 聞いた話によると、三人来るそうである。てっきり来るのは一人だと思っていた。


「まさか三人も来るとは思いませんでした」

「私もだよ。どうやら正式に派遣されたのは一人のようで、残りの二人は自身の腕を磨くために、修行の旅へ出たことになっているみたいだね」

「その設定はちょっと無理があるんじゃないですかね?」


 あきれてアレックスお兄様を見ると苦笑いをしていた。どうやらアレックスお兄様もあきれているみたいである。

 だれが行くかでもめたのかな? その結果、修行の旅ということで落ち着いたのかも知れない。


 それを国王陛下やジョバンニ様が許したということは、それだけ完全回復薬を熱望しているということなのだろう。まさかジョバンニ様が来たりしないよね? さすがに王宮魔法薬師団長が辺境の領地まで来るのはおかしいからね?


 使用人が王宮魔法薬師が到着したことを告げた。アレックスお兄様とダニエラお義姉様と共に迎えに行く。名目的にはこちらが魔法薬を教えてもらうことになるのだ。それを踏まえてキッチリとお迎えしなければならないのだ。妙なウワサが立ったら困るからね。

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