第462話 都合の良い関係

 これからの動きについてダニエラお義姉様と確認をしている間に、アレックスお兄様も昼食を食べに戻って来た。どうやら最近は、商会ではなく、屋敷に戻ってきてからダニエラお義姉様と一緒に食事を取るようにしているようだ。一人は寂しいもんね。


「アレク、お母様から手紙が来たわ」

「王妃殿下からの手紙? なんだろう」


 手紙に目を通したアレックスお兄様を交えて、先ほど煮詰めておいた話をする。特に問題はなかったようで、すぐに許可が下りた。ダニエラお義姉様もホッとした表情になっている。ハイネ辺境伯家に嫁ぐことになっても国のことは気になるようだ。そりゃそうか。


「それではすぐにお母様へ手紙を送りますわ」

「それじゃ、受け入れ体制を準備しておくよ。王宮魔法薬師はユリウスに一目を置いているみたいだからね。安心して商会の仕事を頼めるよ」


 どうやら都合良く、ウィンウィンの関係になれそうだ。王宮魔法薬師と俺とのつながりがますます深くなりそうだが、しょうがないね。今回のように、俺がハイネ辺境伯家にいないときに魔法薬の供給がとまるよりかはずっと良いはずだ。

 アレックスお兄様も領民たちもすぐに困ることにはならないだろう。


 ロザリアも合流して一緒に昼食を食べる。午後からはエドワード君と共に湯沸かし器の魔道具を作るようだ。どうやら午前中も工房に行っていたようである。


「ずいぶんと頑張って作っているみたいだね」

「たくさん売れているみたいです!」


 え、そうなの? もう売りに出しているの? アレックスお兄様を見ると、うなずきを返された。聞いてないよ。もしかして俺に気をつかって言わなかったのかな? ここ数日はひたすら魔法薬を作っていたからね。


「新しい魔道具を作ったのですね」

「ファビエンヌにはまだ言ってなかったね。お湯をすぐに沸かすことができる魔道具を作ったんだ。お茶の時間にネロが使っていたものだよ」

「え? あの普通のポットは魔道具だったのですか?」

「実はそうなんだ」


 見た目はよく使われているポットと似ているからね。ファビエンヌが気がつかないのも無理はない。良く見ればちょっとゴツゴツとしているのでちょっと変な形をしているなとは思うかも知れない。


「魔法薬だけじゃなくて、魔道具も作っていたのですね」

「あ、魔道具は途中までうちの職人たちが作っていたのを改良しただけだよ。一から全部作ったわけじゃないからね」


 慌てて否定する。なぜか俺が作ったことになりつつあるので、全力で否定しておかなければならない。俺が職人たちの手柄を奪うことなど、あってはならないのだ。アレックスお兄様にもその辺りはちゃんと言ってある。そのため、湯沸かし器の魔道具の開発者はハイネ商会になっていた。商会が開発者になるのは異例のことみたいだが。


「そうだ、アンベール男爵家にも一つプレゼントするよ。いつもお世話になっているからね。使い心地は良いみたいだし、持ってて無駄にはならないと思うんだよね。そうだよね、ネロ?」

「はい。湯沸かし器の魔道具は大変素晴らしい魔道具です。いつでも、どこでも、すぐにお湯を沸かせますからね。おいしいお茶を入れることができるので、重宝しています」


 魔法が得意な使用人がいればあまり需要はなかったかも知れないが、そんな優れた使用人ばかりじゃないんだよね。魔法が使えない使用人でも魔法を使ったかのようにお湯を沸かすことができるこの魔道具は、そんな使用人の救世主的存在なのかも知れない。ちょっと大げさかな?


「なんだかもらってばかりで申し訳ない気もしますけど、よろしくお願いしますわ。使用人たちもきっと喜ぶと思います」


 ファビエンヌが笑顔で受け入れてくれた。自分だけでなく、使用人の役に立つ魔道具なので、変な気づかいなく受け取ってもらえたようだ。

 それじゃ、午後からはちょっと魔道具を作ろうかな。そのついでに、ファビエンヌと一緒に商会を見て回ろう。ここへ戻って来てからまだ行ってなかったからね。


 午後からはロザリアと一緒に工房へと向かった。そこでエドワード君と合流しつつ、アンベール男爵家用の湯沸かし器を作成する。エドワード君とロザリアはずいぶんと仲が良くなっているみたいで、ひそかに”これはもう決まりなのでは”と思っていたりする。


 ファビエンヌもそう思っているのか、俺と同じように温かい目で二人を見守ることにしたようだ。みんなと改良案や、お金持ち向けの装飾案を出しながら魔道具を作り上げた。熱伝導率が高い銅を用いた、なかなかの一品である。ぶつけるとへこむのがちょっと問題かな?


「どうかな?」

「すごくステキですわ。本当にこれをいただいても良いのですか?」

「もちろんだよ。アンベール男爵家のために作ったものだからね。ほら、ここに家紋も彫ってあるよ」

「本当ですわ。いつの間に……」


 あまりの手際の良さに見逃していたようである。金メッキを施したゴージャスタイプにしようかと思ったが、さすがにキラキラしすぎたのでやめておいた。どこかに飾るのならそれもありかも知れないけど、実用性のあるものを作りたいんだよね。魔道具は使ってこそ、価値があると思っている。

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