第460話 大量生産

 運ばれて来た昼食をみんなで食べる。話題はもちろん、先ほどおひろめされた湯沸かし器の話である。


「水蒸気の圧力でスイッチを切るとはね。さすが色んな魔道具を開発しているだけはあるね」

「たまたま思いついただけですよ」


 笑ってごまかすが、正直に言わせてもらえれば胃が痛い。だって元ネタがあるからね。転生者の皆さんは良心の呵責によく耐えられるな。そろそろ話題を変えないと本当に胃に穴が開いてしまうかも知れない。


「アレックスお兄様、魔法薬の在庫はどのような状態ですか?」

「それが……」


 苦笑するアレックスお兄様。とても言いにくそうである。隣に座っているダニエラお義姉様も困り顔である。なんとなく事情は察した。これは商会に行くまでもないな。


「魔法薬は全部、売り切れてしまってね。入荷待ち状態なんだよ」

「やっぱり。それならそうと言ってくれたら良かったのに」

「帰って来たばかりのユリウスに頼むのは気が引けちゃってね」


 情けなく眉をハの字に曲げるアレックスお兄様。そんなこと気にしなくても良いのに。どのみち作ることになるのだから、早めに作って売りに出しておく方が客の不満も募らないはずだ。


「私のことなら大丈夫ですよ。ちゃんと休憩を入れながら魔法薬を作りますから」

「すまない、ユリウス。それじゃ、お願いできるかな?」

「任せて下さい」


 午後からは予定を変更して魔法薬作りだな。まずは薬草園と温室から必要な素材を集めておかないと。散歩がてらにミラも一緒に連れて行こう。それなら一緒にファビエンヌも、と思ったけど、やめておこう。ハイネ辺境伯家の事情にファビエンヌを振り回すわけにはいかない。


「新しく魔法薬師を雇おうかという話もあったんだけどね」

「無理なのですか?」

「無理ではないんだけど、ほら、秘密が多いだろう? それを守ってくれる魔法薬師となると、難しいだろうね」

「なるほど……」


 国王陛下から仮の名前をもらってはいるが、それを使うのは無理そうだな。そうなると、当分の間は俺とファビエンヌの二人体制で作るしかないのか。ダニエラお義姉様も困ったような顔をしているし、これ以上の余計な気はつかわせるわけにはいかないな。


 昼食が終わるとすぐに行動を開始した。ミラを連れて魔法薬の素材を採りに行く。ロザリアは工房へ向かうようだ。どうやら午後からはエドワード君が来ることになっているらしい。湯沸かし器のことで盛り上がることだろう。そのまま量産してもらいたいところである。


「ちょっと心配だったけど、しっかりと育っているようだね」

「これはユリウス様! この通り、管理しております。収穫した素材は言われた通りに『保存容器』の中に入れています。ですが、そろそろ入れるのも限界で……」

「そうだった! ありがとう。これで手間が省けたよ。今度、一回り大きな保存容器を作っておくよ」


 素材の収穫はまた今度だな。まずは保存容器の中にある素材を使い切ろう。薬草園をミラとネロと一緒に見て回り、その足で温室も見て回る。こちらは庭師たちが管理してくれていたようで、特に問題はなさそうだった。余裕ができたら新しい素材を育てないとね。


 見回りと散歩が終わるとすぐに魔法薬の作成に入った。ミラはサロンにいたダニエラお義姉様に預けておく。きっとたくさんドライフルーツを食べさせてくれることだろう。その間に調合室で魔法薬を大量生産する。


「ネロも休んで構わないよ。疲れがたまっているだろう? ひたすら魔法薬を作るだけだから俺一人でも大丈夫だよ」

「そんなわけにはいきません。手伝えることがあるならなんでも言って下さい」


 ネロは真面目だな。これでネロも魔法薬が作れたら良かったのだが、あまり興味がなさそうなんだよね。興味がない物を無理やり作らせるわけにもいかないし、しょうがないか。中間素材くらいは作ってもらう? いや、やめておこう。


 それから俺はせっせと魔法薬を作り始めた。薬草園を警備していた騎士が言っていたように、保存容器の中はパンパンに素材が詰め込まれていた。これは早急に保存容器を拡張する必要があるな。お父様も保存容器がここあることを知っていることだし、遠慮なく作るとしよう。


 詰め込まれた素材を使い切るような勢いで魔法薬を作り続け、かなりの在庫を確保することができた。その量を見てネロは目を輝かせており、アレックスお兄様とダニエラお義姉様はホッとしたような顔をしていた。


「これだけあればしばらくは大丈夫そうだね」

「ありがとう、ユリウスちゃん。良かったわ。みんなハイネ商会から売りに出される魔法薬を待っているみたいだったもの」

「頑張って作ったかいがありました。これでようやく一息つけそうですね。今後はファビエンヌと一緒にいつものペースに戻すつもりです」

「よろしく頼むよ。ユリウス、明日にはファビエンヌ嬢を迎えに行ってあげないといけないよ」


 真面目な顔をしたアレックスお兄様にそう言われた。確かにここ二日くらいはひたすら魔法薬を作っていたからな。もちろんファビエンヌには事情を話しているが、そろそろ不安を感じているかも知れない。


「もちろんですよ。明日からはファビエンヌのこともよろしくお願いしますね」

「分かっているよ。任せておいて」

「ユリウスちゃんがどれだけ頑張っていたのかをファビエンヌちゃんにもしっかりと教えておいてあげるわ」


 頼りになる兄と義姉で助かるな。




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