第457話 ハイネ商会の職人たち

 無事に新型のお星様の魔道具を作り終わり、ロザリアたちにもミュラン侯爵家に行ったときの思い出話をしていると、夕食の時間になった。ダイニングルームへ向かうと、そこには豪華な食事が用意されていた。どうやら俺たちが無事に帰ってきたことを祝してくれるようである。


「みんなそろったね? それでは、ユリウスたちが無事に帰って来たことをお祝いしよう。神様に感謝しなければならないよ」

「私の義弟が無事に戻って来たことを感謝いたしますわ」


 ダニエラお義姉様に続いてみんなが感謝を述べる。俺もみんなが無事であったことのお礼を神様にする。ハイネ辺境伯家にはライオネルがいなかったのだ。その間に何か大きなトラブルがあれば、大変なことになっていただろう。


 この場にファビエンヌがいないのがちょっと寂しい。もしかすると、ファビエンヌも同じことを考えているかも知れないな。部屋に戻ったら、指輪を通じて話をしておこう。


「アレックスお兄様、ユリウスお兄様に設計図をもらって、新しいお星様の魔道具を作りましたのよ。このあとみんなで星空を見ませんか?」

「新しいお星様の魔道具? 初耳だけど、それは楽しみだね。それはエドワード君と一緒に作ったのかい?」

「もちろんそうですわ。二人で作りましたわ」


 その答えに笑顔でうなずくアレックスお兄様とダニエラお義姉様。どうやら二人もロザリアとエドワード君の仲を認めているようだな。王都のタウンハウスにいるときに、お父様とお母様からはそんな話は聞かなかったのだが、この感じだと二人も公認しているのだろうな。


「ロザリアちゃん、そのお星様の魔道具はこれまでのと、どう違うのかしら?」

「星空が勝手に動くのです!」

「星空が……?」

「動く……?」


 首をかしげるアレックスお兄様とダニエラお義姉様。どうやら二人も自動で動く魔道具を見たことがないようだ。これはまずいものを生み出してしまったのかも知れない。どうしよう。ミュラン侯爵家には同種の魔道具を置いて来ちゃったんだよね。

 こうなってしまっては、あまりウワサが広がらないことを祈るしかない。


 夕食のあとに披露された星空はとてもキレイだった。お兄様たちが絶句するくらいに。

 見上げると、刻一刻と星空が変わって行く。ロザリアが絵本に載っていた星座を見つけては説明を入れていく。ダニエラお義姉様もその絵本を知っていたようで、お星様の魔道具にそんな秘密が隠されていたことをとても驚いていた。


 自分の部屋に戻るとすぐにネロを追い出して指輪に魔力を込めた。すぐに反応があった。あまりにも早い反応だったのでちょっとうれしくなる。それはつまり、ファビエンヌが常に指輪を意識してくれているということなのだから。


「ファビエンヌ、聞こえる? 今話しても大丈夫かな?」

『大丈夫ですわ。部屋には私一人しかおりませんわ』

「それなら良かった。夕食のときにファビエンヌが隣にいなくて、なんだか寂しい気持ちになったんだ。それで声が聞きたいなと思ってさ」

『ユリウス様もそうでしたか。私は何度も隣を見てしまって、お父様とお母様から笑われてしまいましたわ』


 ミュラン侯爵家にいる間はほとんど一緒にいたからね。一ヶ月ちょっとの時間だったけど、それが普通になってしまっていた。本当の意味で一緒になるのはまだまだ先なのに。

 クスクスと指輪の向こうから笑い声が聞こえて来る。


「そうだ、ロザリアに新型のお星様の魔道具を作ってもらったんだけど、勝手に動く魔道具って、あまり見かけないよね?」

『ユリウス様、今頃気がついたのですか? あまりどころか、私はあのとき初めて見ましたわ』

「う、それをもっと早く言って欲しかった。とんでもない物を作っちゃったよね?」

『確かに言われて見れば……あの、アレックスお義兄様はなんと?』

「ダニエラお義姉様と一緒に目を丸くしてた」


 これはまずいな。機械の仕組みを利用した魔道具を作るのは慎重に行った方が良さそうだ。もう作ってしまったものは仕方がないけどね。念のためファビエンヌに口止めをしてからお休みを言った。




 翌日、早朝の鍛錬を終わらせると、アレックスお兄様たちと共にハイネ商会へと向かった。ミラも一緒だ。お尻をフリフリとさせてご機嫌である。きっとドライフルーツがもらえると思っているんだろうな。


「私も工房までついて行くよ。たまには顔を見せないと、忘れられるかも知れないからね」

「そんなことはないと思いますよ」


 アレックスお兄様なりのジョークなのだろう。ダニエラお義姉様も一緒に来るみたいなので、職人たちの士気もあがることだろう。なんてったって、この国のお姫様が視察に来るんだからね。


「調子はどうかな?」

「これはアレックス様、ダニエラ様、それにユリウス様まで! 戻って来ていらっしゃったのですね」

「うん、昨日戻って来たんだよ。みんなが作ったガラスペンが王都で売られていたよ。ものすごく驚いた。いつの間にこんなに技術力を身につけたんだってね」

「ありがとうございます!」


 職人たちが手を止めて集まって来た。みんなうれしそうな顔である。そしてその顔つきが、どこか自信に満ちあふれたものになっていることに気がついた。

 俺がハイネ辺境伯家を留守にしたことで、自分たちがハイネ商会を支えねば、と思って奮闘したのだろう。俺がミュラン侯爵家へ行ったのが良い影響を与えたようだ。


「ユリウス様、新しい形を試してみたのですよ。良かったら見て下さい」

「ユリウス様、魔道具を少し改良してみました。意見を聞かせて下さい!」

「こんな魔道具を作ろうと思っているのですが!」

「ユリウスは大人気だね」


 アレックスお兄様とダニエラお義姉様が楽しそうに笑っている。一緒になって俺も笑った。これで俺も肩の荷を下ろすことができそうだ。 

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