第453話 限界なんだぜ

「アレックスお兄様、ダニエラお義姉様、ただいま戻りました。ロザリアも元気そうで安心したよ。エドワード殿もお世話になったみたいだね」

「無事に帰ってきてホッとしたよ。ミュラン侯爵家からは手紙が届いていたから、ある程度の事情は把握している。それでも……帰り道で何かあるかも知れないからね」


 これは帰り道に何か起こると思っていたな? 俺をなんだと思っているのだ。ちょっとムッとしていると、ダニエラお義姉様も苦笑いしていた。ダニエラお義姉様にまでそう思われているとは、実に心外である。


「ユリウスお兄様、帰って来るのが遅いですわ!」


 プンプンと怒るロザリアはすでにミラを抱きかかえていた。いつの間に。それに一応、遅くなるかも知れないと言い聞かせておいたはずなのに。理不尽に思いながらもロザリアに謝った。ここでロザリアにへそを曲げられるのはまずい。ご機嫌を取らなきゃ。


「みんなが無事に帰ってきて何よりですわ。さあ、サロンへ行きましょう。そこでゆっくりと旅の話を聞かせてもらうわ」


 ダニエラお義姉様はすでにハイネ辺境伯家の母になりつつあるな。余裕のあるほほ笑みでみんなの指揮をしている。ロザリアもずいぶんとお世話になっているんだろうな。

 サロンへの道すがら、エドワード君に話しかける。


「どういうことなの?」

「あ、えっと、魔道具作りの関係でね?」

「ふーん?」


 確かにエドワード君も魔道具作りには興味があったな。その関係で呼ばれたのかな? それにしてはなじんでいるような気がする。まあロザリアも嫌がっているわけではないみたいだし、いいか。


 サロンでは改めて東の地で起こった出来事を話すことになった。さすがに手紙では全容を書くことができない。重要な出来事だけが書かれていたようだ。


「新型のお星様の魔道具……どんな魔道具なのですか?」

「星空が動くようになっているんだよ。設計図をあげるから、エドワード殿と一緒に作ってみたら?」

「そうしますわ!」


 よし、これで俺が作る必要はなくなったぞ。その間に、完全回復薬を作りたいところである。

 話を聞いたところによると、俺たちがハイネ辺境伯家を出てからしばらく元気のなかったロザリアをなんとかしようとして、ロザリアと同じく魔道具に興味を持つエドワード君を呼んだらしい。


 そしてどうやらそれがうまくハマったらしい。エドワード君はロザリアの技術力に驚き、ロザリアを褒める。満更でもないロザリアがエドワード君に教える。師弟関係になった二人は喜々として魔道具作りに励んでいたようである。


 お父様とお母様は頭を抱えただろうな。魔道具作りが落ち着くどころか、さらに加速するとは思っていなかったに違いない。もうここまでくれば、いい加減にあきらめの境地に入っているかも知れないな。


 そうなると、エドワード君とロザリアの関係はありだと言うことになる。兄としては……ちょっと複雑だな。友達が義弟になるなんて。


「ファビエンヌ、家まで送って行くよ。アンベール男爵夫妻も気をもんでいるだろうからね」

「お願いいたしますわ。あの、そのまま泊まって行きますか?」

「あー、うん、それはまた今度にしようかな? 家族団らんの時間も必要だよ」


 ミラの背中に乗って送って行こうかと思ったのだが、当分の間、ロザリアがミラを離さないだろう。ネロに馬車を頼んで、ファビエンヌをアンベール男爵家へ送って行った。アンベール男爵夫妻からも泊まっていかないかと言われたが、丁重にお断りした。


 ファビエンヌとはミュラン侯爵家にいる間、同じ部屋で寝泊まりしていたのだ。そろそろ歯止めが利かなくなるかも知れない。しばらくクールダウンが必要だ。


「よろしかったのですか、ユリウス様?」

「良いんだよ、これで。ネロは気がついていなかったかも知れないけど、寝ぼけたファビエンヌが俺のベッドに潜り込んで来るときがあるんだよ。毎回、ファビエンヌのベッドに戻してるけど、そろそろ限界だ」

「……ファビエンヌ様がわざとやっていたのでは?」


 まさか、そんなことがあるのか? 確かに眠っていたはずだけど、狸寝入りの可能性もあったのか。テンパっていて気がつかなかった。俺としたことが。

 いや、例えそうだとしても、手を出すわけにはいかない。これで良かったんだと思いたい。


 屋敷に戻ると、その足で調合室へと向かった。そこは俺がハイネ辺境伯家を出るときと同じく、キレイに整えられていた。どうやらしっかりと掃除をしてくれていたようだ。慣れた手つきで装置を動かす。


「ユリウス様、何を作るおつもりですか?」

「せっかく世界樹の素材が手に入ったんだ。鮮度が高いうちに完全回復薬を作ろうと思ってね」

「完全回復薬! ユリウス様、世界樹の素材を使った魔法薬はまだ作れなかったのではないですか?」

「ああ、あれ? あれはウソだ」


 ネロの口が真一文字に結ばれた。平気でウソをつく俺に閉口しているようである。でも、あそこで作れますなんて言ったらどうなっていたことか。おばあ様からもらった本の仕業にするのにも限界があると思う。


「まさかファビエンヌ様の家に泊まらなかったのは、魔法薬を作りたかったからですか?」

「……いや、それは本当に歯止めが利かなくなりそうだったからだよ。あのままだと、ファビエンヌの部屋に泊まる可能性が高かったと思う。それも同じベッドで」

「……確かにあり得そうですね」


 どうやら納得していただけたみたいである。ネロがどこか遠い目をしていた。ファビエンヌがもうちょっと男女の間柄のことについて知っていれば良かったんだけど、どうもその辺りの知識が欠落しているみたいなんだよね。


 本はたくさん読んでいるみたいだけど、その手のエッチな恋愛小説は読んでいないようである。だれかファビエンヌにおすすめしてくれないかな。ダニエラお義姉様にお願いするか? でもなぁ。

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