第452話 驚きの新事実

「社交界シーズンが終わるまで、このままユリウスも王都にいれば良いのに」

「そういうわけにはいかないよ。ハイネ辺境伯領にはロザリアがいるし、アレックスお兄様もいるからね。それにハイネ商会に商品を卸さないと。よし、シャワーの魔道具は問題ないよ」

「ありがとう。何かお礼がしたいんだが……」


 困ったようにほおをかくアクセル。別に気にすることないのに。ある意味、このシャワーの魔道具は俺が勝手に押しつけたようなものである。面倒を見るのは当然だ。それにアクセルの家だけでなく、イジドルの家にある魔道具も点検するのだ。もののついでである。


「気にしないでよ。アクセルから何かしてもらったら、イジドルまで何かしてもらわないといけなくなるからね。どうしてもって言うのなら、ときどき王都の情報を手紙で知らせてよ」

「分かった。そうするよ」


 これで良し。ハイネ辺境伯領にいながらにして、王都の情報をゲットだぜ。特に社交界シーズンが終わってから雪解けまでの王都の情報は乏しいのだ。その期間の情報源があるのはありがたい。


 イジドルの家の魔道具を点検し、イジドルからも手紙をもらう約束をした。よしよし、これで別の角度からも情報が得られるぞ。その後はジョバンニ様宛てに手紙を書いて送った。

 さすがに王城へ乗り込む勇気はない。ここから手紙を送ればすぐに届くはずである。


「ファビエンヌ、このまま王都を見て回ろう。明日にはハイネ辺境伯領へ向けて出発するからね」

「はい。ミラちゃんが一緒に行きたそうにしてましたわね……」

「仕方がないよ。さすがにミラを連れていたら目立つからね」


 かわいそうだけどミラはタウンハウスでお留守番である。カインお兄様とミーカお義姉様がかわいがってくれているだろうから問題ないと思うけどね。

 ファビエンヌと一緒にお店を見て回る。ロザリアとアレックスお兄様に何かお土産を買って帰るべきかな?


「お、ガラスペンが置いてあるな。さすがは王都で売っているだけあって、デザインが素敵だね。持ち手の丸い部分も持ちやすそうだ。色のグラデーションもキレイだね」

「本当ですわね。……あれ? ユリウス様、これ、ハイネ商会の商品ですわ」

「えええ? 本当だ。いつの間にこんな技術を身につけたんだ?」


 ファビエンヌが指差した商品紹介のタグを見ると、そこには間違いなくハイネ商会の文字があった。制作者の名前はもちろん、雇っている職人の名前である。こんなに早く成果を出すとは思わなかった。俺の目に狂いはなかったな。


「王都で売られているのを知ったらきっと喜ぶぞ。帰ったら教えてあげないとね」

「そうですわね。本当にキレイです」


 俺たち以外にもガラスペンに魅入られている人たちがいた。これからますます売れるだろうな。そしてライバルも増えて来るはず。早いところブランドを確立して、競争力をつけて行きたいところだ。アレックスお兄様に報告しなきゃ。


 翌日、俺たちは王都を出発した。ハイネ辺境伯領へ戻るのは出発した人数と同じである。その中には当然、ライオネルたちの姿もある。

 ハイネ辺境伯領の守りは大丈夫かな? ちょっと心配になってきたぞ。寄り道せずに帰らないといけないな。


 それでも立ち寄らなければならない場所もある。例の温泉のある街に到着すると、泉へと向かって湖の精霊にあいさつをしておく。湖の精霊のおかげで森の精霊の加護をもらったようなものなのだ。お礼が必要だろう。


「聞いたぞ、ユリウス。森のを救ってくれたようだな。世界樹も育てたみたいで、喜んでいたぞ。何から何までありがとう」

「自分のできることをやっただけですよ。礼には及びません」


 湖の精霊から他の精霊の話も聞くことができた。俺が渡した魔法薬によって、徐々にではあるが環境が良くなってきているそうである。だがやはり、人間の信仰心が足らない場所がまだまだあるそうだ。


 その点、世界樹は人々の信仰を集めつつあるようだ。一夜にして現れた世界樹を”神の奇跡”としてあがめているようだ。あの世界樹には神が宿るとして。

 なんかごめんなさい、神様。俺が時短のために植物栄養剤を使ったせいでこんなことに……。


 だが精霊の話を聞く限りでは悪い話ではないようだ。人間の信仰を集めれば集めるほど、精霊たちは強くなっていくらしい。湖の精霊いわく、まだまだ足りないみたいだけどね。そんな話、初めて聞いたんだけど。


 色んな事情を聞くことができた俺たちは温泉の街をあとにした。そこから先は止まることなくハイネ辺境伯領へと突き進む。


「ユリウス様、ハイネ辺境伯領が見えて来ましたよ」

「本当だ。ハイネ辺境伯領よ、私は戻ってきた!」

「ユリウス様、いくらなんても大げさですわ」


 クスクスとファビエンヌが笑い、それにつられてみんなで笑った。ようやく戻って来たような実感が湧いてきた。あとはロザリアがどんな表情で出迎えてくれるかだな。


 社交界シーズンのころまで帰れないかも知れないとは言っておいた。だがしかし、本当にこの時期まで遅くなるとは思わなかった。すねているかも知れないな。ちょっと会うのが怖い。


 領都に入った馬車はそのままハイネ辺境伯家へと向かう。屋敷の大きな門が見えてきた。そこではみんなが並んで待ってくれていた。

 アレックスお兄様にダニエラお義姉様もいる。ハイネ辺境伯家に戻って来てくれたんだ。

 それにロザリアと……あれはエドワード君? いつの間に仲良くなったんだ。聞いてないよ!

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