第451話 夏休みの終わり
魔物の氾濫の原因も断ち、東の地は安全になった。これで俺の役目も終わりだと思っていたのだが、レオン君がなかなか離してくれなかった。結局俺たちがハイネ辺境伯領に戻ることになったのは、レオン君の夏休みが終わるころだった。
「師匠、ボクは学園に行く必要はないと思うのですが」
「行きなさい。学園に行ってたくさん仲間を作りなさい」
ついには学園で習うことなどないと言いだしたレオン君をなんとかなだめる。ミュラン侯爵夫妻も説得を手伝ってくれたので、レオン君のわがままは当然のことながら通ることはなかった。やれやれだ。
「すまないな、ユリウス殿。この通りだ。レオンにはしっかりと言い聞かせておく」
「頭をあげてください、ミュラン侯爵様。分かっていただければそれで十分ですので」
これでようやく決着がついたな。俺が教えられる範囲のことは教えたし、あとは自分で自分を磨くしかないのだ。何度もそう言ったのだが、なかなか理解してもらえなかった。レオン君は俺のことを神様かなんかだと勘違いしているようだ。だが俺はレオン君と同じ人間である。ちょっとだけ神様に会ったことがあるだけだ。
数日後、俺たちはレオン君が王都に向かうのと一緒に帰ることになった。そこにはアクセルとイジドルの姿もある。東の地で起こった混乱も収まったからね。ミュラン侯爵家に残る理由がなくなったのだ。
「アクセル、寂しくなるね」
「それはそうだが、すぐに社交界シーズンになるからな。そのときはキャロも王都に来る」
「そう言えばそうだったね。じゃあ、今度はアクセルの実家にキャロを呼ばないとね」
「ちょ、え?」
挙動不審になるアクセル。そんなアクセルの姿を見てニヤニヤする俺たち。それに気がついたアクセルの顔が朱に染まった。それを聞いていたキャロの顔も赤くなる。これはもう一押し必要だな。
「キャロもアクセルの家に行ってみたいよね?」
「そ、そうですわね。行ってみたいですわね?」
疑問形でアクセルをうかがうように見るキャロ。これでノーと言える男はいないだろう。勝ったな。良いことしたな。イジドルも口元を押さえて見守っている。さすがに空気を読んだらしい。
「そ、それじゃあキャロが来ても良いか聞いてみることにするよ。あとで手紙を送るから。王都のタウンハウス宛てで良いのかな?」
「はい。お待ちしておりますわ」
見つめ合う二人。なんだろう、こちらまでむずがゆくなってきたぞ。これは早いところイジドルのお相手も見つけないといけないな。なんだかのけ者にしているような気がする。
俺たちを乗せた馬車が出発した。アクセルは最後まで手を振っていた。
王都までの道のりは何もなかった。ミュラン侯爵家へ来たときとは違い、街道にはいくつもの荷馬車が行き交っている。さすがは流通の要所だな。商人の数が違う。そして街道が安全になったことを改めて実感した。
ハイネ辺境伯領の先は隣国に通じてないからな。山があるため、隣国へ向かうにはみんな迂回して、別の領を経由することになるのだ。トンネルでも掘ればわざわざ遠回りする必要もないのに。
掘るか? いや、そんなことをすれば、隣国との流通でお金を稼いでいる領地の収入が激減する。恨みを買うだけだろう。打つ手なしだな。それに、その山のおかげで国境の防衛も楽になっているという側面もある。悪いことだけではない。
「王都が見えてきたよ」
「少しだけ寄って帰るのでしたわよね?」
「うん。お父様とお母様が王都に来ているだろうからね。それにアクセルとイジドルの家に置いてある魔道具の点検をしたいからね。ああそうだ、ジョバンニ様にもあいさつをしておかないとね。レオン様をお願いしますって」
「忙しくなりそうですわね」
「そうだね」
王都に到着すると、俺たちはそれぞれ別れることになった。レオン君は学園に、アクセルとイジドルは家に帰った。もちろん俺たちはタウンハウスへ向かう。今ならまだカインお兄様とミーカお義姉様がいる可能性が高い。できればあいさつをしておきたいところである。夏休みの間は会うことができなかったからね。
「ユリウスちゃん、お帰りなさい!」
「ミーカお義姉様、ただいま戻りました」
すでに我が家のような感覚でミーカお義姉様が出迎えてくれた。そう言えばミーカお義姉様は実家に帰らなくて良いのかな? 王都に実家があるはずなんだけど。そんな話をカインお兄様にすると、午前中は二人そろってミーカお義姉様の実家に帰っているらしい。
仲むつまじいようで良かった。
「手紙で報告は受けているが、ユリウスの口からも直接話を聞きたい」
「分かりました」
お父様とお母様、それにカインお兄様とミーカお義姉様も入れて、東の地で起こった出来事を話した。頭を抱えることはなかったが、お父様とお母様の顔は引きつっていた。ミーカお義姉様は「さすがはユリウスちゃん」と喜んでいた。カインお兄様は複雑そうな顔をしていたな。
「そうか、森の精霊様の加護をもらったのか。それに世界樹の素材も……」
「これがその加護になります」
手の甲に四つの加護が浮かんだ。これを見ればお父様も受け入れるしかないだろう。また心労を増やしちゃったかな? そんなお父様の様子をうかがっていると、ふう、と一つ息を吐いた。
「ドラケン辺境伯家とミュラン侯爵家からも手紙が届いている。どちらもユリウスには大変世話になったと書いてあった。それから、これを機に、両家のつながりを深めようとも書いてあった。悪くない話だ。つながりのある家が増えるのは良いことだからな」
自分を納得させるかのように、お父様がそう言った。お父様が言うように悪い話ではない。ちょっと勢力が強くなりそうな気がするけどね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。