第450話 やっぱり何かありましたのね
森の精霊とさよならバイバイして俺たちは帰路についた。さすがに一緒に連れて帰るわけにはいかない。そんなことをすれば、耐性のないミュラン侯爵夫人や、キャロとヒルダ嬢が卒倒してしまうかも知れない。それは良くない。
「ねえ、ユリウス、精霊の加護ってどんなご利益があるの?」
「今のところ分かっているのは、魔法を使うときの魔力の消費量が少なくなることくらいだね」
「すごいのかどうなのかちょっと分からないね」
「そうだね」
魔力消費量の減少の恩恵を受けるのは、広範囲殲滅魔法などの大魔法を使うときくらいだろう。当然、そんな機会はないので、精霊の加護は無用の長物ということになる。あ、あと、一部の魔法が使いやすくなる効果もあったか。
「学園の歴史の授業で精霊の加護をもらった人物の話はありましたが、さすがに四つもらった人はいませんでしたよ」
「そ、そうなのですね。一つあれば十分なので話題には出さなかったんじゃないでしょうか。レオン様もこの話は表に出さないようにして下さいね。自慢にもならないはずなので……」
「そうですかね? でも師匠がそういうのであれば、だれにも言いませんよ」
良かった。レオン君に師匠として認められていることがここで生きてきたぞ。今の話で他のみんなも外に漏らすことはないだろう。ないよね? チラッ。
「大丈夫、だれにも言わないから」
「そうだな。ユリウスに目をつけられたくない」
「正直だね、アクセル……」
喜んで良いのか、悪いのか。二人に恐れられている気がする。ウワサが広がるよりかは良いのか? 複雑な心境だ。ネロがウンウンとうなずいているので、良かったことにしておこう。
ドラケン辺境伯家を経由し、ミュラン侯爵家へと戻って来た。ドラケン辺境伯はしばらく泊まっていけと言っていたが、ミュラン侯爵家に残したファビエンヌが気になるからと言って辞退した。
ドラケン辺境伯家に滞在していたら、これまで俺が引き起こした、数々のやらかしについて話すことになっていただろうな。危なかった。帰ったらファビエンヌに感謝しなくてはいけない。
ミュラン侯爵家の門が見えて来た。門の前にはファビエンヌたちが並んでいる。ようやく帰って来たという実感が湧いてきた。俺にとってファビエンヌは癒やしの象徴だな。
「お帰りなさいませ」
「ただいま、ファビエンヌ。特に何もなかったかい?」
「はい。何もありませんでしたわ。ユリウス様は?」
「あ、えっと……」
「……やっぱり何かありましたのね」
やっぱりって、ファビエンヌがやっぱりって言った! 俺ってやっぱり、トラブルメーカーのように思われているのかな? 自分ではそんなつもりは全くないのに。トラブルが向こうからやって来るんだよ。俺のせいじゃない!
……いや、一部は俺のせいかも知れない。俺が調子に乗って色々と作り出すからこんなことに。ファビエンヌには一度、心を込めて謝った方が良いかも知れない。
微妙な顔をしたファビエンヌと手をつないでサロンへと向かう。そこではすでにお茶の準備が整っていた。
「疲れたでしょう? みんな、ゆっくりしていってね」
「ありがとうございます、ミュラン侯爵夫人」
「みんな元気そうでホッとしたわ。キャロが毎日心配そうに夜遅くまで祈りをささげていたから大変だったのよ」
苦笑する夫人。視線がアクセルに集中した。間違いなくその原因は彼だろう。赤くなるアクセルとキャロ。まさか戻って早々、見せつけられるとは思わなかったなー。
ん? ファビエンヌも顔を赤くしてうつむいている……。もしかしてファビエンヌも自分の部屋で同じことをしていたのかな? ありがてぇ。
「問題なく対処できたようですわね?」
「うむ、東の地は以前よりももっと安全な場所になったと言えるだろう。それに、世界樹の素材も手に入るようになった」
「まあ! 素晴らしい成果ですわね」
「これもすべて、ユリウス殿のおかげだ」
え? みたいな顔をした夫人たちの注目が俺に集まった。すでに俺が何かやらかしたことを察知しているファビエンヌだけはほほ笑みを絶やしていなかった。あの笑顔の裏には一体何があるのか。
「詳しくお話を聞かせてもらってもよろしいかしら?」
こうしてお茶会と言う名の報告会が始まった。もちろん俺がもらった加護もみんなに見せることになる。気を利かせたミュラン侯爵が口を封じてくれていたので、これ以上、この話が広がることはないと思うけど。
「さすがはユリウス様ですわ。私も世界樹を見たかったですわ」
「森も安全になっただろうから、そのうち見に行けるかも知れないね。ドラケン辺境伯様が世界樹までの道を整備するんじゃないかな?」
世界樹までの道のりが整えば、管理も警備も素材調達も容易になる。可能性は高いと思う。辺境伯が直々に管理している世界樹に手を出すような命知らずはいないだろう。
「ところでユリウス様、世界樹の素材はいただいて来たのですか?」
「もちろんだよ。あとでファビエンヌにも見せてあげるよ」
「楽しみですわ」
世界樹の素材で作りたいのは完全回復薬だ。これさえあれば、体に欠損があっても元の通りに治すことができる。何かあったときの役に立つのは間違いないだろう。備えあれば憂いなしってね。
「師匠、世界樹の素材を使った魔法薬の作り方をボクにも教えて下さい」
「うーん、そう言われても、まだ実際に作ったことがないですからね。成功するかどうか分からない魔法薬の作り方を教えるのはちょっとどうかと思います」
「確かに……そうですね」
残念そうである。もちろんウソなのでちょっぴり心が痛い。世界樹の素材を使った魔法薬など、腐るほど作って来た。作るのも、教えるのも余裕である。
でもね、初めて手にしたであろう世界樹の素材を自由自在に使いこなしていたら、さすがに良くないと思うんだよね。そのくらいは俺にも分かる。
ハイネ辺境伯家を出発してから、俺はすでにいくつもやらかしているのだ。これ以上のやらかしを積み重ねれば、お父様が寝込むかも知れない。それは困る。
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