第449話 森の精霊の加護
「やはり来てくれたか、ユリウス。我が心の友よ!」
感極まったのか、変態……じゃなくて精霊が俺をハグしてきた。さすがのライオネルとネロも精霊には手が出せないようで、どうするべきかとうろたえていた。そのままステイで良いと思う。
「落ち着いて下さい。精霊様と会うのは初めてだと思いますが……森の精霊様ですよね?」
「その通りだ。なんだ、湖のから聞いていないのか? あいつも気が利かないな」
良いのかな、湖の精霊の愚痴を言っても。精霊同士がどのような関係にあるのかイマイチ分からないのでツッコミを入れるのはやめておこう。
だがこれで、森の精霊はすでに俺を知っていたことだけはハッキリした。
「この場所には森の精霊様が住んでいたのですね」
「いや、そうではない。私はすべての森に住んでいる。ここはその一つだ」
なるほど、さすがは森の精霊。スケールが大きいな。それで俺たちがこの場に世界樹の種を植えたことを知ったのか。もしかして勝手に植えるのは良くなかったのかな? 怒ってはいなさそうだけど……。
「あ、森の精霊様に紹介します。この辺りを治めているドラケン辺境伯様とミュラン侯爵様です」
「お目にかかれて光栄です」
二人が恐縮している。普通なら本物かどうか疑いそうなのだが、そんなことはなかった。オーラがすごいからかな? どうせなら、もっとまともな姿で現れてくれたら良かったのに。なぜか精霊たちはこの姿を気に入っているんだよね。
「おお、あやつの子孫だな? 顔が良く似ておる。約束を守ってくれてありがとう。感謝する」
「約束?」
「なんだ、知らずに植えたのか。その昔、貴殿の祖先に世界樹の種を託したのは私なのだよ。この地に災いの種が芽生えたときに植えるようにとな」
「……知りませんでした」
ドラケン辺境伯が正直にそう言うと、楽しそうに森の精霊が笑った。
「気にする必要はない。こうして魂に刻まれていたからこそ、約束通りに植えてくれたのだからな」
うんうんとうなずく森の精霊。ドラケン辺境伯がありったけのイタズラ心を持ってここに植えたことを知ったらどう思うかな? あ、ドラケン辺境伯が無表情でこちらを見ている。言うなということだろう。軽くうなずいておいた。
「しかし湖のから聞いていたが、まさかここまでとは思わなかった」
大きく立派に育った世界樹を見上げながら、森の精霊がしみじみとそう言った。
とは言ったものの、物語に出て来るほど大きな世界樹ではない。その辺りに生えている木よりも一回りほど大きいだけである。世界樹と言えば、山ほどの大きさを持つ大樹だと思っていた。
「伝説の世界樹を見ることができるとは思いませんでした。良い思いで話ができましたよ」
「そうかそうか。それは良かった。通常ならこの大きさになるまでに千年はかかるからな。よくぞここまで育ったものだ」
千年……それを俺はほんの数分で成し遂げてしまったのか。世界樹、大丈夫だよね? 痛んでないよね?
気になったので鑑定して見る。うん、健康だな。問題なさそうだ。
「ユリウス、大丈夫なの?」
心配性のイジドルが世界樹をチラチラと確認するように見ながら聞いてきた。他の人は俺と同じように「千年」とつぶやきながら世界樹を見上げている。
「大丈夫だよ。問題ないみたい。でも、何かあるとまずいからね。これ以上は植物栄養剤を与えないようにするよ」
「うん、それが良いかもね」
急激に生長した世界樹を心配するイジドル。そんな優しいイジドルにも早く春が来ると良いね。
おっと、魔力のよどみはどうなったかな? ふむふむ、予想通り、キレイサッパリなくなっているようだ。これで再び変異した魔物が現れることはないだろう。
「そうだった、そうだった。ここまで世界樹を育ててくれたユリウスにはお礼をせねばならんな。他にもドライフルーツのお礼もある」
「ア、ソッスカ」
どうやらお供えしているドライフルーツは精霊たちに配られているようだ。そんな気はしてたけど、いざ現実でそう言われると複雑な気分だな。なんだか餌で精霊たちを釣っているような気がしてならない。大丈夫かな。
「ユリウスに私の加護を授けよう」
「ありがとうございます」
シビビビビと光線が発射され、手の甲に葉っぱの模様が浮かび上がった。わぁい、これで精霊の加護が四つになったぞ。大丈夫かな? 主に人として。
手の甲を見ながら無理やり笑顔を作っていると、みんなが集まって来た。
「さすがはユリウス様です!」
「ボクにも見せてよ! ホントだ、四つある」
「師匠、あなたという人は……」
「これが精霊の加護か。なんかご利益ありそうだな」
「ユリウス殿、私も見せてもらっても良いかね?」
そうしてみんなに見せることになった。帰ってからの報告のことを考えると、今から頭が痛い。まあ、ありのまま起こったことを話すしかないんだけどね。結果的に東の地を救うことになるわけだし、怒られることはないだろう。
その後、当然のごとくドラケン辺境伯とミュラン侯爵からの態度が恭しいものへと変わっていた。わぁい。
忠義者のドラケン辺境伯は森の精霊に世界樹の素材をいただいても良いのかを聞いていた。
森の精霊は世界樹が枯れるほど採取しないのであれば問題ないと言ってくれた。それを聞いたドラケン辺境伯は「ドラケン辺境伯家が責任を持って管理する」と誓いを立てて、森の精霊と握手を交わしていた。
この森の精霊との出会いはドラケン辺境伯家の当主の日記に書かれるんだろうな。森の精霊の姿はこのまま書かれるのかな? ちょっと心配になってきたぞ。そしてミュラン侯爵家の日記にも書かれることになるだろう。レオン君も書きそうだ。
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