第435話 弟子が増えるよ!

 レオン君の実力には問題なしだな。まだまだ経験が足らない感じではあったが、手つきはとても慎重で、正確な動きをしていた。これなら魔法薬の作り方を教えても大丈夫だろう。


 そしてすぐに魔法薬の作り方を習得してくれれば、俺も役目を終えたことになり、ハイネ辺境伯家へ帰ることができる。社交シーズン前までには帰れればと思っていたので、ちょうど良さそうである。


「ファビエンヌから見てレオン様の動きはどうだった?」

「危なげない手つきだったと思いますわ」


 うんうん。ファビエンヌも俺と同じような感想を持ったみたいだな。ファビエンヌの目も確かなものになってきているようだ。日々成長してくれているようでうれしい。

 そんな俺とファビエンヌの会話が聞こえたらしい。レオン君がこちらに目を向けた。


「あの、もしかして、ファビエンヌ嬢も魔法薬を作れるのですか?」

「はい。ユリウス様から教えていただいておりますわ」

「ということは、兄弟子なのですね!」


 まあ、そうなるかな。そこは女性なので姉弟子になるのかも知れないが。それを聞いたレオン君の目が輝いていた。なんだろう、同士を見つけたとでも思っているのかな? 違うからね。ファビエンヌは俺のお嫁さんだからね。


「あの、ファビエンヌ嬢が魔法薬を作っているところを見せていただけないでしょうか?」

「え? えっと……」


 不安そうな表情でこちらを見つめるファビエンヌ。どうしたものかな。ミュラン侯爵家ではファビエンヌが魔法薬を作っていることは暗黙の了解になっているが、本来ならダメなんだよね。


「ファビエンヌが魔法薬を作れることを秘密にしていただけるのであれば……」

「約束するよ。お姉様もキャロも、秘密にして欲しい」

「もちろんよ」

「分かりましたわ」


 ファビエンヌにうなずくと、すぐに準備に入った。どうやら改良版の初級回復薬を作るつもりのようだ。これは甘くて、子供にも飲みやすい魔法薬に仕上がっている。ファビエンヌが持って来た素材を注視するレオン君。自分の作り方とは違うことに気がついたようである。


 さすがは何度も作っていることもあり、レオン君よりも手慣れた手つきで危なげなく初級回復薬を作る。それを見たミュラン侯爵家の皆さんはぼう然としていた。


「完成しましたわ。どうでしょうか?」

「うん、良い品質だね。これなら子供たちも喜んで魔法薬を使ってくれるはずだよ」

「負けた……これが進化した魔法薬」


 ガックリとうなだれるレオン君。一体何と戦っていたのやら。その様子にあきれていたヒルダ嬢とキャロだったが、ファビエンヌが作った魔法薬に興味を持ったみたいだった。

 スッとする香りがしていたからね。どんな味なのか気になったのかも知れない。


「あの、こちらの魔法薬を使ってみても良いかしら?」

「私も使ってみたいな」

「ケガをしていないのに魔法薬を使うことには、あまり賛成できませんが……それなら半分ずつ飲んでみます?」

「師匠、ボクも! ボクも飲んでみたいです!」


 ハイハイと手を上げるレオン君。なんだかミラに似ているな。そんなミラは夫人と一緒にお茶を飲んでいるはずである。魔法薬作りよりもお菓子。じつに分かりやすい子である。夫人もミラを気に入ったみたいで、ずいぶんとかわいがっていた。欲しいとか言わないよね?


 三人に魔法薬を飲ませる。効果はないが、体に悪影響を及ぼすこともないだろう。量も三分の一だしね。レオン君はゆっくりと味わうように、ヒルダ嬢とキャロは恐る恐る初級回復薬を飲んだ。


「なにこれ。甘くてスッとするわ。子供のころに飲んだ初級回復薬と全然違う……」

「おいしい。これが魔法薬なのですね」

「すごい……まさか初級回復薬に味と風味を加えることができるだなんて思わなかった」


 三者三様の受け取り方である。キャロにはあとでしっかりと、ファビエンヌが作った魔法薬が特別であることを言い聞かせておかないといけないな。同じ調子で別の魔法薬を飲んだらひどい目に遭うかも知れない。


 そしてどうやら、ヒルダ嬢は昔、ゲロマズ魔法薬を飲んだことがあるようだ。となると、ケガをして初級回復薬のお世話になるほど、子供のころはやんちゃだったということになる。


「驚きましたか? 魔法薬も日々進化しているのですよ」

「驚いたわ。これなら兵士たちも喜んで飲むことができるわね。お父様がハイネ辺境伯家に支援を求めたのはこのことを知っていたからなのね」

「師匠、ボクにもこの魔法薬の作り方を教えて下さい!」


 本当はレオン君の実力を見たら先ほどのサロンに戻ろうかと思っていたのだが、まあいいか。最初の授業を始めるとしよう。レオン君の提案にうなずくと、レオン君の実力を見て安心したのか、ヒルダ嬢はサロンへと戻った。そしてキャロは興味を持ったのか、そのまま残るようである。


「もしかしてキャロも興味を持ったのかな? それならボクが教えて……いや、一緒に師匠に習おう」

「……ユリウス、ちょっとだけ見せてもらっても良いかしら?」

「もちろん構わないよ。初級回復薬くらいならすぐに作れるようになるよ」


 こうして二人目の弟子(仮)ができたのであった。同じ貴族の女性が魔法薬師になれば、ファビエンヌも心強いだろう。悪くはないはずだ。ミュラン侯爵夫妻が苦笑いすることになるかも知れないけどね。

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