第429話 ノーコメントで
夕食も何とか無事に終わり、あとはお風呂の順番を待つだけだ。サロンでグッタリしていると、ネロがヒソヒソと声をかけて来た。
「ユリウス様、風魔法まで使っていたのですか? いつの間に」
「いや、ほら、服がぬれていると動きが鈍くなるかなと思ってさ。それに風邪でも引いたら大変だからね」
コクリと一つうなずいたネロ。納得してくれたようである。ファビエンヌは何となく察してくれているみたいだし、もう言わなくても大丈夫かな? そう思っていた時間がほんの少しだけありました。
「今日はみんなで一緒にお風呂に入りませんか? ユリウスが作ってくれた水着を着れば問題ないでしょう?」
「良い考えじゃないかな」
キャロの提案に即座にアクセルが賛同する。その流れるような会話。キミたち、練習したよね? 先ほどの話を追求されたくなかったので、一人でゆっくりと入ろうと思っていたんだけど……。
「そうだね。せっかく水着を持っているんだし、みんなで一緒に入ろうよ」
イジドルが賛成する。どうやら俺から話を聞きたかったのはイジドルも同じだったらしい。イジドルくん、キミが余計なことを言ったのが始まりだったことをうっかり忘れてないよね? 風呂に入ったら沈めなきゃ。
「どうする、ファビエンヌ?」
「そうですわね。みんなで一緒に入りましょう。きっと思い出に残るお風呂になりますわ」
どうかなぁ? 確かに色んな意味で思い出に残るお風呂になりそうだけど……。まあ良いか。口止めはしておいた方が良いと思っていたし、この際だからちゃんと話して、みんなを共犯に仕立て上げることにしよう。
「それじゃ、みんなで一緒に入ろう。それなら準備をしないといけないね」
それぞれが部屋から水着を持って来たところでちょうどお風呂の順番が回ってきた。ミュラン侯爵家の立派なお風呂に到着したら、すぐに脱衣所の真ん中に仕切りを立ててもらう。仕切りの向こうからはファビエンヌとキャロの話し声が聞こえてくる。
対してこちら側は何だかちょっと微妙な空気が流れていた。
「仕切りがあるとは言え、何だか悪いことをしているような気がするな」
「アクセルは何を想像してるんだよ。いやらしい」
「い、いやらしくねえし! 普通だし!」
「キュ……」
ほら見ろ。ミラも怪しいって言っているぞ。顔を赤くしたアクセルが必死に海パンをはいていた。俺たちも遅れないように海パンをはく。イジドルも想像したのか顔が赤くなっていた。つねりたい、そのいやらしい顔。
女性陣よりも先に着替え終わった俺たちは先日設置したシャワーの魔道具で体を洗う。
「やっぱりシャワーの魔道具は便利だね。あるとないのでは大違いだよ」
「そうだな。これが家の風呂にあるんだから、俺たちは恵まれているよなー」
頭を洗いながらアクセルが感慨深そうにそう言った。隣で体を洗っているイジドルも何度もうなずいている。この感じだと、王都でもまだ庶民は広まっていないみたいだな。ハイネ辺境伯領ではすでに庶民へ広がりつつあった。
「もっと普及していると思ったんだけど、ハイネ辺境伯領以外ではまだまだみたいだね」
「そりゃあ、ユリウスのおひざもとだもんね。色んな便利な魔道具がすぐに普及するはずだよ」
「何だったら、王都よりも広まっていそうだしな」
きっとそうなんだろう。でもそれって問題になったりするのかな? ちょっと気になって来たぞ。そんなことを考えている間に女性陣もやって来た。ビキニタイプなので、前回の庭で水浴びをしたときよりも露出が激しかった。
ポカンとアクセルの口が開きっぱなしになっている。イジドルは目を大きくさせて、両手で口元を押さえていた。俺はもう見慣れているので、そこまでの状態にはならないのだが、初めてファビエンヌと一緒にお風呂に入ったときには二人と同じようになった。
「二人とも、そんなにしっかりと見るのはさすがに失礼だよ」
「そ、そうだな」
「ご、ごめんなさい」
二人が前を向く。その間にネロが二人の体に残っていた泡を洗い流した。洗い終わった二人は湯船に向かう。二人の代わりに隣へファビエンヌがやって来た。うん、大きいです。ファビエンヌの隣にはキャロが座った。こっちは……ノーコメントで。
「あとはミラちゃんを洗うだけですか?」
「そうだよ。シャワーの魔道具は自由に使ってもらって構わないよ。時間がかかりそうだからね」
そう言いながらミラをワシャワシャと洗う。気持ちが良いのか大人しくしているが、全身毛だらけなので洗うのが大変だ。毛刈りしておいて良かった。ファビエンヌとキャロは使用人に体を洗ってもらっていた。
俺が洗ってあげたいところだが、さすがにそれをするのはダメそうである。
体を洗い終わった俺たちはそろって湯船につかる。さすがは侯爵家のお風呂なだけあって、全員が一緒に入ってもまだ余裕があった。
「こうやってみんなで一緒にお風呂に入るだなんて、何だか不思議な気分だわ」
「うふふ、ハイネ辺境伯家ではいつもの光景ですわよ」
「そうなのね。うらやましいわ」
キャロとファビエンヌが楽しそうに話している。それを見ながら男性陣は小さく固まっていた。アクセルは気になるのかチラチラと女性陣へ視線を送り、イジドルは見てはならないと思っているのか、いたたまれなそうである。ちょっときつい目つきでこちらを見た。
「あんな水着があるだなんて聞いてないよ」
「庭で着ていた水着じゃ体が良く洗えないだろう? あの水着は体が洗いやすいように工夫してあるんだよ」
「ほぼ下着じゃねぇか」
「大丈夫。下が透けない下着だから」
色も白ではなく、涼しげな青色である。見ているだけで心が晴れやかになってきそうだ。慣れない二人は目のやり場に困っている様子だった。初々しいな。俺は堂々と見させてもらうぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。