第422話 ついでにあれも

 石造りの魔道具工房の中はヒンヤリとしていた。カビ臭かったりするのかな、と思っていたのだが、そんなことはなくカラッとしている。

 良く見ると、冷温送風機の魔道具が置いてあるのが見えた。こちらはどうやら他の領地にも広まっているみたいだ。便利だからね。涼しくて乾燥していたのはこの魔道具のお陰のようだ。


「ミュラン侯爵様からの紹介でやって来ました」


 そう言ってネロが一枚の紙を店員に渡した。いぶかしげにそれを見た店員はすぐに目の色を変えて、店の奥へと下がって行った。戻って来るまでの間、俺たちは職人たちが作っている魔道具を見て回った。


「うちの領地で作られてる魔道具はほとんどないみたいだね。唯一あるのがあの冷温送風機の魔道具か」

「魔道具の設計図はそう簡単には出回らないみたいですね。もっと広がるかと思っていました」

「俺もだよ」


 利権の問題が絡んでいるのかな? 便利な物は早く庶民にも広がって欲しいと思っているのだが、その一方で、希少価値の高い魔道具を持つことがステータスだと思っているお金持ちもいるのかも知れない。迷惑な話だな。


「お星様の魔道具もまだ広まってないみたいだね。あれもう随分前の魔道具だよ」


 思わず苦笑いになってしまった。いつまで高級品にしておくつもりだよ。早く広めて、もっとすごい魔道具に改良してくれた方がこちらとしてはうれしいのだけどね。


「……ユリウスってさ、小さい頃からすごかったんだね」

「そうなんだよ! ユリウス様は始めて会ったときから剣術も強くて、魔法も使えて、何でも知っていて、もうすごかったんだよ」

「ジャイル、落ち着いて」


 イジドルのつぶやきにシンパシーを感じたのか、ジャイルが目を輝かせた。小さい頃から一緒だからなぁ。ユリウスのことなら何でも知っていると思っているのだろう。それはつまり、俺の数々のやらかしも知っているということである。


 暴露大会だけは勘弁して欲しい。そんなことをすればイジドルが引くと思う。ジャイルにこれ以上何も言うなよという視線を送りつつ見学していると、奥から丸い眼鏡をかけた白髪の人物がやって来た。柔らかい笑顔を浮かべている。


「お話はミュラン侯爵様からの手紙で知っておりますよ。私はこの工房の工房長です。準備はできておりますよ。さあ、こちらへどうぞ」


 案内されて向かった場所は工房の片隅にある小さな場所だった。だが、色んな道具がそろっており、魔道具を作るのには問題ない。ここは魔道具を作るスペースというよりも、魔道具を開発するスペースなのかな? 道具だけじゃなく、色んな部品や金属が置かれている。


「この場所を使って下さい。少し狭いですが、ほとんどの物がそろっています」

「ありがとうございます。これだけの広さと物があれば大丈夫です」


 そう言うと工房長は笑顔を浮かべて戻って行った。ようやくこれで魔道具が作れるぞ。先日作った保存容器の魔道具は魔法陣を組み込んだだけだからな。魔道具なんだか、とても簡単な作りだったので歯ごたえはない。

 だがしかし、今日は違うのだ。


「魔道具を作っている間、みんな暇だろう? 好きなところに行って来て良いよ」

「私はユリウス様のそばについています」

「ボクもここにいるよ。ユリウスがどうやって魔道具を作っているのか見てみたいからね。前に作った氷室じゃ、巨大すぎで良く分からなかったからね」

「俺たちもここにいます」


 どうやら全員が工房に残ることにしたようだ。自由にしてもらっても良かったのに。ちょっと申し訳ないな。残りの時間で領都をあちこち探索できるように、全力で作ろう。

 シャワーの魔道具が二個、ついでに散水器の魔道具も作る。これがあれば、薬草園の管理が楽になる。


 あとはお世話になっているミュラン侯爵家のために、お星様の魔道具のスペシャル版を作ろうかな。何とビックリ。星空が自動で回転するようにするのだ。楽しくなるぞ。


「良し、ちょっぱやで作るぞ」


 俺のちょっぱや発言にみんなが首をひねっている間に魔道具を作る。何度も作っている魔道具なので慣れたものである。『クラフト』スキルを使って鉄板をひん曲げて、魔法陣を描いていく。それらをパパッと組み合わせれば完成だ。


「は、早すぎて参考にならない! こんなに作るのが早いの?」

「どうやら本気で作っているみたいですね。先ほどの”ちょっぱや”は”ものすごく早い”という意味合いだったのでしょう」

「さすがはユリウス様だ」

「ユリウス様なら魔道具師でもやっていけそうな気がする」


 何だか外野がうるさいような気がする。だがゾーンに入っている俺は、ペースを崩さないためにも反応しないことにした。散水器の魔道具は二つにしよう。あの芝生に置いてもらえれば、俺がいなくても水浴びができるはずだ。


「よし、完成したぞ」

「お疲れ様でした。何だかお星様の魔道具の形がいつもと違うようですが……?」


 お星様の魔道具がいつもとは違う台座の上に乗っていることに気がついたネロ。不思議そうに首をかしげている。この違いが分かるとは。さすがはネロだ。良く見てる。


「改良して星空が勝手に動くようにした。そろそろ進化も必要なんじゃないかと思ってね」

「進化……このままユリウスが魔道具を進化させたら、とんでもないことになりそうだね」


 引きつった笑顔を浮かべるイジドル。ジャイルとクリストファーは目を輝かせていた。どうやらまた忠誠度がアップしたようである。そろそろマックスになるんじゃないかな。そしてみんなの後ろの職人たちがいることに気がついた。いつの間に。


 だがしかし、どこかの貴族の子供だと分かったのだろう。声をかけてくる者はいない。

 それもそうか。こうやってお供の子供たちが囲んでいるからね。普通の子供じゃないことくらいすぐに分かるか。


 騒ぎに気がついたのか工房長もやって来た。そしてそこに並んでいる魔道具を見て驚いた。何度も俺と魔道具を見比べている。


「工房長、お世話になったね。作りたい物は作り終わったから、これで失礼するよ」

「あの、これをお一人で作り上げたのですか?」

「そうだよ。どれも作り慣れているからね。これくらいならすぐにできるよ」

「ユリウス、さすがにそれは無理なんじゃ……」


 イジドルがそう言うと、他の三人もウンウンとうなずいている。そうかも知れないが、ここはそうだということにして、話を合わせてくれるのが友達じゃないのだろうか。そうでないと、また俺がやらかしたことになっちゃう。


 完成した魔道具をみんなに持ってもらい、魔道具工房をあとにした。ここからは領都観光タイムだ。五人そろって遊ぶぞ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る