第418話 雷魔法

 都合が良いことに、雷魔法は遠距離でも発生させることができる。そのため、俺たちを囲んでいる騎士を巻き込まなくてすむ。『探索』スキルでビッグエイプの位置を確認し、一度で倒せるように効果範囲を設定する。


「ユリウス、何するつもりなの?」

「もちろん、ビッグエイプを倒すんだよ」


 どうやらキャロは俺がうっすらと魔力を放出していることに気がついたようだ。さすが『魔力感知』スキルを持っているだけはある。イジドルも何かを察したのか、俺を驚愕の瞳で見ていた。何で?

 疑問に思っている間にビッグエイプたちが次々と効果範囲内に入っていく。今だ!


「ライトニングショット!」


 破裂音と共に閃光が走った。それは的確にビッグエイプたちを追いかけていき、次々と着弾する。近くの魔物に連鎖するライトニングショットの魔法は集団戦では非常に使い勝手が良かった。


 倒しきれなかったビッグエイプが地面に落ちてピクピクしている。しびれて動けなくなっているのだ。追撃するなら今しかない。


「落ちてきたビッグエイプにとどめを刺してくれ! 木の上にはもういない」


 俺が叫ぶと、はじかれたように騎士たちが動き出した。その中にアクセルの姿がないなと思ったら、俺と同じようにキャロに腕を抱きしめられて動けないでいるようだ。


 うーん、これは今後の課題だな。何か問題が起きたときに腕をつかまれると動けない。何とかそれをやめさせなければならないだろう。そうでなければ戦えない。

 動けないビッグエイプはいともたやすく倒され、魔石へと変わっていった。


「ユリウス様、今の魔法は?」

「ユリウス、今の魔法、何?」


 ファビエンヌとイジドルがほぼ同時にそう言った。まあ、気になるよね。今さら隠せるはずもないので、どんな魔法なのかを説明する。雷魔法だということを話した時点で、周囲がざわめきたった。

 気がつくと、その場にいた全員が俺の話に耳を傾けている。もしかしなくても大変なことになっちゃってる?


「雷魔法だなんて聞いたことがないよ。それってボクも使えるかな?」

「練習すればたぶん使えるようになるんじゃないかな?」


 確信はないが、これでイジドルが雷魔法を使えるようになれば、俺の存在が目立たなくなるだろう。そのためにもイジドルには頑張ってもらわないといけないな。やる気に満ちあふれたイジドルに対し、俺が何を考えているのかを察したのか、アクセルはかわいそうな人を見るような目でイジドルを見ていた。


 他にも同行していた魔導師が習いたいと手を上げたので、ミュラン侯爵家に戻ったらまとめて教えることにした。これで俺以外に雷魔法を使える人物が現れなかったら、ちょっと問題になるな。何としてでも教え込まないと。


「ユリウス様、魔石の回収が終わりました。いつでも出発できます」

「そうか。それじゃ急いで戻るとしよう。他の魔物がこちらへ向かっていたら、また面倒なことになるからね」


 なぜだか分からないけど、俺がこの場を取り仕切ることになっているようだ。最初のころはミュラン侯爵家の騎士団長が仕切っていたのに。どうしてこうなった。

 ハイネ辺境伯家に戻ったら、また武勇伝として語られることになるんだろうな。何だかため息をつきたくなってきた。


 その後は問題なくミュラン侯爵家へと帰って来ることができた。最短距離を進んだので、森の中にいた時間はそれほどでもなかったのだが、なかなか濃い時間だった。

 屋敷で俺たちを出迎えてくれたのはミュラン侯爵夫人だった。


「みんな無事に戻ってきたみたいね。良かったわ。何か問題でも起きていたらどうしようかと思っていたのよ」


 屋敷を出たときと同じ様子で戻って来た俺たちを見て夫人は安心しているようだ。でも、実は色々とあったんだよね。どうするのかな。まさか俺が報告することにはならないよね? 報告するならキャロか、ミュラン侯爵家の騎士団長だろうと思ってキャロを見ると、キャロはキャロでこちらを見ていた。ナンデ!


 沈黙する俺たちを不審に思ったのか、夫人が首をかしげ始めた。これはまずい。このままスルーするのなら、今すぐこの場を立ち去るべきだろう。だが、そうは問屋が卸さなかったようだ。この空気に耐えきれなくなったのか、それとも責任感からなのか、ミュラン侯爵家の騎士団長が魔物に襲撃されたことを話した。


 当然のごとく絶句する夫人。すぐに俺たちは医務室へと送られた。何ともないとキャロが説明したのだが、相当あたふたしていたのだろう。夫人はキャロの意見を聞き入れることはなかった。客人である俺たちは素直にそれを受け入れるしかなかった。


「ねえ、何ともないんだけど、いつまでベッドで寝てなきゃいけないの?」

「俺も聞きたい。早く苗を薬草園に植えなきゃいけないのに。鮮度が、鮮度が大事なのに……」

「まさかこんなことになるなんてな。でもミュラン侯爵夫人のあの真っ青な顔を見たら、さすがに断れないと言うか、何と言うか」


 口を濁すアクセル。彼女のお母様なだけに強く批判はできないのだろう。もうすでに結婚する気満々だな。そうなると、キャロはアクセルのところに嫁ぐことになるのかな? アクセルの家は騎士爵を持っていて、王家専属の騎士団に所属しているから、身分は問題ないのかな。良く分からん。


 それから何度も診察をされてようやく解放されたころには、辺りはすっかりと闇に包まれていた。計画がパーではないか。どうしよう。夫人からは何度も謝られ、お礼の言葉をもらった。何だかこちらが申し訳ないくらいである。


 全然気にしてませんよーとは言ったものの、あの様子は随分と気にしている感じだった。何とかして”本当に気にしてませんよ”アピールをしないといけないな。だがそれよりも。


「ネロ、夕食まではあとどのくらい時間がある?」

「あと一時間ほどです」

「よし、なら超特急でやれば何とかなるな」

「超特急? まさかユリウス様……」

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