第410話 森へ行く許可をもらう

 夕食の時間になった。ミュラン侯爵家の使用人に案内された先は、一同が会することができるほどの大きな食堂だった。そこにはもちろん、アクセルとイジドルの姿もある。


 今日聞いた話を総合すると、どうやらアクセルとイジドルはキャロのお友達枠として、ここへ来ているようだ。王城では騎士と魔導師に混じって訓練をしているものの、平民の出である二人がこの場にいるのはそう言った理由のようである。


 これはもしかしなくても、ミュラン侯爵はキャロとアクセルの関係を知っているのだろう。その上でアクセルを迎え入れているのならそう言うことなのだ。気がついていないのは当の本人たちだけ。何だか巻き込まれたイジドルがかわいそうな気がしてきた。ドンマイ。


 和やかな夕食が始まり、ひとしきり話が終わったところで薬草園のことを切り出した。話を聞いたミュラン侯爵は大いに悩んでいた。やはりみんなで行くというのがネックになっているようだ。


「庭に薬草園を作るのは問題ないのだが、薬草の苗とやらを採りに行くのはどうにかならないかね? 魔物の数が以前の水準に戻って来ているとはいえ、何かあっては困るからな」

「あら、あなたはご存じなくて? ユリウスくんはワイバーンを倒せる実力者なのよ。フォレストウルフくらいなら指先一つで倒せるわよ」


 すごい偏見だが、間違ってはいない。指先どころか、その場から動かなくても倒すことができる。やらないけど。そんなことをすればイジドルがどんな魔法を使ったのか教えてくれと詰め寄って来ることだろう。


 ワイバーンを倒した話はみんなにしたことがあるけど、まさか夫人にまで伝わっているとは思わなかった。もしかして、夫人は色んな話を集めているのかな? 人生に刺激が足りていないのかも知れない。


「否定しないところを見ると、本当に指先一つで倒せるみたいだな」

「やだなーアクセルくん。そんなことないよ?」


 笑顔で否定したのだが、みんな納得していない顔をしていた。どうして。

 まあこれで、一応の筋は通したことになる。ダメだと言われたならしょうがないね。みんなと一緒に行くのはあきらめるしかない。計算通り。


「あ、ユリウスがニヤリとしてる。あの顔は自分一人で行くつもりの顔だよ!」

「どんな顔だよ、イジドル! そんな顔、してないからね」

「イジドルさんの言う通りですわ。あの顔は何か悪巧みをしているときの顔ですわ」

「ふぁ、ファビエンヌまで! ソンナコトナイヨー」


 半眼のファビエンヌにジロリとこちらを見たので慌てて目をそらす。大丈夫。まだバレてない。ネロの方をチラリと見ると、こちらも半眼で俺の方を見ていた。大丈夫じゃないかも知れない。

 うーん、とミュラン侯爵がうなる。


「いくらユリウス殿が強いとは言え、さすがに一人で行かせるわけにはいかない。仕方がない。ミュラン侯爵家の騎士も共に連れて行くという条件付きで許可しよう」

「ありがとうございますわ、お父様!」


 キャロの満面の笑みにミュラン侯爵が相好を崩した。どこの家も娘には弱いようである。我が家もみんなロザリアには弱い。


 これはどうやらみんなで森へ行くことになりそうだ。しっかりと計画を立てなければいけないな。苗を入手するまでにはまだしばらく時間がかかりそうである。その間に薬草園の準備をしておこう。


 森へ行く計画は騎士団が考えてくれるそうである。これなら安全が確保されたルートを進むことができる。みんなの安全も確保されるだろう。

 その後は夫人と相談して、どの場所に薬草園を作るかを話した。


「ユリウス殿に一つお願いがあるのだが、聞いてもらえるかな?」

「もちろんですよ。何なりとどうぞ」

「うむ。専属の魔法薬師を雇おうと思っているのだよ。それで、その魔法薬師に手ほどきをしてもらえないかと思っていてね」


 やっぱりそうか。どうやら俺の見立ては間違っていなかったようである。これなら薬草園も無駄にはならないな。足りない機材もそのうち買ってもらえることだろう。

 しばらくお世話になるのだ。教えることについてはやぶさかでない。


「もちろん構いませんよ。私の力がどこまで役に立つのかは分かりませんが、精一杯やらせていただきます」

「ハッハッハ、何を言う。ユリウス殿が優れた魔法薬師であることは、アクセルとイジドルから聞いているよ」


 バッとアクセルとイジドルを見た。二人はそろって同じ明後日の方向を見ている。あとで二人には説教だな。俺のことをどこまで話したのか、小一時間ほど問い詰めなければならない。ついでにアクセルとキャロがどのくらいまで進んでいるのかも聞いておこう。

 まさか、俺たちよりも先に進んでないよね?


「その魔法薬師はどのような方なのですか?」

「私の息子だよ。今は王都の学園に通っていてね。夏休みを利用してこちらへと戻ってくることになっている」

「レオンは真面目でおとなしい子なんだけど、友達を作るのが苦手なみたいなのよ。仲良くしてもらえるとうれしいわ」

「もちろんですよ」


 聞いた話によると、ミュラン侯爵家は二男二女だそうである。長男は現在、外交官として働いているらしい。ヒルダ嬢は東の辺境伯のところに行っているようだ。たぶんそのまま輿入れするのだろう。


 次男のレオン殿はカインお兄様と同じ年齢で、王都の学園に通っている。キャロは王都と領都を行ったり来たりしているようだ。そしてその移動の護衛として名乗りを上げているのが、どうやらアクセルとイジドルらしい。イジドルは巻き込まれたみたいだけどね。

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