第409話 ミュラン侯爵夫人
キャロの話を聞いた限りでは、ミュラン侯爵が屋敷に戻ってくるのは夕方になるようだ。それなら相談するのは夕食のときになるかな?
訪ねて来た初日から問題行動を起こすとは、さすがのミュラン侯爵でも思っていないことだろう。
根回しとして、キャロのお母様に話を通しておくか? うん、それが良さそうだな。
「キャロ、先にミュラン侯爵夫人に話をしておこうと思うんだけど、どうかな?」
「もちろん構いませんわよ。お母様を味方につけることができれば心強いですものね」
どうやらどこの家でも夫人の力は強力なようである。貴族のお父様方はどこも尻に敷かれているのかな?
そんなわけで、みんなでそろって夫人のところへと向かった。俺たちだけで大丈夫だと言ったのだが、「何だか面白そうだから」という謎の理由でみんなついてきた。
キャロの案内で夫人の部屋へと向かう。いいのかな、直接部屋に訪れても。まずはサロンに誘うべきかな?
そんなことを思っている間にもキャロはズンズンと屋敷の中を進み、幾何学模様の美しいレリーフが施されている扉をたたいた。
「お母様、大事なお話がありますわ。入ってもよろしいでしょうか?」
「あらあら、ようやく覚悟を決めたようね。もちろんよ。入っていらっしゃい」
「お母様! 一体、何のお話ですの?」
あー、キャロ、それはキャロとアクセルが懇ろな関係になるという話だと思うよ。もしかしてキャロもアクセルと同じく、まだだれにもバレてないと思っているのかな? 甘い、甘いよキャロ。朝摘みのトウモロコシよりも甘いよ。
心当たりがあるのか、アクセルの顔が真っ赤になっている。それをイジドルが必死で見ないようにしていた。あ、ほほがピクピクしてるぞ、イジドル。
「あらあら、皆さんそろって。よく来て下さいましたわ。えっと、一緒に結婚式を挙げたいと言うお話かしら?」
「違いますわ、お母様! いい加減にそのお話から離れて下さいませ」
どうもかなりマイペースなお母様のようである。普段はおとなしいキャロが必死になってる。珍しいものが見られたな。いやいや、そんな感慨にふけっている場合じゃないな。
「ミュラン侯爵夫人、実はお願いがありまして……」
自分の計画をミュラン侯爵夫人に話す。夫人は俺の言葉を遮ることなく、静かに聞いてくれた。そしてずっと笑顔を浮かべていた。大丈夫かな? ドキドキしながら夫人の返答を待った。
「いいじゃない。やりなさい。ユリウスくんがとんでもないことをする子だとは知っていたけど、さっそく本領を発揮してくれるのね。うちの子は良くも悪くもおとなしい子ばかりだから、ちょっと退屈だったのよ」
「ああ、えっと、ありがとうございます?」
これ、褒められているのかな? ファビエンヌが苦笑いしているし、たぶん違うような気がする。だがそれはそれ、これはこれ。とにかく薬草園を作る許可をもらうことができそうだ。残すは植物の苗を採りに行けるかだな。
最悪、騎士たちに採ってきてもらうことになるのか。こんなことなら、ハイネ辺境伯家の薬草園を警備している騎士を連れて来れば良かった。なぜか栽培関係のスキルが生えている人がいるんだよね。
ミュラン侯爵夫人からの支援を受ける約束を取り付けた俺たちは先ほどのサロンへと戻った。そこへネロがやって来た。ナイスタイミング。
「薬草園は作ることができそうだよ。そっちはどうだった?」
「ライオネル様がかなり難色を示していましたが、ダメだと言ったら勝手に採りに行くだろうからと言って、渋々、許可を下さいました」
「……」
それを聞いたみんながウンウンとうなずいている。こんなとき、どんな顔をすれば良いんだろう。俺ってみんなからそんな風に見られていたのか。ふ、ふーん。ミラは一緒に外にお出かけできると分かったようで、キャッキャと喜んでいた。今はミラだけが心の癒やしである。
「そうと決まったら、俺も行くぞ。な、イジドル?」
「え、ボクも? いや、別に良いけどさ」
「アクセル、無理やり連れて行くのは良くないぞ。別にみんなで行く必要はないし、行きたい人だけで行けば良いんじゃないかな?」
危険度が低いとは言え、魔物が住む森の奥地まで行くのだ。それなりの覚悟が必要だ。俺としては一人で行く方がとても楽なのだが、ライオネルが一緒に行くと言うのならしょうがない。
「それでは私も一緒に行きますわ」
「え? ちょっとファビエンヌ、本気なの?」
「もちろんですわ。まさか私だけのけ者にするつもりではありませんわよね?」
あう、ファビエンヌににらまれた。俺が余計な一言を言ってしまったばかりに……俺はただイジドルに助け船を出そうとしただけなのに。
その後はネロとイジドルが参加を表明し、最後にキャロも一緒に行くと宣言した。これはまずい。
「キャロ、さすがに一緒に行くのは無理なんじゃないかな?」
「どうしてですか? ファビエンヌも行くのですよ。私だけお留守番するのは嫌ですわ」
「ほら、キャロにはミラのお世話を……」
「キュ、キュー!」
どうやらミラも一緒に行くつもりのようである。必死の形相で俺にしがみついた。これはもうダメだな。ミュラン侯爵に話したら許可が下りないパターンだ。どうしよう。
まあでも、ダメ元で言ってみるしかないんだけどね。
ダメだと言われたら、こっそり一人で森に行くことにしよう。
いや待てよ。もしかして、ダメだと言われた方が良いのではないか? 一人で気兼ねなく森を散策し、よさげな苗をゲットする。久しぶりの完全なる自由を満喫することができるぞ。
……うん、確かにみんなの思った通りだな。
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