第411話 二人の関係
何とか話もまとまり、まずまずの成果をあげて夕食は終わった。夕食が終わると次はお風呂の時間である。このチャンスを逃さずに、アクセルとイジドルと一緒にお風呂に入って、問い詰めようと思う。
そう思っていたんだけど、ちょっと想定外の出来事が起きた。
「え、ファビエンヌも一緒にお風呂に入るの?」
「そうですわ。水着も持って来ていますし、問題はないでしょう?」
ファビエンヌの瞳が不安そうに揺れた。一人で不安なのだろう。頼れるのは俺しかいない。対して俺は、元からアクセルとイジドルと仲が良いし、キャロのことも知っている。ファビエンヌが本当の意味でみんなと仲良くなるまでにはもう少し時間がかかるだろう。
「分かったよ、ファビエンヌ。一緒にお風呂に入ろう。ネロ、お風呂の時間を調べてきてもらっても良いかな?」
「あと三十分後になります」
サッと懐中時計を取り出して時間を確認するネロ。どうやらすでにスケジュールは把握済みのようである。いつの間に。夕食の時間の間に調べていたのかな? さすがはネロ。
時間が来るまでの間に水着を準備する。持って来て良かった。ミュラン侯爵家の道のりではあまりお風呂に入る機会がなかったからね。せっかくなので堪能しよう。
お風呂の時間がやって来た。もちろんファビエンヌと一緒にお風呂に入る。慣れた手つきでハイネ辺境伯家から一緒に来ている使用人が、俺とファビエンヌの間につい立てを立てた。
見えないと分かっていてもチラチラと見てしまうのが男の性である。それを見たミラが”自分は行けますが何か?”みたいな顔でファビエンヌの方へと向かった。ぐぬぬ。
先に着替え終わるとネロと一緒にお風呂場に入った。広さはハイネ辺境伯家のお風呂場とほとんど変わらないな。もしかすると、お風呂の基準があるのかも知れない。
「シャワーの魔道具はなさそうだね。まだ広まっていないのかな?」
「どうやらそのようですね。素晴らしい魔道具だと思うんですけどね」
「宣伝方法が口コミしかないからね。広告とか出せたら良いのに」
「広告?」
「あ、いや、こっちの話だよ」
広告を出そうと思ったら活版印刷の技術が必要だ。手描きで紙に書くのでは効率が悪すぎる。これだけ色んな魔道具があるのだから、印刷の魔道具があってもおかしくないんだけどな。どうしてないのかな?
ああ、なるほど。識字率があまり高くないのか。文字を読める人が少なければ、紙に書いた文字の価値は低いからね。そこはこれからの制度の発展に期待するしかないな。子供が全員学校へ通えるようになれば、自然と識字率もあがるはず。
そんなことを考えていると、ファビエンヌがミラを抱えてお風呂場に入ってきた。一緒にいる使用人も、もちろん水着を着用している。これなら目のやり場に困ることもない。でもやっぱりチラチラ見てしまうんだけどね。
グルリとお風呂場を見渡したファビエンヌが声を落として言った。
「シャワーの魔道具はありませんわね」
「キュ」
「そうみたいだね。あ、髪の毛を洗うときは俺が手伝ってあげるよ。こう見えても魔法で水を出すのは得意なんだよ」
「あら、それならお願いしますわ。ユリウス様は本当になんでもできますのね」
今度はうれしそうな声色になった。どうやらビンゴだったみたいだ。ファビエンヌの長い銀色の髪を洗うのは大変そうだからね。魔法でシャワーのようにお湯を出せば比較的楽に洗うことができるだろう。
さっそくファビエンヌの髪の毛を洗うことにした。使用人に手伝ってもらいながら洗う。どうやら道中でまともに髪を洗うことができなかったようである。キレイな髪だと思っていたけど、思った以上に洗い水が濁っていた。もちろん今はツヤツヤに輝いている。
「ユリウス様はお上手ですわね」
「まあね。道中でも頭や体を洗うときに使っていたからね」
「あの……今度からは道中でも一緒にお風呂に入ってもよろしいでしょうか?」
「ふぁ、ファビエンヌが良いのなら俺は別に構わないけど……」
良いのかな? 着替える場所がない場合もあるんだけど。そうなると、当然のことながら、水着に着替える場所もないわけで。髪の毛を洗ってスッキリしたファビエンヌが隣にピッタリと寄り添った。本当にこの世界の住人は発育が早くて色々と困る。
「シャワーの魔道具を設置するべきかなぁ?」
「それは良い考えだと思いますが、魔道具を作るための道具がないのではないですか?」
「そうなんだよね。道具もなければ作業場所もない。それだけのために用意してもらうのはもったいないからね。どうしたものか」
「そうですわ! 領都にある魔道具工房をお借りすれば良いのではないですか?」
「なるほど、その手があるね。あとで相談してみよう」
うれしそうにするファビエンヌ。ほんと、俺の嫁はかわいいなぁ。
お風呂からあがりサロンへ向かっている途中で、アクセルとイジドルにバッタリと出くわした。ホカホカの俺とファビエンヌを見て、目と口がこれまで見たことがないほど開かれている。大丈夫かな?
「ゆ、ゆ、ゆ、ユリウス、まさか……」
「うん。一緒にお風呂に入ってきたところだよ」
「ちょ、お前、何というけしからんことを……」
「けしからんって……お互いに水着を着ているから問題ないよ」
「水着?」
顔を真っ赤にした二人に水着がなんたるかを説明してあげる。説明を聞くうちに二人の顔も元に戻ってきた。なぜか安心したかのように胸をなで下ろしている。二人の中で俺の評価がどうなっているのか、非常に気になる。
「なんだ、そう言うことか。今度その水着ってやつを見せてくれないか?」
「もちろん構わないよ。それを着ればみんなで一緒にお風呂に入ることもできるかも知れないね」
「みんなで一緒に……」
何を想像したのかなんとなく分かるが、アクセルの顔が赤くなった。これは相当、ほれ込んでいるな。問い詰めるなら今しかない。
「ところでアクセルくん。キャロとはどこまで進んでいるのかな?」
スッと半歩ほどアクセルに近づいた。サッとアクセルが顔を背けた。これはやましいことがあるときの反応だ。隣のイジドルが目尻を下げて、困ったように両手をあげている。
どうやらアクセルは認めたくないようだな。ここはキャロのためにも、ハッキリさせてあげるのが友達だろう。
「な、何を言っているのかサッパリ分からないな? なあ、イジドル?」
「どこまで進んでるの?」
「な! まさかの裏切り!」
イジドルの返しは予想外だったのだろう。クワッと目を大きくしたアクセルがイジドルを鬼でも見るかのような目で見ていた。その様子に苦笑いするイジドル。
「裏切りじゃないよ。もういい加減に観念したら? たぶんみんな気がついてるよ」
「キャロもまだ気がつかれていないと思っているみたいだけどね」
「お二人とも良く似ておりますわね」
ファビエンヌがクスクスと笑っている。まさに似た者夫婦だな。ピッタリなんじゃないの? 代わる代わる俺たち表情を見たアクセルの肩がガックリとうなだれた。うん、完全勝利。
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