第402話 道中の情報収集

 東の地までは王都を経由して行くことになっている。その方が道が整っているし、途中で物資の補給もしやすいからだ。

 馬車にはもちろん、そこそこの数の魔法薬を積んでいる。俺を呼んだということは、向こうで魔法薬が作れるようになっていると思うのだが、念のためである。


 今回の旅は護衛としてジャイルとクリストファーも一緒である。二人にとっては初めての長旅のようであり、ちょっと興奮気味である。


「見て下さい、煙が見えてきましたよ。あそこが有名な温泉の町ですね」

「あれがそうか。ユリウス様が救ったという……」


 クリストファーとジャイルが感慨深そうに見ている。いつの間にそんなウワサが広がっているんだ。別に内緒というわけではないが、広めて欲しいとは思わないんですけど。

 そんなことがありながらも王都に到着した。王都のタウンハウスで一泊すれば、そこからは初めての土地に足を踏み出すことになる。


「ファビエンヌ、体に異常はないかな?」

「ええと、まあ、その……お尻が痛いです」

「それは大変だ。クッションを追加してもらおう」


 ファビエンヌのお尻が二つに割れたら困るからね、なんて冗談が言えたら良かったのだが、軽蔑の目で見られそうなのでやめておいた。

 ここまでの旅は順調と言えるだろう。問題はここからだ。魔物の氾濫の被害がどのくらい出ているかだな。


 クッションを追加し、補給を終えた俺たちはいよいよ東の地へと足を踏み入れた。初日は特に問題はなかったのだが、翌日から道がどんどん悪くなっていく。舗装された道がでこぼこ道へと変わっていったのだ。それでも道があるだけまだ良い方だろう。


「ものすごく、揺れますわね」

「そうだね。次の休憩で酔い止めを飲んだ方がいいね」

「そうしますわ」


 ファビエンヌの顔色が悪い。道が悪くなっているのは魔物の氾濫が原因なのだろうか。ライオネルに聞いてみると、その可能性が高いと言っていた。ライオネルに言われて注意深く観察してみると、ところどころで木の枝が折れていたり、樹皮に何かの爪痕が残っていたりしているのを見つけることができた。


 どうやら獣系の魔物があふれかえったようである。森の中でそれらの魔物を討伐するのはさぞかし大変だったことだろう。手紙には書かれていなかったようだが、かなりの被害を受けたのかも知れないな。目を塞ぎたくなるような状況になっていなければいいんだけど。


 馬車の速度が落ちる。生き残りの魔物が潜んでいるかも知れない。ライオネルがそう判断して、慎重に進むことにしたようである。ファビエンヌの顔にも疲労の色が見えてきた。この辺りでしっかりと休息をとっておいた方が良さそうだ。


「ライオネル、次の場所で一日休もうと思う」

「分かりました。ユリウス様の仰せのままに」


 ライオネルがそのことをみんなに伝えるとうれしそうな声が上がっていた。俺たちだけではなく、騎士たちも随分と疲労が蓄積していたのだろう。

 到着した場所は小さな町だった。ギリギリ村ではない感じである。その証拠に、宿屋だけでなく、食堂や、道具屋、冒険者ギルドの支店もあった。小さいけど。


 何とか人数分の部屋を確保することができたようである。大部屋はうちの騎士たちばかりであり、半ば占領した状態になってはいたが。


「ゆっくりしておくといいよ。俺はちょっと町を見学してくるからさ」

「ユリウス様は旅慣れしておりますのね。気をつけて行って来て下さいね」


 念のため、ファビエンヌにミラを預けておく。何かあったらすぐに指輪で連絡するように言ってある。これで大丈夫なはずだ。……いや、不安だ。二人にバレないようにこっそりと魔法を使っておこう。


「キュ?」

「心配ないよ。ミラ、ファビエンヌを頼んだよ」

「キュ!」


 手を上げて答えるミラ。どうやら俺が魔法を使ったことに気がついたようだが、害のある魔法ではないと分かったようである。大人しく俺の言うことに従ってくれるようだ。

 ジャイルとクリストファーを連れて外に出た。さすがは騎士団で鍛えているだけあって、まだ大丈夫そうである。


「ユリウス様、どうなさるおつもりですか?」

「ちょっとこの辺りの状況を聞いておこうと思ってね」


 ミュラン侯爵家に到着すれば色んなことが分かるのだろうが、現地での話も聞いておきたい。それにこの辺りの素材の分布も知りたいところである。

 お店の人から話を聞くことができたものの、冒険者ギルドから話を聞くのは無理だった。子供だからしょうがないか。


「この町にも魔物が来たって言ってましたね」

「うん。町に冒険者ギルドがあったからどうにかなったみたいだけど、周辺の村では死人も出たみたいだね」

「魔物は北東から来たって言ってましたね」


 地図で確認すると、その辺りもまだ森が続いているようである。この森のどこかが魔境になっているのか。明確な境界線がないのだとすると、素材採取に行くのは難しいかな? あとでライオネルに冒険者ギルドで確認するように頼んでおこう。


 宿に戻り、ファビエンヌとミラに顔を見せると、その足でライオネルを探す。どうやらライオネルも町に出て情報収集をしているようだった。戻って来たところで、お互いに情報交換をすることにした。


「と言うことなんだ。ライオネルはどうだった?」

「ほぼ同じ内容ですね。どうも広範囲に魔物が移動したようで、あちこちで被害が出ているみたいです。それで魔法薬が不足しているそうです」

「ここでもそうなのか。言われてみれば商店に魔法薬がなかったような気がするな」


 どうやら魔法薬が不足しているのはミュラン侯爵領だけではないようだ。東の地一帯が魔法薬を必要としているようだ。近くの森にある素材についてライオネルに相談すると、すぐに冒険者ギルドで情報を集めてくれることになった。近場の森で薬草が採れると良いんだけど。

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