第399話 はしゃぐ騎士たち

 俺は昼に食べたハンバーガーもどきのことを料理長に話した。料理長も知っているらしく、その発想が出なかったことを悔しがっていた。

 そんなわけで、俺はそれに揚げたポテトもつけたら良いんじゃないかなと提案してみた。


「ふむ、じゃがいもを細く切って揚げるですか。そうですね、試しにやってみましょう」


 料理長がキビキビと準備を始めた。さすがに油は危ないということで調理場には立ち入らせてもらえなかった。その代わり、休憩室で待たせてもらっている。当然のように、ファビエンヌがミラにドライフルーツを食べさせていた。


「ミラ、もうすぐ夕食だから食べ過ぎないようにね」

「キュ」


 そんなことしないよと言っているのか、ちょっと目をつり上げるミラ。そういえばミラってかなり胃袋が大きいみたいなんだよね。いくらでも食べられそうな感じだ。いや、そもそも聖竜に胃袋なんてあるのか? 食べた先から毛を伸ばすのに消費されているのではないだろうか。


 そんなことを思いながらミラを観察していると、料理長がポテトを持って来た。すでに試食したようであり、顔がほくほく顔になってる。それだけおいしかったのか、それとも、新しい料理が完成してうれしいのか。もしかして、両方ですか?


「完成しましたよ。さすがはユリウス様。素晴らしい発想です。調理場でもすでに大人気ですよ」


 目の前にホカホカのポテトが持って来られた。もちろん俺のオーダー通り、味付けは塩のみである。それも有名な岩塩を使ってもらっている。黄金色のそれを見て、ミラが体を乗り出した。この食いしん坊め。


「キュ、キュ!」

「ハイハイ、みんなで試食しようね~。うん、うまい。予想以上のうまさだ。さすがは料理長」

「ありがとうございます」

「それでは私も失礼して」


 ファビエンヌがお皿に手を伸ばした。遠慮してはいるものの、お皿をガン見していたネロにももちろん食べさせてた。どうも気に入ったようであり、目をつぶって味わうように食べている。まだ食べたいのなら追加で頼むので遠慮なく食べて欲しい。夕食前だけど。


「さっそく本日の夕食の席で出したいと思います」

「楽しみにしているよ」

「あの、良ければ私にも作り方を教えていただけないでしょうか? 両親にも食べさせてあげたいですわ」

「もちろんですとも。すぐにレシピをお持ちしますよ」


 上機嫌の料理長が試食室から出て行った。これでアンベール男爵家でもポテトが食べられるな。それだけファビエンヌも気に入ったということである。また一つ、つまらぬものを作ってしまった。なお、ポテトは領内で大人気になったことをここに記載しておく。


 小腹を満たしたあとは腹ごなしのために騎士団の宿舎へと向かった。訓練するためではない。はっ水剤の効果を確かめるためである。


「幌馬車とテントに塗ったはっ水剤が乾いたみたいなんだよ。どのくらいの性能なのかを見に行かないとね」

「うまく機能してくれたら良いのですが……ちょっと心配ですわ」

「大丈夫、大丈夫。ファビエンヌが作った魔法薬なら問題ないよ」


 騎士団の宿舎に到着して絶句した。屈強な騎士たちが庭師から借りてきたのであろうじょうろで二階の窓から人工的に雨を降らせていたのだ。そしてその下では幌馬車とテントに入った騎士たちがはしゃいでいる。ちょっと他では見せられない光景である。


「えっと、何これ?」

「これはこれはユリウス様! 幌馬車とテントに施されたはっ水剤の効果を確かめているのですよ」

「これは素晴らしい魔法薬ですよ! あの時間のかかるロウを塗る作業をしなくても良いだなんて。それに塗っても重くならないし、通気性もそのまま。これで蒸し暑い季節でもあせもができなくてすみますよ!」


 うわ、なんかすごいことになっているな。こんなことなら早いところ作ってあげれば良かった。期待通りに通気性は確保されているようである。布のテントでも十分な効果があったか。


「しっかりと水をはじいているようですわね」

「そうみたいだね。これでみんなの負担も軽くなるかな? あとは持続時間の問題か。布に水が染み込んできたらすぐに塗り直せるように準備しておこう」

「それが良いですわね」


 騎士たちが楽しそうに虹を作っている光景を三人でしばらく見つめていた。

 はっ水剤はすぐに正式に騎士団で採用されることになった。騎士団所有の馬車とテントにはすべてはっ水剤が塗布された。それだけではない。騎士たちが使うマントも、革製の物から軽くて丈夫な布製の素材に代わり、そちらにもはっ水剤が施されているのだ。

 これで各地へ移動するのが楽になったと騎士たちから何度もお礼を言われた。




 そんなある日、もう少しで夏休みが始まろうとしていたころに、ハイネ辺境伯家へ一つの知らせが舞い込んで来た。俺はちょうどファビエンヌと一緒にはっ水剤の備蓄を作っているところだった。


 不意に使用人が調合室へやって来ると、すぐにサロンへ来るようにと告げられた。何か大事な用事を忘れていたのかなと思ってネロを見ると首を振っていた。そんな予定はなかったようである。


「何かあったみたいだね」

「あの、私も一緒に行っても良いのでしょうか?」

「俺だけが呼ばれたわけじゃないから、たぶん大丈夫だと思うけど……まさか俺、また何かやらかしちゃってる?」

「いえ、最近は大人しくしていらっしゃったと思いますけど」


 ファビエンヌがかわいらしく首をかしげているが、ちょっと心に来るものがあるぞ。それはつまり、ファビエンヌも俺が日頃から何かをやらかす人物だと思っていると言うことである。

 ネロも首をかしげているところを見ると、ファビエンヌと同じ意見のようである。俺って信頼感ないのかな? いや、別の意味で信頼されているのか。そっちはノーサンキューだな。

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