第398話 新発見

 今回手に入れることができた魔晶石は三つ。前に見つけた魔晶石も回収ずみなので、合計で四つの魔晶石が手元にあることになる。四つもあれば、温室の魔道具のエネルギー源としては十分役に立つのではないだろうか。


「ユリウス様、この魔晶石をどうするおつもりなのですか?」

「おっと、ファビエンヌには言ってなかったね。この魔晶石はさっきやったみたいに魔力を蓄えることができるんだ。その性質を生かして、温室の魔道具で使おうと思っているんだよ」

「温室でですか?」

「そう。温室には結構な量の魔道具が配置されることになるんだ。それで少しでも魔石の消費量を減らそうと思ってね。これなら寝る前に魔力を補充すれば、何度でも使えるからね」


 うんうんとうなずくファビエンヌ。どうやらお分かりいただけたようである。もちろん魔力の補充は俺が行う。ハイネ辺境伯家の中で魔力が一番多いのはたぶん俺だからね。魔道具の管理者でもあるし、適任だろう。


 温室がまだ出来上がっていないのでできることは少ないが、取りあえず魔晶石を設置する台座くらいは作っておこうかな。ロザリアがお母様の元へと向かったので、今なら作業をしても問題ないだろう。


 鉄板を取り出して加工して行く。魔晶石は台座に固定しておいて、その上に手を当てて魔力を込めるようにしよう。ネロに頼んで部屋に置いていた七色の魔晶石を持って来てもらう。それを見たファビエンヌが歓喜の声をあげる。


「すごくキレイですわ。同じものとは思えません」

「本当はファビエンヌにプレゼントしようと思っていたんだよ。でも、さすがに目立つからダメになってしまったんだ」

「そうでしたのね」


 ファビエンヌの目が垂れ目になっている。とても残念そうだ。胸が痛む。でも、この七色に変化する宝石を身につけていたら絶対に目立つ。自分の部屋で見ているだけなら問題ないんだろうけどね。そうだ。


「ファビエンヌ、そんなに気に入ったのなら、少し分けてあげるよ。ただし、他の人には見せないようにね」

「そんな、悪いですわ」


 遠慮するファビエンヌにほほ笑みかけて魔晶石を割る。良い感じに小さなひとかけらが出来上がった。それを研磨機で形を整えてファビエンヌに渡す。このかけらだけでも、結構な量の魔力が入っていると思う。


「小さいけど、それなりに役に立つと思うよ。魔力がなくなったときにそれを握りしめれば、体内に魔力が流れて来るよ」


 俺が魔晶石を差し出すと、恐る恐るそれを受け取った。それを大事そうに見つめている。肌身離さず持っていてくれれば、何かあったときの助けになるかも知れない。まあ、そんな日は来ないのが一番だけどね。


「大事にしますわ」

「そうして欲しい。さて、続きの作業をしないとね」


 カンカンと鉄板を加工して台座を作りあげた。これなら一カ所でまとめて魔力を込めることができる。試しに緑色になった魔晶石に魔力を込めてみた。緑色は変わらなかったが、魔力に満たされたのか、先ほどよりも明らかに輝いているのが分かった。


「これは新発見だな。後から魔力を補充しても、最初に発現した色は変わらない。これなら七色の魔晶石にならなくてすむぞ」

「すごく光ってますわ。これで装飾品を作ったらとってもキレイでしょうね」

「注目をものすごく浴びることになるんだろうなぁ。お母様が欲しがりそう」


 この辺りでは一番の淑女であるお母様なら、この輝きにも負けることはないだろう。でももう台座に固定しちゃったから、装飾品にすることはできないんですけどね。

 追加で魔晶石を見つけたときも気をつけないと。これがお母様にバレると、欲しいって言われかねない。魔晶石は魔道具の充電電池として使うのだ。


 試しに既存の魔道具に接続して、動力源としての性能を確かめたのだが問題なく機能した。十分に使えるな。もちろんあの後、残りの魔晶石にも魔力を充電している。魔力を充電してもケロッとしている俺を見て、ファビエンヌが聞いてきた。


「ユリウス様、魔力は大丈夫なのですか? 結構な量の魔力を込めているように見えたのですが……」

「大丈夫、問題ないよ。まだまだ魔力には余裕がある」


 ファビエンヌに心配させないようにニッコリと笑う。もちろんウソではない。この程度の魔力の消費は何ともないのだ。あと十個くらいはいける。ホッとしたような顔になっている反面で、どこか恐れるような顔になっているファビエンヌ。ネロも似たような顔をしていた。

 もしかして、化け物みたいに思われている? そいつはまずいな。


 これ以上、ここで作業するのは良くないと思った俺は、二人を誘って調理場へと向かった。もちろんミラも一緒である。この道に見覚えがあるのか、ミラのお尻がご機嫌に揺れている。もしかすると、ドライフルーツをおねだりに行くルートなのかも知れない。


「料理長、ちょっと試してもらいたいことがあるんだけど」

「キュ」

「これはユリウス様にミラ様。それにファビエンヌ様もご一緒でしたか」


 調理場では夕食に向けての準備中が急ピッチで進められていた。これはお邪魔な時間に来てしまったかな。どうしようかなと思っていると、入り口付近の戸棚から料理長がドライフルーツを取り出した。ミラが早くよこせと言わんばかりに料理長の足にじゃれついている。

 やはりドライフルーツをたかりに来てたか。


「ユリウス様、他の者は忙しいですが、私なら問題ありませんよ。部下に任せるのも仕事ですからね」


 不器用に笑顔を作る料理長。本当はあれこれと口出ししたいようだが、抑えているみたいである。それならお願いしても良いかな? そんなわけで、さっそく昼間に思いついたポテトを試してもらうことにした。

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