第395話 魔晶石の価値
宝石店の二階をまさぐるように動き回った。その結果、合計で三つの魔晶石の原石を見つけることができた。小さいのが二つ、少し大きめのものが一つである。
俺たちが選んだ宝石を見て、店員が驚いていた。
「お客様、本当にこれでよろしいのですか? 確かにどれも珍しい宝石ではありますが、見ての通り色があまり良くなくて人気がないものなのですが」
「構いませんよ。これらを購入します」
店員は微妙な顔をしていたがそれ以上は何も言わなかった。恐らく俺の機嫌が悪くなると思ったのだろう。そのまま会計カウンターへと向かう。魔晶石の値段は他の宝石の原石と比べてもずっと安い。三つ合わせても、ロザリアが選んだルビーの原石よりも安いくらいだ。
「この原石はどうなさいますか? 当店では研磨から加工までを行っておりますが」
「そのままでいいです」
「承知いたしました。ところで、この宝石を探しているのでしょうか? もしそうであれば、当店でお探ししますが」
店員が魔晶石の原石を見ながらそう言った。なるほど、その手もありだな。宝石店が買い付けに行くときに優先して買い取ってもらうようにすれば、効率良く魔晶石を集めることができそうだ。
だがその一方で、ハイネ辺境伯家がこの原石を集めていることが知れ渡ることになる。そうなると、魔晶石の存在に気がつくかも知れない。そうなると、値段が跳ね上がるだろう。
「いえ、そこまでしていただかなくても結構ですよ。またこの店に来たときに、改めて購入しますよ」
そうですか、と眉を下げる店員。手間賃を取るつもりだったのかな? 当てが外れて残念そうだ。アレックスお兄様が何も言わないところをみると、この対応で間違いなかったようである。
会計を済ませ、一階へと向かう。その途中でお兄様が聞いてきた。
「原石を磨いてもらわなくても良かったのかい?」
「構いませんよ。一度、自分で磨いてみたいと思っていたところですから」
「私もやってみたいですわ」
「それじゃ、帰ったら研磨機を作らないといけないね」
サラッと言った俺たちをお兄様が苦笑いで見ている。簡単に研磨機を作るなんて言ったからね。そんな顔にもなるか。でも作れちゃうんだな、これが。何せゲーム内で作れる道具だからね。素材さえそろえれば設計図なしでも簡単に作れるのだ。そして必要な素材はすでに工作室にある。
一階に戻り両親と合流する。その際に本日の収穫物について話した。ちゃっかりとロザリアがルビーの原石を購入していることに、両親も何も言わなかった。お兄様もおとがめなしだったことにホッとしているようだった。
「これだけ大きな店で三つしか手に入らないと言うことは、かなり希少なようね」
「それなんですが、もしかすると、売れないので仕入れていない可能性もありますね。店員が優先的にあの原石の買い取りをするか聞いてきたのですが、ひとまず断っておきました」
「なるほどねぇ。私たちが集めているのを知られるのは良くないわね。一階でも探してみたんだけど、それらしいものはなかったわ」
「屋敷に宝石商を呼んだときに混じっていたのは、どうやら偶然だったみたいですね」
話ながらも、今度はファビエンヌへのプレゼント用の装飾品を探す。二階とは違い、ショーケースの中にはキラキラとしたものがたくさん並んでおり、それを見ているロザリアの目が同じようにキラキラになっていた。
「どれが良いのか悩むな。ネックレスと指輪はプレゼントしたことがあるから、今回はイヤリングにしようかな?」
ファビエンヌの顔をのぞき込むとニッコリとほほ笑んでくれた。それでOKということだろう。だんだんとファビエンヌのことが分かって来たような気がする。
そんなわけでイヤリングを中心に見て回った。大きい宝石がついていると耳に負担がかかるかな? 自分ではつけたことがないから良く分からん。取りあえずファビエンヌの顔色をうかがいながら良さそうなものを選んでいこう。
「お父様、これが良いですわ!」
ロザリアが高そうな腕輪を指差している。どう見てもロザリアの腕には大きすぎるな。簡単にスポッと外れるだろう。お父様は笑ってはいるものの、内心は困っているだろうな。今も助けを求めてお母様の方をチラチラと見ている。
「ファビエンヌ、あれはどうかな?」
「あの青色の宝石がついているイヤリングですね。ステキだと思いますわ」
お父様の様子をうかがいながらも、俺はファビエンヌの目があのイヤリングにとまったのを見逃さなかった。すぐに店員を呼んでつけさせてもらう。ファビエンヌの目の色と良く似ていて、ピッタリだった。
「ステキな色だね。良く似合っているよ」
「そ、そうでしょうか?」
口に出してみて思った。ステキな色、つまり、ファビエンヌの目の色もステキな色だということである。ファビエンヌはすでにそのことに気がついているみたいで顔を真っ赤にしている。それを両親とアレックスお兄様が温かい目で見ていた。なんかちょっと恥ずかしい。
ファビエンヌへのプレゼントはそれに決めた。他にも探すつもりだったのだが、ファビエンヌが一つで十分だと言って譲らなかった。ポケットマネーならまだまだあるので、遠慮せずに言ってくれたら良かったのに。
結局ロザリアが欲しがっていた腕輪の購入はお母様の説得によって見送られていた。さすがはお母様、頼りになる。その代わりなのか、小さな金のネックレスを購入していた。
俺も何か買うべきかな? せっかくファビエンヌと一緒に来ているので、彼女に選んでもらおうかな。
「ファビエンヌ、良かったら俺にも何か宝石を選んでもらえないかな?」
「それは構いませんが、お金が……」
「あら、その心配は要らないわよ。もちろんハイネ辺境伯家が責任を持ってお金を出すわ」
俺たちの話を聞いていたのであろう。お母様が笑顔でそう言った。もしかして、俺があまり宝石を身につけないのを気にしていたりするのかな? なにげにお父様もお兄様も、アクセントとして宝石を身につけているんだよね。
それに対して俺は例の指輪しか身につけていない。ときどき、ファビエンヌとおそろいのネックレスを身につけるくらいである。貴族のたしなみとして、もっと装飾品を身につけるべきなのかも知れないな。
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