第394話 原石探し

 三日後、みんなで領都に出かける日がやって来た。その間は魔道具作りに幌馬車、テントへのはっ水剤の塗布とそれなりに忙しい毎日を過ごしていた。

 ミラに首輪の件について聞いてみたのだが、首を左右に振られた。どうやら嫌みたいである。なんとなくそんな気はしてたけど。


「ミラちゃんに首輪をつけるのは良い考えだと思ったのですけど……そうだ、代わりにリボンをつけましょう! その方が絶対にかわいくなるわ」

「キュ!」


 迫り来るロザリアを見て、ミラがスタコラサッサと逃げ出した。どうやらリボンをつけるのも嫌らしい。そうなると、ミラの性別は男の子寄りなのかな?

 逃げ出したミラはファビエンヌの腕の中に収まり、その胸に顔をスリスリとさせていた。なんかちょっとジェラシーを感じる。


「御館様、奥方様、準備が整いました」

「それでは出かけるとしよう」

「ほら、みんな馬車に乗りなさい」


 ハイネ辺境伯家の馬車の中でも、一番大きな馬車に全員で乗り込んだ。何とこの馬車には例の強化ガラスが使われているのだ。いつもは安全のために閉められているカーテンが今日は開け放たれている。ランプがなくとも車内は明るい。


「カーテンがないとこんな風になるのですね」

「高いですわ! 道のずっと先まで見えます」

「これはこれで領民たちを直接観察できて良いね」


 アレックスお兄様が顔をほころばせている。これまで何度も領都の視察に出向いているのだろうが、満足していなかったようである。じかに領民たちと接したかったのかな?

 ハイネ辺境伯家の馬車を振り返る人も多い。そしてこちらへ手を振ってくれる人も同じくらいに多い。もちろん気がつき次第に手を振っている。


「うふふ、これは良いわねぇ。みんな笑顔で手を振ってくれるわ。これも旦那様が領民たちに寄り添った統治をしているからだわ」


 ご満悦なお母様。お父様も満更でもないらしく、威厳のある顔のままで手を振っていた。ロザリアとミラも楽しそうに手を振っている。やはり人気はミラのようである。なんたって、動くぬいぐるみだからね。


「ダニエラ様が領都に帰ってきたらこの馬車で出かけることにしよう。きっと喜ぶはず」

「そうね。この景色を見れば間違いなく喜んでくれるわよ」


 俺もそう思う。これだけ領民に慕われているのなら、将来も安泰であること間違いなしだろうからね。ハイネ辺境伯家が行った事業は間違いなく領都を潤しているし、商会からは領民たちの生活が豊かになるものが次々と送り出されている。他の領地からも視察が来るくらいだからね。


 今日の目的地である宝石店へと到着した。ここは領都で一番大きな、宝石の原石から販売している老舗の宝石店である。無骨な石を積み上げられて作られた建物は、最近増え始めたレンガ造りの建物とは一線を画しており、どこか歴戦の勇士のようなたたずまいだ。

 それでも窓辺には色とりどりの花が咲いており、訪れる客を温かく迎える心遣いも忘れていない。


 事前に連絡を入れていたこともあってすぐにオーナーが現れた。「貸し切りにするか」と聞かれたようだが、「商売の邪魔をしてはいけないから」と言って断ったようである。そのため、俺たち以外にも貴族の姿が見えた。


「一階では指輪やネックレスなどの商品を展示しております。二階では原石の販売、三階ではオーダー品の制作を行っております」

「ここは別れた方が良いかしら?」

「私は二階の原石売り場を見てきます」


 お父様とお母様は一階を、残りのメンバーは二階に行くことになった。ロザリアが一緒に来るのは予想外だな。てっきり指輪やネックレスなどのキラキラしたものが好きだと思っていたのだけれど。


「ユリウス、なるべく早く終わらせて、お父様とお母様に合流しよう。まさかとは思うけど、ファビエンヌ嬢に何も買ってあげないなんてことはないようにね」

「もちろん分かってますよ。やだなー、お兄様」


 ハハハと笑うがもちろん忘れてなどいない。背中に嫌な汗が流れているが気のせいだ。二階にあがると、そこにはまだ磨かれていない宝石の原石がゴロゴロと転がっていた。

 それを見たロザリアの顔が曇った。思ってたのと違う、と言いたそうである。


「ユリウスお兄様、これ……」

「ロザリア、これを研磨機で磨くことでキレイな宝石になるんだよ。磨く前はみんなこんな風な石ころなんだよ」

「信じられません」


 ジッと原石を観察していたが、どう見ても光りそうにないもんね。その気持ちは分かる。俺は目的の魔晶石を探して店内をウロウロした。後ろからはアレックスお兄様が目を光らせている。なるほど、俺の監視役か。


「ユリウス様、あれ」


 俺と同じく鑑定能力を持っているファビエンヌが何かを見つけたようだ。事前にどんな原石を探しているのかを話しておいて良かった。

 指を差された方向へ行ってみると、目的の魔晶石を見つけた。原石の値段は安い。少し小さいが買いだな。手に取って確かめる。間違いなさそうだ。

 すかさずネロが差し出したトレーに原石を置く。


 それを見たロザリアがそうやって買うのかと得心したようである。ロザリアが真剣な顔つきで原石を観察し始めた。


「ロザリア、何か欲しい宝石でもあるのかい?」

「魔道具の素材に使える宝石がないかと思いまして」

「うーん、飾りとしてなら使えるかな。宝石がスイッチになっていたら面白いかも?」

「お星様の魔道具のスイッチが宝石だったら素敵ですわ」


 確かにお星様の魔道具はどこか高級感にあふれているからね。金メッキをして宝石を飾れば、見た目も性能も美しいものになるな。高級品として王家に献上するのも良いかも知れない。ハイネ辺境伯領で作った品を王族も使っているとなれば、知名度と箔が上がるぞ。


 そんなわけで、俺たちは宝石の原石を片っ端から鑑定していった。魔晶石以外の原石をロザリアがトレーに置いたときはアレックスお兄様が微妙な顔をしていたが、結局何も言わなかった。

 アレックスお兄様もロザリアには甘いんだよなー。

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