第393話 プレゼン

 夕食前にお父様とアレックスお兄様に今日の成果を報告することにした。すでにお母様には話しているので、掃除機の魔道具とはっ水剤についてのことはお父様の耳にも入っているはずだ。


「新しい魔道具と魔法薬ができたんだって? 楽しみだね」


 お兄様がニッコリとほほ笑んでいる。良かった、また仕事を増やされたと思われていなくて。お父様の機嫌は普通だな。事前に話してあるから心に余裕があるのだろう。これからはお母様を通じてお父様に話してもらうようにしよう。


 まずはロザリアが作った掃除機の魔道具から説明することになった。この場には家族だけでなく、使用人や騎士の姿もある。みんなに披露することで多くの意見を聞こうという算段である。


「これが掃除機の魔道具ですわ。ここからゴミを吸い込んで、この袋の中にゴミがたまります。あとはそれを捨てるだけですわ。袋の中にホコリの層ができるので、それはこれを使って落とします」


 ロザリアがブラシを見せる。なるほど、と声があがった。感触は悪くはないようだ。さっそく実演をする。すでに床にはゴミやホコリを散らしてある。それを掃除機の魔道具がフィンフィンと吸い込み始めた。


「これはすごいですよ! 絨毯を掃除するのにぜひとも欲しいです」

「床を掃除するのにも十分に使えそうです。ゴミがなくなれば拭き掃除も楽になりますわ」


 使用人たちからの反応は良さそうである。騎士たちも部屋の掃除が楽になると喜んでいた。次は俺とファビエンヌが作った魔法薬である。残念ながらこの場にファビエンヌはいないが、彼女の分までしっかりとプレゼンしないとね。さっそくはっ水剤を塗布した布の切れ端を取り出した。


「この布には水をはじく効果のある魔法薬を塗りつけてあります。これにこうやって水をかけると」

「おおお、布がぬれてない!」

「これなら雨の日の任務も随分と楽になりそうですね」


 騎士たちがうれしそうな声をあげた。どうやらこれまでは、雨が降った日は革製のマントやブーツを着用して任務を遂行していたようである。だが革製のものは重いし通気性も悪く、不快感がどうしても出てしまう。しかしこれならその欠点を克服できると考えているようだ。


「靴に塗っておけば、汚れ対策にもなると思います」

「なるほど、これは良い魔法薬だね。何にでも塗れるのなら、幌馬車にも使えそうだね。他にもテントの布にも使えそうだ」

「おお、さすがはアレックス様! まさにその通りです。これまではロウを塗り込んでいたのですが、その作業をなくすことができますよ」

「あの作業は大変でしたからね。それがなくなると分かれば、みんな喜びますよ」


 なるほど、そういう使い方もあるのか。身につけることだけを考えていたな。みんなの意見を聞いて良かった。おかげではっ水剤の用途が増えたぞ。はっ水剤の魔法薬をそのまま売りに出すのは問題があると思うんだけど、お兄様はどう思っているのかな?


「アレックスお兄様、そのままはっ水剤を売りに出すのは避けたいと思っているのですが、どうでしょうか? 独占したいわけじゃないですけど、予想外のものに利用されると困りますからね」

「そうだね、生き物や植物に使う人が出て来るかも知れないからね。売りに出すのははっ水加工を施した商品にしよう。そうなると、人手がまた足りなくなるね」


 困り顔になったアレックスお兄様。デスヨネ。俺もそうなるんじゃないかと思ってました。それを聞いたお母様も困り顔である。この辺りで商会運営を見直すべきかも知れない。


「まずはできる範囲で売りに出すことにしたらどうだ? 畏れ多いことだが、夏になればダニエラ様がこちらへと戻って来てくれる。商会の規模を大きくするならそのときだろう」

「そのことなんですが、先ほどダニエラ様から手紙が来まして、王都でのやるべきことはほぼ片付けたそうです」

「まあ、それじゃあ……!」

「はい。夏からハイネ辺境伯家で一緒に暮らすことになりそうです」


 部屋にいたみんなが喜んでいる。もちろん俺もだ。ダニエラお義姉様が戻ってくる。ハイネ辺境伯家の空気がもっと明るくなるし、これでアレックスお兄様の負担も軽くなる。ミーカお義姉様はまだかな? まだだよね、まだ学園を卒業してないもんね。ちょっと残念。


 話し合いの結果、まずは騎士たちが使う馬車とテントにはっ水剤を塗布することになった。必要な量は聞いたので、明日、ファビエンヌと一緒に作ろう。掃除機の魔道具はすぐに生産が始まることになった。商会の魔道具師たちも大忙しだな。でもみんな楽しそうな顔をしているんだよね。新製品を手がけるのは楽しいらしい。


 取りあえず屋敷で必要な掃除機の魔道具は俺とロザリアで手分けして作ることになった。魔法薬作りに魔道具作りと、なかなか忙しそうである。まあ、暇にしているよりかはずっと良いな。それよりも、ファビエンヌと一緒に出かける計画を詰めないと。


 そう思っていると、夕食の席でお母様から三日後にファビエンヌを連れて出かけると言われた。当初は一緒に行く予定ではなかったロザリアも、アレックスお兄様も、そしてお父様も一緒に行くことになった。


 お母様から見ると「みんな働きすぎ」だということだった。そのため、お母様が中心となってみんなを休ませることにしたようだ。確かにお母様の言う通りだな。今後の心身の健康管理はお母様に決まりだな。だれも逆らえないのでちょうど良い。


 ミラが不安そうな顔をしていたが、もちろんミラも一緒である。それを言うと喜んでいた。ハイネ辺境伯家に聖竜がいることは領民たちに知れ渡っている。一緒に連れて行っても問題ないだろう。あとはミラが誘拐されないように注意するだけだな。


 首輪とリードでもつけとくか? いや、それをやったらさすがのミラでも怒るかな。うーん、どうしよう。一度本人に聞いてみるか。

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