第396話 昼食を食べる

 ファビエンヌが俺に選んでくれたのはおそろいのイヤリングだった。どうやら初めからそのつもりだったようである。ファビエンヌが大きめの青色の宝石がついたイヤリングだったのに対して、俺のイヤリングは小ぶりな宝石がついている。


「これなら邪魔にならないね。ありがとう、ファビエンヌ。大事にするよ」

「とんでもないですわ。とは言ったものの、私がお金を支払ったわけではないので複雑な心境ですわ」


 眉をこれでもかと下げたファビエンヌがとても情けない顔をしている。そんなファビエンヌの気持ちを持ち上げるべく、そのほっぺたを持ち上げてプニプニした。目を大きく見開いたファビエンヌのほほが朱に染まる。


「ゆ、ゆりうふしゃま」

「気にしない、気にしない。俺はファビエンヌが選んでくれただけでうれしいよ」


 真っ赤な顔になるファビエンヌ。ちょっとやり過ぎたかな? ちょっと焦って周囲を見渡して見ると、結構な人たちがこちらに注目していた。うん、時と場所を選ぶんだったな。

 赤くなったファビエンヌを慌てて隠す。


「うふふ、仲が良いわね。それじゃ支払いに行きましょう」


 ニコニコした両親に連れられて会計カウンターへと向かった。俺たちのラブラブ具合を見て両親も一安心してくれたようである。

 宝石店の次は昼食である。最近王都から進出してきたというお店でお昼を食べる。

 これは……ハンバーガー?


「真ん中に大きなお肉が入っているわね」

「うむ。サンドイッチとはまた違うようだが、こっちは随分と濃い味付けになっているみたいだな。だが、食べ応えがあって私は好きだな」


 ラブラブな両親が楽しそうに食べている。ここにポテトとコーラがあれば完璧だったのに。そう言えばジャガイモを揚げる習慣がないな。帰ったら料理長に提案してみようかな?

 良く見ると、チーズも挟まれていない。色々と惜しいな。味は最高なのに。


「チーズが挟んであったらもっと良かったかも知れませんね」

「なるほど、確かにとろけるチーズとの相性は良さそうだね」


 アレックスお兄様にそう提案してみると、なかなか良い感想を得ることができた。ロザリアとミラは同じようにほほにソースをつけて、おいしそうに食べている。姉弟か。そんな二人の口元をファビエンヌが拭って上げていた。こちらはお姉さんですね。


 近くにいた店員さんが何やらメモを片手にサラサラと鉛筆で書いている。うむ、我がハイネ商会の品を使ってくれているようだな。結構、結構。お兄様もそれに気がついたようで、穏やかな表情でそれを見ていた。


「みんな使ってくれているみたいだね」

「生産は大丈夫ですか?」

「今のところは何とか大丈夫。だけど、夏休みシーズンになって、ハイネ辺境伯領に来る人が増えると厳しいかも知れないね。そのときだけ人を増やすわけにもいかないからね」


 困ったように眉を下げたお兄様。大量生産できるように、道具を工夫するべきかな。それとも工業化するべきだろうか。エネルギー源は魔石があるから何とかなるんだよね。でもまだ早いかな。


 午後からはお父様の予定が入っていたため、昼食を食べ得るとすぐに屋敷へと戻った。アレックスお兄様は今日は休むつもりだったみたいだがやはり商会が気になるようだ。散歩に行ってくると言って、護衛を連れて出かけて行った。


 特に予定が入っていなかった俺たちはさっそく購入した原石を磨くことにする。工作室でサクッと研磨機を作るとみんなが驚いていた。まあ作り方が分かっていればこんなもんだよね。


「あの、ユリウス様、さすがと言うか何と言うか……」

「どうやって作ったのか全く分かりませんでしたわ」

「別に研磨機を売りに出すわけじゃないから、作り方を覚えなくても大丈夫だよ」


 あ然とするファビエンヌとロザリアを尻目に研磨機の起動チェックをする。シュイインと静かな音を立てながらヤスリが回転する。どうやら問題なさそうだな。

 次は購入した魔晶石のチェックに移る。色が黒なので邪魔な鉱石との見分けがつきにくい。魔力を込めて色を変化させよう。


「ユリウス様、本当に魔力を込めると色が変わるのですか?」

「そうだよ。やってみる?」


 ファビエンヌに一つ渡して実演してもらうことにした。半信半疑なファビエンヌが魔力を込める。もちろん魔力を込める方法は教えた。徐々に魔晶石の色が青色へと変わっていく。


「本当に色が変わりましたわ。まだまだ魔力は込められそうですけど」

「ファビエンヌの得意な属性は水属性だね。色で判別できるんだよ」

「お兄様、私もやってみたいです!」


 不思議そうな顔で魔晶石を見つめているファビエンヌは置いておいて、ロザリアに魔晶石を渡した。先ほど俺がファビエンヌに魔力の込め方を教えていたのを聞いていたようで、教えるまでもなく魔力を込め始めた。魔晶石の色が少しずつ変わっていく。


「緑色です」

「緑色は風属性だね。ロザリアの得意属性は風か。ネロもやってみる?」


 興味津々とばかりにのぞき込んでいたネロにも試してもらう。こちらはロザリアと同じく緑色。風属性が得意のようである。風属性は使い勝手が良いので、個人的には当たり属性だと思っている。


「ユリウス様は何色に変化したのですか?」

「えっと……」


 当然の疑問である。言って良いものか悪いものかと一瞬ためらっていると、先にロザリアが答えた。それも堂々と胸を張ってである。


「お兄様は七色でしたわ」

「七色?」

「あはは、実はそうなんだよ」

「七色って、まさか……」

「うん。そのまさかなんだ。俺は全属性が得意なんだよ」

「そんなことって……」

「まあ、非常に珍しいと思うよ」


 あきれたような顔をしてこちらを見ているファビエンヌ。その顔にはハッキリと「珍しいってレベルじゃねぇぞ!」と書かれていた。

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