第391話 掃除機の魔道具

 無事にはっ水剤が完成した。品質は高品質。これなら期待通りの効果を発揮してくれるだろう。出来上がった液体をファビエンヌも確認している。その顔はニッコリである。満足のいく物ができたようだ。


「さっそくこれを試してみないとね」

「そうですわね。野ウサギの毛皮に、布のマント、革のマント、マスクの素材にも使ってみたいですわね」

「よし、片っ端から試してみよう。その方が面白いしね」


 ネロにも手伝ってもらって、すぐに手に入る物から順番に、片っ端からはっ水剤を塗布していった。もしかすると相性が悪い素材があるかも知れない。それを確認する意味もかねて、この作業はとても重要である。遊んでいるわけではない。


「定着させるには乾燥させる必要があるから、乾くまでお茶の時間にしようか」

「そうしましょう。新しいドライフルーツがあるみたいですわよ」

「それは楽しみだ」


 スキルを使ってすぐに乾燥させても良かったのだが、こうやってファビエンヌと二人で過ごす時間も大事だ。もちろん休憩も。俺たちはそろって調合室から一番近いサロンへと向かった。

 その間にネロがお茶の手配をしてくれている。本当に優秀な執事である。もうネロなしでの生活は考えられないな。


 サロンに到着すると、ネロがすぐにお茶を用意してくれた。ネロがお茶を入れる腕前も随分とあがってるようである。毎日研究しているみたいだもんね。リーリエにも教えているみたいだ。夜に食堂へリーリエを連れて行っているネロの姿を見たことがある。


「どの素材も問題なくはっ水効果が得られているみたいでしたわ」

「あとは耐久性がどのくらいあるかだね。お茶が終わったら外に持って行って水をかけてみよう」

「すぐに手配しておきます」


 そう言ってネロがサロンから出て行った。それと入れ替わるようにミラが入ってきた。どこで匂いを嗅ぎつけたのやら。すでに足取りがウキウキとしていた。ミラは午前中にお母様と一緒に食べたんじゃないのかな~?


「キュ」

「あら、ミラちゃんも食べますか?」

「キュ!」

「ミラ、太った?」

「キュ?」


 ミラのおなかをポンポンする。うん、まだ大丈夫そうだな。甘い物ばかり食べて、そのうちミラのおなかが出るんじゃないかとヒヤヒヤしている。ミラは気にしていないようで、ファビエンヌからドライフルーツをもらっていた。


「この試験がうまく行けば、雨が降ってもこちらへ来ることができますわね」

「そうだね。雨が降っていても動けるようになるのは良いことかも知れないね」


 これまで、天気が悪い日はファビエンヌのお休みの日になっていた。もちろん俺は雨を防ぐ魔法を使える。でも使っている人を見たことがないんだよね。たぶん、一般的な魔法じゃないんだと思う。


 だが、はっ水剤を開発したことで、雨の日でもファビエンヌを迎えに行けるようになった。これはうれしい誤算だ。それに雨が降っても、ミラを散歩に連れて行くこともできるかも知れない。あとは蒸れなければ良いんだけど……こっちは難しそうな問題だな。


「キュ、キュ!」

「ん? どうしたの、ミラ」


 ミラがしきりに俺の袖を引っ張っている。どうやらどこかに連れて行きたいようである。もしかしてミラがここに来たのは、おやつをもらいに来たわけじゃなかったのかな? 首をかしげていると、ファビエンヌが何かに気がついたようだ。カップをテーブルの上に置いた。


「もしかして、ロザリアちゃんのところに連れて行きたいのではないですか?」

「キュ、キュ!」


 どうやらそのようである。ミラが正解とばかりに手をあげている。なるほど、俺を呼びに来たのか。どうして使用人に頼まずにミラに頼んだのかは謎だが、とりあえず工作室へ行くことにした。


 先導するかのようにミラが先頭を歩いて行く。機嫌良くお尻をフリフリしており、ファビエンヌと一緒ににまにまとその光景を見ていた。

 工作室に到着すると、部屋の中からはフィンフィンと何やら音がしていた。完成したのかな?


「ロザリア、新しい魔道具はどんな感じ?」

「お兄様、来て下さったのですね!」


 魔道具を動かすのをやめてロザリアがこちらへやって来た。そのまま流れるような手つきでミラを抱える。随分と手慣れたものである。

 試行錯誤によるものなのか、テーブルの上には色んな部品が転がっていたが、床にはゴミ一つ落ちていなかった。


「どうやら掃除機の魔道具は完成したみたいだね」

「さすがお兄様。分かりましたか?」

「そういえば、床が随分とキレイになっていますわね」


 ファビエンヌの言葉にエヘンと胸を張ったロザリア。抱かれているミラも同じように誇らしげに胸を張っている。リーリエが魔道具を持って来た。昨日、話していたように、全体的に細くスリムな体型になっていた。


「お兄様に言われたように細くしたら、吸い込む力がググッと強くなりましたわ。それをそのままの勢いでゴミを回収する袋まで送ることに成功しました」

「なるほど。良いんじゃないの? ゴミを回収した袋はどんな感じなのかな」


 そう言うと、ロザリアがパカリと魔道具の一部を開けた。どうやらここからゴミ袋を出し入れすることができるらしい。見せてもらった袋には大小様々なゴミが入っており、袋の側面にはホコリが詰まっていた。


「大きなゴミはこうして逆さまにすることで取ることができますが、ホコリを取るには何か工夫がいると思います」

「使い捨てするには値段がかかりすぎるね。それじゃ、ホコリを落とす道具を作ると良いかも知れない。ミラのブラシを参考にしよう」

「キュ!」

「ああ、違うから。ミラのブラシを使うわけじゃないからね」


 お気に入りのブラシが取られるのかと思ったのか、目を大きく見開いたミラ。言葉は通じているみたいだな。まだ話せないみたいだけど。そもそも話せるようになるのかは疑問だが。ゲーム内では話せたけど、さてどうなることやら。


 結局、木の素材に一センチ間隔くらいで細い鉄の棒を取り付けたもの作り、それをブラシ代わりにした。これを使って別のゴミ袋にホコリの層を移す。ロザリアの作り方が良かったようで、ちょうど良い感じに側面にホコリの層ができるのだ。これならそれほど手間もかからない。


「これで完成だね。良くやったぞ、ロザリア。あとは使用人に実際に使ってもらって、改良点を見つけよう」

「そうしますわ! さっそくお願いしてきます」


 ロザリアとリーリエが部屋から駆け出して行った。もちろんミラを抱いたままである。

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