第384話 改善点

 ボフンと鍋から怪しい煙が吹き出した。吸い込まないように、風魔法で窓から外へと送り出す。使えて良かった風魔法。失敗しちゃった。


「またダメでしたわね」

「ホットクッキーに混ぜるのはダメだったか。これはコールドクッキーもダメそうだな」


 回復薬に入れるのは無理だった。そのまま入れてダメだったので、刻んで入れたのだがそれでもダメだった。他にも解毒薬や魔力回復薬なんかにも入れてみたのだが、全部ダメだった。


「なかなかうまくいかないものなのですね」

「そうだね。だからこそ、うまくいったときがうれしいんだよ」

「その気持ち、分かりますわ。次は日焼け止めクリームに入れてみましょうか」


 慣れた手つきでファビエンヌが日焼け止めクリームを作り始めた。ある程度完成したところで聖竜の毛を少しずつ入れていく。そのうちキラキラとしたものが見えてきた。これはもしかしてうまくいったのではないだろうか。


「ユリウス様……!」

「これは……!」


 何とビックリ。塗るだけであらゆる魔法を防ぐことができる日焼け止めクリームが完成した。効果は小だが、弱い魔法なら跳ね返してくれそうである。

 どうしよう、これ。世に送り出して良いものかな? ネロに尋ねてみると、首を左右に振られた。


「やめた方がよろしいでしょう。売りに出すにしても、その前に旦那様にお話しておくべきです」

「やっぱりダメかー。でもファビエンヌのおかげで傾向が見えてきたぞ。聖竜の毛は塗るタイプの魔法薬と相性が良いみたいだ」

「そのようですわね」


 そうなると、あと使えそうなのは化粧水かな? でも魔法耐性を持った化粧水を作ったところであまり意味はないのかも知れない。今日のところはこのくらいでやめておくとしよう。


「そろそろお昼の時間だね。今日はここまでにしよう。新しく完成した魔法薬はひとまずすべて封印しておくよ」

「残念ですが、仕方がありませんわ。聖竜の毛を使うのはなかなか難しいですわね」

「効果が高すぎるのも問題だね。本来ならうれしいハズなんだけどなー」


 ファビエンヌと一緒に笑い合う。失敗をしてもこうして一緒に笑える人がいるのは良いことだな。ゲーム内では孤高のボッチだったからね。元の世界に戻ったら態度を改めないと。


 元の世界に戻る、か。何だかこちらの世界で起こる出来事が濃すぎて、向こうの世界が偽りの世界のように思えてきたな。正直なところ、もうこのままで良いんじゃないかなと思っている自分がどこかにいる。かわいい婚約者もいることだし、頼れる親友もいることだしね。

 ネロを見ると首をかしげていた。俺たちに常識人は必要不可欠だ。


 昼食までにはまだ少し時間がある。そこでロザリアが開発に取りかかっている「掃除機の魔道具」の様子を見に行くことにした。

 工作室に到着すると、魔道具と格闘するロザリアの姿があった。


「うぬれ~」

「ちょっとロザリア、淑女が出してはいけない声を出してるよ」

「あ、お兄様!」

「顔も淑女らしくありませんでしたわね」

「お義姉様!」


 作業を中断したロザリアがこちらへとやって来た。もちろんミラもリーリエも一緒である。ミラも手伝っているつもりなのか、金属片が毛に絡まっていた。邪魔してないよね?

 そんなミラの毛に絡まった金属片を取りながら進捗状況を聞いた。


「吸い込む仕組みは作れたのですが、どうやってゴミを集めるかが問題ですわ」

「うーん、風が通る場所に布製の袋をつけてみる?」

「それもやってみたのですが、今度は風が通らなくて……」

「なるほど。風は通るけど、ゴミは通さない袋が必要だね」


 そんな便利な袋、あるわけないよね。どうしたものか。『糸作成』スキルと『裁縫』スキルを駆使すれば作ることは可能だが、それだと俺しか作れない。どうしたものか。サイクロン式にするか?


「野ウサギの毛皮を使ってみてはどうですか? あれなら通気性が良いので、もしかすると風だけ通すかも知れません」

「なるほど、毛皮を使うのか。良い考えだな。さすがはネロ」


 褒められて照れるネロ。うん、かわいいぞ。リーリエも大好きな兄が褒められてうれしそうである。

 この世界には俺の知らない素材がたくさんあるのだ。それらを利用すれば、俺一人が頑張らなくてもすむはずである。

 さっそく野ウサギの毛皮を準備してもらうことにした。その間に、掃除機の魔道具を見せてもらう。


「このスイッチを押せば吸い込み始めますわ」

「それじゃ、試してみるね」


 スイッチを入れると、シュルシュルと風の音が鳴り響いた。ロザリアと一緒に設計したときに話したように、風が吹き出る魔法陣を利用したようである。魔道具内の空気を押し出し、反対側から空気を吸い込む仕組みになっている。


「うん、確かに吸い込んでいるね」

「吸い込んだものがこちらから出て来ていますわ」


 ちょっとホコリっぽくなってしまった。ファビエンヌがハンカチーフで口元を押さえている。これはマスクをしてから試験をするべきだったな。ん? マスク?


「ロザリア、マスクの布を袋の形にしても良いかもね」

「それは良い考えですわ。そちらも手配して、野ウサギの毛皮と一緒に試してみますわ」

「それがいいね。あとは……ちょっと吸引力が弱いかな?」


 ホコリは吸い込むことができそうだが、お菓子の食べカスなんかは吸い込めないかも知れない。ちょうど近くにお菓子の食べカスがあったので吸い込んでみる。やっぱり吸い込めなかった。


「ロザリア~? 工作室でお菓子を食べてはダメだって言ったよね?」


 サッとロザリアが目をそらせた。どうやらミラとリーリエも共犯のようであり、二人も目を合わせないように壁の方向を向いていた。それに気がついたネロがリーリエを部屋の隅へと連れて行った。これは説教するつもりだな。俺もロザリアとミラに説教するべくその肩をつかんだ。

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