第385話 障壁の魔法
俺とネロに怒られた三人を連れて昼食へと向かう。途中ですれ違った使用人に、野ウサギの毛皮とマスクを工作室に届けてもらえるように頼んでおいた。
ダイニングルームに到着すると、そこではすでにお母様が待っていた。
「ユリウス、午前中は魔法薬を作っていたみたいね。どうだったのかしら?」
「世に送り出してはならない物が出来上がったので、厳重に封印しておきました」
お互いに笑い会う。これまでの経験から、秘密にしておくとロクなことにならないことに気がついた。そこで、出しても問題なさそうなものはどんどん出すことにした。
ほほ笑みを絶やさないお母様。それを聞いたロザリアはどんな魔法薬なのか気になったようである。ロザリアに口止めして、どんな物ができたのかを話した。
「すごいです! そんなすごい魔法薬があれば、どんな魔物にだって勝てますわ」
「確かに死にはしないかも知れないけど、勝てるかどうかは話は別だよ」
「また取り扱いに困る物を作ったわね。それもお義母様からいただいたの本に書かれていたのかしら?」
ため息をついたお母様だったが、こちらから先に話したことで、怒りのボルテージはそれほど上昇しなかったようである。なるほど、この方針が当たりか。今度からはすぐに話すようにしよう。
「違いますよ。おばあ様の本には『聖竜の毛』などという素材は一切出てきません。たぶん、私が初めて入手したんじゃないですかね?」
「キュ!」
ファビエンヌの膝の上に載っているミラが体を伸ばして手を上げた。ミラはファビエンヌの膝の上が好きなようである。そんなに居心地が良いのかな。とても気になる。今度、膝枕してもらおうかな? でもどうやってその状況まで持って行くかが課題だな。あとでネロに相談だ。
「……それじゃ、どうやって先ほど話した魔法薬を作ったのかしら?」
俺はファビエンヌと顔を見合わせると、そろって首をかしげてから、どのようにして作ったのかを話した。それを聞いたお母様は激怒した。
「何を考えているのですか! 何かあったらどうするのです? ごめんなさいではすみませんよ」
「えっと……怪しい煙が出たときはすぐに風魔法を使って窓から外に送り出していますし、万が一爆発したときに備えて、障壁の魔法を使っているので大丈夫ですよ」
慌てて言い訳する俺。だってここでお母様から「新しい魔法薬を開発するのは禁止」と言われてしまったら、アンベール男爵家に養子に行くまで既存の魔法薬しか作れなくなってしまう。それだけは避けたいところである。
あれ? 何だか空気がピリッとしてるぞ。俺なんかまた、まずいこと口走っちゃいましたかね。
「いつの間に障壁の魔法を使っていたのですか? 全然気がつきませんでしたわ」
「お恥ずかしながら、私も気がつきませんでした」
「お兄様、障壁の魔法って、何?」
「ユリウス、あなた障壁の魔法が使えるの?」
四人が一度に話しかけてきた。俺は聖徳太子ではないので、一度に一つしか話を聞くことができない。順番的にはお母様が最優先だな。障壁の魔法が使えるの? この発言から分かることは、障壁の魔法が一般的に使われない魔法だろうということだ。
あれれ、おかしいな。確か魔法図鑑にはその存在が書いてあったと思うんだけど。
そうだった、どんな魔法が存在しているのかを調べるのが一番の目的だったから、説明は流し読みしたんだった!
だがしかし、ここで使えないと言うと魔法薬開発がストップしてしまう恐れがある。ここは俺も腹をくくるべきだろう。背に腹はかえられない。
「障壁の魔法は使えますよ。ここで使ってみましょうか? 危険な魔法じゃないですし、ロザリアも知りたいみたいですので」
「そうね、使ってもらおうかしら?」
「それでは……ウインドシールド」
俺が指差した場所に、向こう側がうっすらと透けて見える、緑色の壁のようなものが現れてた。それを見たお母様は目を見開き、ファビエンヌとネロはそろって首をかしげ、ロザリアとミラとリーリエは目を輝かせた。
「すごいですわ、お兄様! 緑色の壁ですわ。どうなっているのですか? 触っても大丈夫ですか?」
「キュ?」
「触らない方が良いかな」
敵味方の識別ができるので触っても問題ないのだが、今は昼食の時間だ。食事中にウロウロと歩くのはマナー違反になるのでダメだと言うことにしておいた。残念そうにするロザリアとミラ。これは触るつもりだったな。危ない危ない。
「ユリウス様、調合室にはあのような緑色の壁はありませんでしたけど?」
「ああ、それは魔法薬作成の邪魔にならないようにするために、色を消しておいたんだよ。こんな風にね」
そう言って俺が手をかざすと、スッと霧が霧散するかのように緑色の壁が消えた。それを見てその場にいた全員が驚いた。まさか色を消せるとは思っていなかったようである。だって、目の前に緑色の壁があったら邪魔なんだもん。
「さすがはユリウス様ですわ」
うっとりとした表情でファビエンヌがこちらを見てきた。うん、何と言うか、美少女がするとかなりの破壊力がある表情だな。その視線に耐えられずにネロの方を見ると、ネロも同じような顔をしていた。
こっちはこっちで、別の意味でヤバイ!
「本当にユリウスは……障壁の魔法は精霊に愛された魔導師しか使えないはずなんだけど、そういえばユリウスは精霊様から加護をもらっていたわね。障壁の魔法が使えるのも納得だわ」
なんか知らんけどお母様が一人で納得してくれたようである。ラッキー。精霊の加護がこんな形で役に立つとは。サンキューな。まあ、精霊の加護がなくても障壁の魔法は使えたんですけどね。さすがにこれは言わないでおこう。
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