第382話 人工太陽

 掃除機の概要をロザリアに話した。その隣で聞いていたリーリエも、近くにいたネロもその発想に驚いていた。物を吸い込む構造ってそんなに珍しいかな? 三人が声をあげたので、気になったのだろう。ファビエンヌもミラを抱っこした状態でこちらへとやって来た。


「あの、ユリウス様、私も聞かせてもらって良いでしょうか?」

「キュ」

「もちろんだよ」


 どうやらファビエンヌだけでなく、ミラも仲間外れにされたと思ったようである。今度は先ほどよりも詳しく説明した。それを聞いてネロがうなった。


「ユリウス様、そこまで考えていらっしゃるなら、すぐにでも魔道具を作り上げることができるのではないですか?」

「うーん、そうかも知れないけど、一筋縄でいかないところが魔道具の面白いところだからね。今回もまずはロザリアに設計図を描いてもらおう。練習だよ」

「分かりましたわ。その間にお兄様はどうするのですか?」


 ロザリアが首をかしげて聞いてきた。もちろんその間にすることはある。先ほど考えていた「人工太陽」について何とかしたいと思っているのだ。


「その間にランプの魔道具について、もう少し詳しく調べておくよ」


 それを聞いたロザリアは一つうなずきを返し、リーリエが持って来た新しい紙に設計図を描き始めた。先ほどの大きな紙には、すでに必要な魔道具について書き出されている。大まかな設計はこれで良いだろう。


 水場として使う魔道具はシャワーを模したものにする。念のためお湯で手が洗えるようにしておこう。天井から降らせる雨は散水器の魔道具を利用する。単純に天井に取り付けることができるタイプにすれば問題ない。あとは配管だけだな。


 空調は以前、温室に設置したものと同じものにしよう。新しい温室の広さは同じくらいだし問題ない。だが、魔石の消費量が問題である。これは何とかしなければならない。

 日の光を利用して、太陽光発電のようなことができれば……その前に充電できる魔石を集めた方が良いのか。今ならまだ安いはず。


 ネロが持って来てくれた、数種類のランプの魔道具を分解していく。どのみち最後には元の形に戻すので、ちょっと借りてきただけである。

 手際よく魔道具を分解していると、その手元をファビエンヌが楽しそうに見ていた。


「ごめんね、ファビエンヌ。退屈だよね?」

「そんなことはありませんわ。見ているだけでも面白いですわ。それにミラちゃんもいますからね」

「キュ」


 呼ばれたミラが手をあげる。そんなミラをいとおしそうにファビエンヌがなでていた。俺もファビエンヌになでられたいし、なでてあげたい。そんなよこしまな衝動に駆られながらも分解作業は進んでいく。


 明かりの強さ、色を良く比較して、魔法陣と見比べていく。その中で、日の光に近い色を出す魔法陣を見つけた。どうやらランプの魔道具に使われている魔法陣は数種類あるようだ。だが、俺からすると「魔法陣が間違っているだけじゃないの?」と言いたい。


「こんなちょっとの違いで光の色が変わるのか。思わぬ発見だな」

「何か面白いことでも見つけたのですか?」

「うん、まあね。こんな魔法陣を描けば……」


 準備してあった鉄板に魔導インクで簡単な魔法陣を描く。そこに魔石を載せると、魔法陣の上に日の光のような色をした光がともった。光力は押さえてあるのでまぶしくはない。目にも優しい光である。


「すごいですわ。何だか暖かな色をした光ですわね」

「そうだね。日の光を再現してみたつもりだよ」

「確かにこれは日の光ですわね」


 不思議そうにファビエンヌが光に手をかざしたりしている。光の色は同じだが、熱量はそれほどでもないようだ。これなら部屋が暑くなることもなさそうだ。

 その後も色んな実験をしていると、お茶の時間になった。その後は予定通りに勉強の時間だ。


 ファビエンヌ、ネロと一緒に授業を受ける。二人とも優秀なので、先生も楽しそうである。授業が終わるとすぐにファビエンヌを家まで送り届けた。明日はミラの毛を使って色々と魔法薬を作ってみる予定だ。ファビエンヌも楽しみだと言っていた。とんでもない魔法薬ができなければ良いんだけど。


 夕食の時間、お父様から小言を言われた。予想はしていたけど、執務室に呼び出されなかっただけ良かったと思うことにする。事前にお母様が知っていたことが明暗を分けたようである。どうやら昼食のあとでお母様が執務室を訪れて話したようなのだ。


「ユリウスが作った強化ガラスは温室の窓に採用することにした。他にも我が家で使っている馬車の窓にも使う。問題がなければ国王陛下にも、領地で作った特製の馬車を進呈しようと思っている」

「それは良い考えですね。ハイネ辺境伯領は馬だけでなく、馬車も素晴らしいとなれば、両方を合わせて買ってくれますよ」

「そうあって欲しいな」


 俺がそう言うと、お父様が大きくうなずいた。すでにハイネ辺境伯領は馬の一大産地になりつつある。足の速い名馬だけでなく、馬車を軽々と引くことができる、力のある馬も評価されているのだ。予想以上の成果である。

 お父様が俺にあまり強く言って来ないのはその辺りの評価があるからかな。


「ユリウスお兄様、夕食が終わったら掃除機の魔道具の設計図を見て下さい」

「もう完成したのかい? さすがはロザリア。見せてもらうよ」

「えへへ、お兄様がたくさん教えてくれたからですわ」


 にぎやかだったはずの食卓が一瞬だけ静かになったような気がした。気のせいかな? 恐る恐る顔をあげると、お父様は頭を抱え、お母様とアレックスお兄様は「さすが親子」と言いたくなるような、同じ笑顔を浮かべていた。


「ユリウス、また何か作るつもりなのかい?」

「いいえ、この場合は、すでに何か作っているわね。今度は一体、何を作ろうとしているのか、お母様に教えてくれないかしら? ねえ、ユリウス、ロザリア」


 ロザリアの顔が引きつっている。たぶん俺も同じ顔をしていると思う。さすがは兄妹。

 こうして俺とロザリアは代わる代わる、昼間に話し合った温室で使う魔道具のことも含めて話した。

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