第376話 魔法耐性試験

 ライオネルに魔導師を呼んで来てもらっている間に試験の準備を行う。今日は強化ガラスを物理的に割るのが目的ではないので、離れた場所から魔法を撃ち込んでもらおうと思っている。


「ユリウスが魔法を使えば良いんじゃないの?」

「遠慮しておきます。それに、それを言うのならアレックスお兄様が魔法を使っても良いですよね?」


 どうやらアレックスお兄様は俺の魔法を見たいようである。そう言えば、お兄様は俺が魔法を使うところを見たことがないような気がするぞ。もしかして気になっているのかな? 別に使っても良いんだけど、何だか俺が魔法を使うと面倒なことになりそうな気がするんだよね。


 ぞろぞろと魔導師たちがやって来た。その後ろには騎士たちの姿もある。午前中の鍛錬はどうした。やっぱりみんな気になるのかな?


「ユリウス様、連れて来ましたぞ」

「こっちも準備できたよ」


 指差した方向には等間隔で強化ガラスが並んでいる。これに一つずつ魔法を撃ち込んでもらう予定だ。まずは火属性魔法……は止めておいて、他の魔法からにしよう。今回の強化ガラスは火耐性に特化しているので、壊すのに時間がかかるだろうからね。


 魔導師に指示を出し、魔法を使ってもらう。固さは、先日試験した強化ガラスの中でも、一番固くない物と同じだと伝えてある。それだけで大体の固さが分かるはずだ。


 魔法が次々と撃ち込まれてゆく。土魔法、風魔法、水魔法、氷魔法。さすがは魔法耐性を付与しているだけあって、それなりの威力の魔法でも難なく耐えていた。


「これはすごいですな。思った以上の成果です。先日の魔法耐性試験のときよりも、ずっと壊れにくくなっておりますな」


 おっと、始めて聞く情報だ。これはあとでしっかりと聞いておかないといけないな。たぶん、魔導師たちが作った強化ガラスで魔法耐性試験を行ったのだろう。「好きに試験して良いよ」と言っておいたからね。


 俺たちが歓声を上げながら見守っていると、ようやく強化ガラスが割れ始めた。魔法の威力は結構な強さになっていた。これなら十分に魔法耐性を持たせることができたと言っても良いだろう。


「最後は火属性魔法だね。前の試験結果はどうだったの?」

「ユリウス様が懸念していた通り、火属性魔法ですとすぐに溶けてしまいました。火耐性はほぼないと言って良いでしょう。むしろ、物理的に壊すよりも効率が良いですな」


 予想通り、強化ガラスにとって火は弱点だった。さて、見せてもらおうか。塗布剤の火耐性とやらを。一息ついた魔導師たちが準備ができたと報告してきた。ライオネルが最終調整をして試験が開始される。


「それでは試験を開始する。まずは前回と同じ規模の魔法を使え」

「ハッ!」


 ライオネルの指示でキビキビと動き出す魔導師たち。ウチの魔導師団には魔導師団長がいないので、事実上、ライオネルがトップなのだ。

 最初に放たれたのはファイヤーボールである。ゴォ! と言う音と共に強化ガラスへ飛んで行く。


 そのままぶつかるかと思ったのだが、当たる直前に、風船の空気が抜けるかのように急激にしぼんでしまった。

 首をかしげる魔導師。俺も同じように首を左に傾けた。周りを見ると、みんな同じように首を傾けている。


「何があった?」

「わ、分かりません。急にファイヤーボールの勢いが弱くなって……私にも何が何だか」


 困惑する魔導師。それを見たライオネルがもう一度、ファイヤーボールを放つように指示した。だが、二度目も同じようにシュンとしぼんでしまった。


「ユリウス様、もしかしてこれが火耐性の効果ではないでしょうか。確か『特大』でしたわよね」

「うん、そうだね」

「火耐性の効果が特大だって!」


 アレックスお兄様が俺の肩を激しくつかんで来た。ちょっと痛い。俺の顔が苦痛でゆがんでいたからなのか、「ごめん」と言いつつ、すぐに離してくれた。しかし、驚きは収まらなかったようで、目を白黒とさせている。


「効果が特大なんて、聞いたことがないよ。一体どうなっているんだ……」

「アレックス様……心中、お察しいたします。次だ、次の試験に移るぞ!」


 何やら察したライオネルが魔導師に次の指示を出した。今度は三人がかりで魔法を使うようである。魔導師たちが息を合わせてファイヤーボールを放った。だがしかし、先ほど同じように強化ガラスに当たる前にしおしおとしおれてしまった。肩を落とす魔導師たち。なんか悪いことしちゃったな。


「ああ、えっと、火耐性も確認できたし、試験を終わりにしようか。これ以上やると、みんなの鍛錬に差し支えるだろうからね」


 すでに周囲にはウワサを聞きつけた騎士と魔導師たちが集まって来ていた。これ以上続けると普段の業務の妨げになってしまう。ここまで人が集まってきて、今さら目立たなくすることは無理だろう。そこはもうあきらめた。

 そしてこの場にはアレックスお兄様がいる。きっとお兄様が何とか騒ぎを抑えてくれるはずだ。


「そ、そうだね。このくらいにしておいた方が良いかも知れないね。お父様にはファイヤーボール三つにも問題なく耐えることができたと伝えておくよ。アハハ……」

「アレックス様」


 ライオネルに呼ばれてビクッとなるアレックスお兄様。名前を呼ばれたお兄様の顔には引きつったような笑顔が張りついていた。助けを求めるようにお兄様がこちらを向いているようだが、気がつかない振りをしておいた。

 反応すれば俺たちまで巻き込まれることになるだろう。


「な、何かな?」

「これは大変なことですぞ。どこまで火耐性があるのかを調べなければなりません。ですからここでやめるわけにはいきません」

「やっぱりそうだよね? 私もそうじゃないかなーと思っていたところだよ」


 アハハと笑っていたが、お兄様の額から汗が流れ落ちたのを俺は見逃さなかった。これは「この場から逃げる」一択だな。アレックスお兄様を生贄に捧げて、俺たちは逃げるぜ!


「お兄様、私たちはこれからミラの毛を刈らなければならないので、この辺りで失礼しますね」

「お待ち下さい」


 グワシとライオネルに肩をつかまれた。くっ、やっぱり大魔王ライオネルからは逃げられなかったか。


「ユリウス様もどこまで火耐性があるのか、気になりますよね?」

「う、うん、とっても気になるなー」


 怖い、ライオネルの笑顔が過去最高に怖いことになっているぞ。何と言うか、大魔王のようなオーラを感じる。チラリと横目で見たファビエンヌとネロ、ミラの顔も引きつっていた。

 ごめんね、みんな。俺のせいで怖い思いをさせてしまって。

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