第375話 フワフワのサラサラのモフモフ

 お風呂から上がるとすぐにミラを乾かした。冷温送風機で乾かすのが面倒だったので、魔法を使って乾かす。こっちの方が自由に風量と温度を変えることができるので、断然早く乾かすことができるのだ。


「器用ですわね。さすがは賢者様と言われるだけはありますわ」

「いやぁ、それほどでも……ファビエンヌもそう思うの?」

「違うのですか?」

「個人的には違うんじゃないかなと思ってるんだけど」


 みんな賢者、賢者って言うけど、その基準は一体なんだ? ちょっと魔法が使えたらみんな言われているのかな。もしかして、単なる社交辞令だったりするのかも知れない。それならもう、あまり気にしないでいよう。


「キュ、キュ!」

「ちょっとミラ! 別にファビエンヌをいじめているわけじゃないからね?」

 

 ファビエンヌのピンチだと思ったのか、ミラがすごい勢いで頭突きをしてきた。どうやらミラはファビエンヌのことをかなり気に入っているみたいである。これはこれで良い傾向だな。

 少し考え込んでいたファビエンヌがハッとした表情を浮かべた。


「ユリウス様にとってはご迷惑でしたよね。ごめんなさい」

「いや、別に迷惑じゃないんだけど、俺なんかにそんな称号を与えられると、畏れ多いと言うか、何と言うか」

「ユリウス様はそれに見合う実力を持っておりますわ。でも確かにみんなからそのように言われたら萎縮してしまいますわよね。もし私がユリウス様と同じ立場なら、同じような気持ちになると思いますわ」


 ファビエンヌもミラも納得してくれたようである。ミラの頭突きが止まった。そうこうしている間にミラの毛が乾いた。フワフワのサラサラのモフモフである。これはたまらん。

 思わずミラにほおずりする。


「キュ」

「いいじゃん、ちょっとくらい~」

「ユリウス様、私もやってみたいですわ」

「あの、私も……」


 そうして代わる代わるミラにほおずりしたり、抱き上げたりしてミラを堪能した。

 お風呂場近くのサロンに行くと、そこにはロザリアの姿があった。キレイになったミラを見て、目を輝かせて飛びついていた。一方のミラも、ロザリアに抱きつかれてうれしいのか、一緒にじゃれ合っていた。仲がよろしいことで。もう完全な姉弟だな。

 その夜はミラとファビエンヌと一緒に寝た。もちろん手は出してない。ミラが間にいるからね。




 翌日、朝食が終わるとすぐに調合室へと向かった。強化ガラスを取りに行くためである。いつのもメンバーに加えて、アレックスお兄様の姿もあった。


「お兄様、無理はしてないですか? 私たちだけで試験はできますから、商会で仕事をしていても良いのですよ」

「ひどいなぁユリウスは。そんなに私を追い出したいのかい?」

「……」


 その通りである。目撃者が騎士団と俺たちだけなら、何もなかったことにすることができる。しかしお兄様が見ているのならば、そうはいかないだろう。でも、断ることはできない。何だか楽しそうにしているんだよね。やっぱり一人は寂しいのかな?


「これが例の魔法薬を塗布した強化ガラスか。見た目はただのガラスだね」

「塗布剤を塗っても見た目が変わらないようにしてありますからね。色つきのガラスは使いにくいですからね」

「それもそうだね。食器や魔道具に使うのにはそれほど問題ないかも知れないけど、窓のガラスに使うなら、透明なものが良いかな」


 強化ガラスを手に取って確認する。うん、問題なく魔法耐性の効果が付与されているようである。そう言えば、あまり付与するって言葉を聞かないな。もしかしてそんな技術、これまでなかったのかな?


「アレックスお兄様、この強化ガラスのように、何かしらの効果を後から付与することってあるのですか?」

「あるにはあるよ。武器に火属性魔法を付与したりすることができるんだ。でも、どうやってそれをするのかは分からないね」

「鍛冶屋で付与を行うんですよね?」

「それも分からない。王家主催の品評会に、そういった類いの物が持ち込まれることがあるそうだよ」


 なるほど、出所は不明と言うことか。もしかすると、現在の技術では再現することができない、オーパーツ的な何かなのかも知れないな。これは気軽に付与するのは止めておいた方が良さそうだ。

 しかも、魔法薬を塗布するだけで付与できるとか、大騒ぎになる未来しか見えないな。


 強化ガラスが入った箱を使用人に持ってもらい、騎士団の訓練場へと向かった。そこではいつものように午前中の鍛錬が行われている。

 到着するとすぐにライオネルが声をかけてきた。どうやら待っていたようである。


「アレックス様、ユリウス様、ファビエンヌ様、おはようございます。……もしや、鍛錬をするおつもりですかな?」

「おはよう、ライオネル。残念だけど違うんだよ」


 痛いところを突かれてアレックスお兄様が苦笑いしている。ここ最近は商会の仕事が忙しくて、訓練場に顔を出していないのだ。次期当主なのでそれほど武力は必要ないのだが、健康のためにも、少しは運動してもらいたいと、ライオネルは思っているのかも知れない。


「おはよう、ライオネル。お兄様は強化ガラスの試験を見学に来たんだよ」

「なるほど、やはりそうでしたか!」


 納得するんかーい! どうしてそんなにうれしそうな顔をするのか。もしかしてアレか? アレックスお兄様がこの場にいるなら、「何が起きても報告はアレックスお兄様がやってくれるので助かった。よっしゃラッキー!」とか思ってない? ぐぬぬ。


「今回の強化ガラスは魔導師たちが作ったのと同じ固さのものだからね。そこに魔法耐性が向上する塗布剤を塗りつけてある」


 ライオネルが強化ガラスを手に取り、裏表を確認し、日に照らしたりしている。そして最後に指でキンキンと弾いた。


「見た目はただのガラスですな」

「フッフッフ、すごいでしょ? 魔法耐性の試験が楽しみだな~」


 そう言った俺の顔をアレックスお兄様とライオネルが苦笑いを浮かべながら見ている。何で? あ、ファビエンヌもネロもミラも同じような顔をしている。もしかして試験を楽しみにしてるのは俺だけだったりするのかな?

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