第374話 新たな可能性

 お風呂の順番が回ってきたので、ファビエンヌとミラと一緒に入る。もちろんネロもいるし、他の使用人たちと同じように、全員が水着を着用している。

 水着を作って良かったな。体を洗うときだけは脱ぐことになるけど、それ以外は安心してお風呂に入ることができる。


 ファビエンヌが体を洗っているときは、湯船につかって別の方向を向いていれば良いのだ。その間はミラとじゃれ合っていれば良い。


「ミラ様の毛は本当に長くなりましたね」

「そうだね。生まれてから一度も切ってないからね。てっきり伸びないのかと思ったよ」

「キュ?」


 ミラを観察しながら不思議に思った。ゲーム内では毛刈りイベントなんてなかった。きっとこの世界特有のイベントなのだろう。

 いや、ちょっと待てよ。もしかして、ミラにおいしい物を食べさせているから、その余剰分で毛が伸びているだけでは?


 最近ではドライフルーツやクッキー、ケーキなんかも食べている。本来なら俺がおすそ分けしている魔力だけで、ミラの体は維持することができるはずである。ミラは聖竜なので太らない。その代わりに毛が伸びているのかも知れないな。これは思わぬ発見だ。


 ファビエンヌの体が洗い終わったところで、今度はミラの体を洗うことにした。普段から洗ってはいるものの、今日はいつもより丁寧に洗う。


「キュ、キュ」


 泡だらけになったミラが喜んでいるような声を出している。たぶんうれしいのだと思う。スポンジは使えないので、手でワシャワシャと洗う。俺とファビエンヌ、ネロの三人がかりで洗っているのですぐにでも終わりそうだ。


「ミラちゃんの毛並みは気持ち良いですわね」

「サラサラだよね。さすがは聖竜」

「ミラ様の毛は何かに使えるのですか?」


 前足を丹念に洗いながらネロが聞いてきた。どうやらネロには俺の魂胆がバレているようである。さすネロ。ミラが目を細くしてこちらを見ている。そんなミラの頭をしっかりと洗ってあげる。気持ち良さそうにしているな。


「ミラの毛が何に使えるかはまだ分からないよ。色々と試してみようと思う。確か聖竜は魔法耐性がものすごくあるから、この毛にも同じような性質があるんじゃないかな?」

「それでしたら、今日作った塗布剤よりも、もっと魔法耐性がある魔法薬を作れるということでしょうか?」

「なるほど、それは良い考えだね」


 うむうむ、ファビエンヌも随分と魔法薬師としての実力を身につけているようである。すぐにその発想が出て来るところが良く考えている証拠だ。確かに作れそうだな。まずはそれから試してみよう。


「ユリウス様、塗布剤はガラスにしか使えないのですか?」

「いや、金属にも使えるよ。そうか、騎士団の使っている鎧に塗布すれば、魔法防御力の高い鎧を作ることができるぞ」

「それって、大丈夫なのですか?」


 恐る恐るファビエンヌが聞いてきた。実に良い質問だね。大丈夫じゃない可能性を考えていなかった。危ない危ない。ファビエンヌが一言いってくれなかったら、大変なことになっていたかも知れない。


「よし、良く考えてみよう。まずは魔法耐性がある鎧がどのくらい存在するかだな」

「あまり聞いたことがないですが、王家にはあるのではないですかね?」

「王家か……もっと一般的には出回ってないのかな?」

「うーん、物語の中でしか聞いたことがないような気がしますね。魔法に強い金属と言えばミスリルでしょうか?」


 ミスリルか。確かにあれなら魔法耐性があるな。あとはオリハルコンか。こっちは存在するのかな? 魔法耐性が高い布ならどこかにありそうな気もするぞ。


「ミスリルってその辺りで売っているのかな?」

「……見たことないですね」

「じゃあ鎧に塗布するのはやめた方が良いかな~」


 これは危険だと思ったのだろう。ネロとファビエンヌが苦笑いしている。たぶん今の俺の顔も同じように苦笑いしていることだろう。騎士たちの安全性が高くなるのは良いことだと思うんだよね。でもそれをやると「またユリウスがやらかした」となるだろう。危険だ。


 さいわいなことに、これまで魔法耐性が必要とされる場面はほとんどなかった。魔法を使ってくる魔物はそうはいないし、火のブレスを吐いてくるような魔物もこの辺りにはいない。つまり、そこまでの防御性能は要らないのだ。


 でも、万が一ってこともあるしなー。エリート騎士たちのために、高級装備品として備えておくのは悪くない発想だと思う。そのような話を二人にするとすぐに賛成してくれた。


「それは良い考えですわね。何が起こるか分かりませんもの。備えがあった方が良いに決まっておりますわ」

「ファビエンヌ様の言うとおりだと思います。数をそれほど作らない、かつ、ハイネ辺境伯家の騎士団にしか流通させないとすれば、そこまで問題にはならないと思いますよ」

「それじゃ、明日にでもライオネルに相談してみることにするよ。お父様たちには……事後報告で良いかな?」


 あ、二人とも微妙な顔をしている。これは先にお父様に話を通しておいた方が良さそうだぞ。でも塗布剤がどのくらい効果があるのか分からないんだよね。そこがネックだ。

 張り切って提案したのに、大した効果じゃなかったらガッカリするかも知れない。


「お父様にはちゃんと話すよ。でもその前に、どのくらいの効果があるのかを確認しないとね」

「それもそうですわね。塗布剤の効果があるのは確かですが、それがどのくらいの魔法に耐性があるのかまでは分かりませんものね。しっかりと試験をしてから提案する方が納得してもらえると思いますわ」


 ミラと共に泡だらけになりつつあるファビエンヌも納得してもらえたようである。

 しっかりとミラを洗ったところで、シャワーで泡を洗い流してあげる。こんなとき、シャワーはとても便利である。あっという間にツヤツヤのミラのできあがりだ。


「これであとは乾かせば、フワフワのミラの完成だね」

「楽しみですわ」

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