第372話 鋭くない?
お父様が答えを出せずに考え込んでいる間に「夕食の準備が整った」と告げられた。このままではどうしようもないので、お父様を促してダイニングルームへと向かう。今日の夕食はライオネルも一緒のようだ。
ダイニングルームではすでにみんなが待っていた。俺たちが最後らしい。相変わらずの渋面でお父様が席に座った。
「マックス、何かあったの? またユリウスが何かしたのかしら」
気づかわしげにこちらを見るお母様。お父様と一緒に食堂に到着したからとはいえ、迷うことなく俺がまた何かやったと思われているのはちょっぴり心外である。お父様が俺に何か厄介事をお願いした可能性も無きにしも非ずなのに。
「まあ、そうだな。それよりも食事にしよう。料理長が腕によりをかけて作ってくれた料理だ。冷める前に食べようではないか」
お父様の言葉を受けてみんなが食事を食べ始めた。ファビエンヌが心配そうにこちらを見ていたので、何の話があったのかをコッソリと話した。お父様は別に秘密にしろとは言わなかったので大丈夫だろう。あの場にはネロもいたからね。
「インテリジェンスウエポン? 初めて聞きましたわ。お話したりできるのでしょうか?」
「どうかな? そこまでできるのなら、例の日記にも書き記してあると思うんだよね」
「確かにそうですわね。その、ユリウス様はそのようなものを作ったりすることができるのですか?」
どうだろう? 確かゲーム内では意志を持ったゴーレムや、ホムンクルスを作ることができたな。素材さえそろえば作れる可能性は大いにある。でも生命を作り出すようなことをすれば、この世界では大問題になりかねない。
「……作れますのね」
「いや、作れないよ? ちょっとそんなことができたら面白いなーって思っただけだからさ」
ハハハと笑う。ファビエンヌ、鋭くない? 一緒にいる時間が長くなったおかげで、随分と俺のことを理解してくれているようである。今も疑うような目でこちらを見ていた。
話題を変えなければ。このままではまずい。ここにロザリアが加わって来たら面倒くさい。
「ファビエンヌ、今日のスープは絶品だね」
あ、ファビエンヌが笑っていない笑顔をしている。ちょっとあからさま過ぎたかな? だが、スープが絶品なのは事実なので、二人で黄金色のスープを堪能した。
しばらく食事が進んだ頃、しびれを切らしたかのようにお母様が口を開いた。
「それでマックス、何があったのかしら?」
お母様の笑顔にタジタジになったお父様が、俺が作った強化ガラスについての話をした。そのことを知っている俺たちは何の反応も示さなかったが、アレックスお兄様は驚いていた。そして興味を持った。
「それはすごい。これはぜひとも馬車の窓に使いたいね」
「良い考えだわ。これまでのガラスは頼りなくて、小さな窓しか作れなかったものね」
アレックスお兄様とお母様の会話は弾んでいた。これなら例のあの剣の話はしなくてすみそうである。何とか乗り切ったかな? お父様もようやく考え事がまとまったようで、その話に加わっていた。
「ユリウスお兄様、あの強化ガラスは火に弱いんでしたよね。大丈夫なのですか?」
「大丈夫だよ。火にも強くすることができる魔法薬を作っておいたからね。その魔法薬を塗れば、火にも強い強化ガラスができるよ」
「すごいですわ!」
「そうだろう、そうだろう。……あれ?」
先ほどまで楽しそうに話していた食卓が静まり返っていることに気がついた。良く見ると、お父様たちの目がこちらに向いていた。
もしかして、火に強くするのはまずかった?
「ユリウス様、今のお話は本当なのですか?」
「え? うん、まあ、本当だよ? 魔法薬が強化ガラスに定着するまでに時間がかかるから、明日、試験をしてもらおうと思っていたところだけど……」
あ、ライオネルが頭を抱えている。やっぱりまずかったかな? 強化ガラスの弱点は残しておくべきだったか。でも、一番固い強化ガラスを作れるのは今のところは俺だけだし、普通は魔導師たちが作った物と同じ固さになるんだよね。
そんな話をライオネルにすると、納得してくれたのか、その顔から険しさがなくなった。
まあそうだよね。敵側に使われたら非常に困ったことになる代物だからね。この分だと、俺が魔力を込めた強化ガラスは売りに出さない方が良いな。必要な数だけ作ることにしよう。
「ユリウス、聞いてないぞ?」
「そ、それは、まだ試験をしていないのでどのくらいの効果があるのか分からなかったからですよ。明日の試験が終われば報告するつもりでした」
疑うような目でこちらを見るお父様。あの目は信じてないな。本当なのに。これは明日の試験結果しだいでは、お父様の心労を増やすことになりかねない。良かれと思ってやったことが、こんなことになるなんて……。
「ユリウスからは本当に目が離せないわね」
お母様が困ったように目を細めて笑っている。決して怒っているわけではないのだが、随分とあきれているようだ。これはちょっと自重しないと。監視役としての役割も持っているファビエンヌが「ふがいない」と思われると困る。
「お母様の言う通りですね。ユリウスのことだ。他にも何かやらかしているんじゃないのかな。どうなの、ロザリア?」
冗談めかしてアレックスお兄様が尋ねた。きっとアレックスお兄様も本気で俺が他にもやらかしているとは思っていなかったはずだ。単に俺をちょっとからかうつもりだったのだろう。だが、現実は非情である。
アレックスお兄様に話を振られたロザリアが小首をかしげて考え込んだ。
「もしかして、剣が光ったお話でしょうか?」
無垢な瞳でロザリアが俺の方を見た。そんな目で俺を見るんじゃない。否定しづらいじゃないか。ほら、お母様とアレックスお兄様の視線が俺に集まってる。
「ユリウス?」
お母様が優しく声をかけてきた。だがその笑顔はどう見ても笑っているようには見えなかった。なんでこうなるの。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。