第357話 追加注文入ります

「アレックスお兄様も一緒に来るのですか?」

「もちろんだよ。ロザリアが作った魔道具を見せてもらわないとね」

「仕事は大丈夫ですか?」

「あはは、少しくらい息抜きをしても大丈夫だよ」


 お兄様がそう言うのなら大丈夫なのかな。顔色も悪くないみたいだし、無理はしていないと思う。

 そんなわけで、新たにお兄様を仲間に加えて設置場所である店舗へとやってきた。


「人がたくさんいますわ!」


 人でにぎわう店の中を見てロザリアが弾むような声をあげた。夕食の時間にはいつも商会の話が話題になっているが、これほどまでとは思っても見なかった様子である。興味津々といった感じで目がランランと輝いている。


「ロザリア、この扉に設置して欲しいんだ」

「分かりましたわ」


 従業員が脚立を持って来た。どうやらアレックスお兄様はロザリアに取り付けてもらうことにしたようだ。ここはロザリアの手柄を取らないように、俺はサポートに徹しよう。

 俺と同じく、ロザリアに甘々のアレックスお兄様がハラハラとした様子で脚立に立つロザリアの周りを巡回していた。ご苦労様です。


「キュ」

「どうしたの、ミラ? 何か気になる物があった?」


 ミラの視線が商会の中に置いてあるドライフルーツへとそそがれている。この食いしん坊め。仕方がないのでいくつかネロに買ってきてもらった。いくら商会関係者とはいえ、タダで失敬するのは良くない。


「キュ!」


 おいしそうにドライフルーツを頬張るミラ。小さいミラもありだな。そう思ったのは俺だけではなかったようで、ファビエンヌもミラにドライフルーツをあげながら目尻をこれでもかと下げていた。


「完成しましたわ。ユリウスお兄様、確認をお願いしますわ」

「どれどれ……うん、問題なしだね。さすがはロザリア」

「あっという間に取り付けられるんだな」


 感心するような声を出したアレックスお兄様が扉の具合を確かめた。手を離すと勝手に閉まる扉を見て、近くで見ていた従業員が目を丸くしていた。


「これはすごい。本当に勝手に閉まるんだね。これで扉の閉め忘れもなくなるね」

「そうなると思います。あ、この角度まで開くと閉まらなくなるので、開けっ放しにしたいときはそうして下さい」

「なるほど、良く考えられているね」


 扉を大きく開くと、勝手にストッパーがかかるような仕組みになっているのだ。普段はそこまで開けないはずなので、荷物の出し入れのときに利用してもらえるはずだ。

 お兄様も気に入ったようであり、みんなと同じように何度も開け閉めしていた。そしておもむろにこちらに顔を向けた。


「二人とも、できればこれを他の場所にも取り付けたいのだけど、追加で作ってもらえないかな?」

「それは構いませんけど、いくつくらいですか?」

「えっと」


 慎重に指を折って数えるお兄様。どうやら商会と店舗の中には開けっ放しにされることが多い扉がいくつもあるらしい。それだけ従業員が行き交っているということなのだろう。俺が思っているよりも忙しいのかも知れないな。


「全部で五つ欲しいかな」

「分かりました。ロザリアと手分けして作っておきますよ」

「お任せあれ!」


 ロザリアはやる気満々だな。頼りにされてうれしいようである。商会がにぎわっている様子を見て、そこに自分も関わることができるのだからね。気持ちは分かる。

 そのときになって、ようやくお兄様が俺の胸ポケットにいるミラに気がついたようである。


「ユリウス、そのポケットに入っているのはもしかして……」

「あ、気がつきました? ミラがどうしても一緒に来たいって言うから小さくなってもらったんですよ。どうですか? これなら騒ぎになりにくいと思うのですが」

「そうだね、だれも気がついていないみたいだし、飛び回ったり、声を出したりしなければ大丈夫そうだね」


 そう言われたミラは自分の両手で口を塞いだ。その仕草がかわいくて思わずなでた。我慢できなくなったのか、ファビエンヌもなでている。ちょっと奇妙な光景だな。


 そうこうしているとロザリアが自分もとせがんで来たので、ミラをロザリアの持つポシェットへと移動させた。

 これなら問題ないだろう。ロザリアが小さなぬいぐるみを持っているようにしか見えない。


 その後はお兄様と一緒に店舗の中を一回りして、最後に奥にある工房をロザリアに案内した。

 工房の様子を見たロザリアは終始興奮気味だった。工作室で作るときには、多くても俺とロザリア、リーリエの三人だからね。


 何人もの人たちが色んな種類の物を作っている光景は、ロザリアにとっては初めての光景に違いない。これは自分もここで作りたいと言い出す日も近いかも知れないな。

 帰りの馬車の中でロザリアが聞いてきた。


「お兄様、屋敷に閉鎖装置をつけないのですか?」

「屋敷には必要ないんじゃないかな。ほら、俺たちが開けっ放しにしても使用人が閉めてくれるだろう?」

「そう言われるとそうですね。残念です」


 どうやらロザリアは屋敷中に閉鎖装置を取り付けて回りたかったようである。やろうと思えばできるとは思うけど、同じ物をひたすら作っているとさすがに飽きるんじゃないかな。


 これからのロザリアに必要なのは新商品の開発力だな。色んな物を見せて、不便な思いをして、それを糧にして新しい魔道具を作ってもらえるといいな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る