第353話 閉鎖装置
動作は昨日の模型で確認した。何の問題もないはずだ。
木の扉に装置を設置する。この装置の名前を考えないといけないな。何が良いかな?
勝手に扉が閉まる装置……開閉装置だと開かないからウソになるし。閉鎖装置にするか。
そんなことを考えながらも設置が完了した。扉に向かってコンコンと釘を打ち付けているとお母様がやって来た。昨日の夕食の席で話したから、扉に細工を施していても問題はないはずだけど。
「完成したのかしら?」
「はい。たった今、取り付け作業が終わりました。あとは試してみるだけですね」
そう言いながら扉を開く。うん、問題なく開くな。気になっていた抵抗感もそれほどなさそうである。これならミラも問題なく扉を開けることができるだろう。
手を離すと、ゆっくりと扉が閉まり、最終的にカチャリと音を立て、キッチリと閉まった。
「問題なさそうです」
「すごいですわ、お兄様!」
「さすがですわね」
「キュ!」
今度はミラが扉を開けた。小さい体でも十分に開けられるようである。手を離し、勝手に閉まる様子を見て喜んでいた。そのあとにロザリアが続く。
「本当に独りでに閉まる扉を作り上げるとは思わなかったわ」
「信じていなかったのですか?」
「そんなことはないわよ。ただ、ユリウスの頭の中をのぞきたくなったわ。一体どこにそんな発想が詰まっているのかしら」
ジッとこちらを見るお母様。もしかして、俺の脳みそが狙われている? そんな俺の顔を見て、お母様が笑った。
「アレックスが随分と気にしていたけど、これなら欲しいって言いそうね」
「まさか、商品にするつもりじゃないですよね? それなら設計図を渡しますよ」
「そのうちそうなるかも知れないわね。でも今のところは屋敷の中だけにしておくんじゃないのかしら?」
と言うことは、これから俺は閉鎖装置をいくつか作って、屋敷中に設置することになるわけだ。大量生産しなくてすむだけ良かったと思うべきか。
「ユリウス、これは魔道具じゃないのよね?」
「違いますよ。バネの力を利用しているだけです」
「そうなのね。それなら新しく雇う人たちでも作れるわね」
その後もお母様がブツブツとつぶやいている。どうやらダニエラお義姉様が抜けた穴は、一時的にお母様が塞ぐことになっているようだ。そのことを聞かされていないということは、秘密裏に動くことにしているのだろう。
きっとダニエラお義姉様の居場所を取らないようにするための処置だな。その気持ちは分かる気がする。ハイネ辺境伯家に戻って来たのに居場所がなかったら、たぶん泣くと思う。
「無事に設置も終わったので、これからお兄様のところに行ってみます」
「あら、忙しいのなら別に良いのよ? 特に急ぎでもなかったみたいだしね」
「商会の職人たちも気になりますし、問題ありませんよ」
念のためファビエンヌに確認すると、問題なしとばかりにうなずいてくれた。扉を開け閉めして遊んでいるロザリアとミラを扉から引きはがすと、しっかりと鍵をかけた。
うーん、不服そうな顔をしているな。しょうがない。工作室の扉にも装置を取り付けるか。
「戻って来たら、工作室の扉につける閉鎖装置を作ることにするよ。そのときにはロザリアにも手伝ってもらおうかな?」
「本当ですか? 工作室で待ってます!」
「キュ!」
二人がダッシュで工作室へと向かって行った。その様子を見たお母様がため息をついていた。これはあとでロザリアが怒られるパターンだな。ご令嬢が廊下を走るなって。申し訳なさそうにお辞儀をしてからあとを追いかけるリーリエの姿が印象的だった。
トラブルメーカーのご主人様に仕えると大変だよね。去りゆくリーリエをそんな表情で見送っていると、微妙な顔をしたネロがこちらを見ていた。あなたもその一人ですよとでも言いたそうである。一応、反省はしている。
商会に行き、様子を確認する。まだ大きな混乱は起きていないようだが、何となく商人の数が増えているような気がする。これはまとめ買いに制限を設けた方が良いのかも知れない。
今は認知度アップを優先した方が良いだろう。まだ商会が立ち上がったばかりなのだ。これから支店を増やすつもりならば、多くの商人に取り扱ってもらい、広い地域に売り出した方が今後のためになるはずだ。
「お兄様、お疲れ様です」
「ユリウス、来ていたのかい? そうなると、例の装置は無事に設置できたようだね」
「はい。そのことで報告に来ました。お母様からお兄様が気にしていると聞きました」
苦笑いするお兄様。どうやら閉鎖装置のことを気にしてはいたようだが、お母様に様子を見るように頼んだわけではないようだ。お母様は少し過保護なのかも知れないな。
事情を察して、俺も顔に苦笑いを浮かべた。ファビエンヌもネロも、眉を曲げていた。
ファビエンヌとネロと一緒に閉鎖装置のことを話す。二人も勝手に閉まる扉を目の当たりにして驚いたようであり、ちょっと興奮気味に話してくれた。それを聞いたお兄様は随分と関心を持ったようである。
「それは気になるね。戻ったら工作室にも設置するんだったね? そうだな、私の部屋にも設置できないかな」
「それはできますが……それよりも、店頭とその奥を区切る扉に設置した方が良いのではないですか? ときどき閉め忘れているのか、開いたままのときがありますよね?」
「あそこは人の通りが多いからね。次の人がすぐに通るだろうと思って、開けたままにする人がいるみたいなんだよ。防犯のためにも、しっかりと閉めてもらいたいんだけど……頼めるかな?」
「もちろんですよ」
こうしてお兄様から新たな仕事を請け負い屋敷へと戻った。
危ない危ない。個人の部屋に閉鎖装置を取り付けたりしたら、全部の個室に取り付けることになりかねない。屋敷に一体いくつの扉があると思っているんだ。考えただけでも恐ろしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。