第352話 閉まる扉

 ファビエンヌが魔法薬を作ってる間に工作室へと向かった。材料がなくては自動で閉まる扉を作ることはできない。


「ユリウス様、本当に勝手に閉まる扉なんて作れるのですか?」

「バネをうまく使えば作れるはずだよ。まあ、やってみないと分からないところはあるけどね」


 原理は大体分かるが、実際に作ったことはないからね。うまい具合に金属棒やバネを使えば何とかなると思う。

 工作室にはロザリアとミラの姿があった。


「お兄様! 魔法薬作りはもう終わったのですか?」

「一段落はついたかな?」


 バネに使えそうな金属の板をネロに持ってもらいつつ、自分は金属の棒やその他の役に立ちそうな物を集めていく。そんなことをしていると、すぐにロザリアが気がついた。


「お兄様、何か作るつもりですね」

「まあね。できてからのお楽しみ」

「私もついて行きますわ」


 ガシッと腕にしがみついてきた。これは引きはがすのは無理だな。時間を無駄にしたくないし、連れて行くことにしよう。もちろんミラもついて来た。

 調合室に戻るとまずは小さな模型を作ることにした。いきなり扉を改造して失敗しましたではすまされないからね。


「こんな感じかな」

「工作室で作っても良かったのじゃないですか?」

「ファビエンヌを一人にさせるわけにはいかないからね」


 俺の声が聞こえたのか、ビックリしたかのようにファビエンヌがこちらを振り向いた。ちょっと顔が赤い。もちろんファビエンヌのそばにはお付きの使用人がいつもついているので正確には一人ではないのだが、それはそれでノーカウントである。


 ファビエンヌにほほ笑みを返して模型で扉の開閉を確かめる。扉は小さいが、取り付けてある装置は実物大だ。前後に動かすと抵抗なく動いた。

 扉を開けた状態で手を離すと、ゆっくりと扉が閉まる。


「キュ!」

「閉まりましたわ!」


 二人が声を上げた。ファビエンヌも気になるのか、チラチラとこちらを気にしているようだ。これは良くないな。魔法薬を作るのがおろそかになってしまう。模型作りを中止して魔法薬作りを手伝った。

 無事に魔法薬作りが終わるとファビエンヌもテーブルの方へとやって来た。


「これが勝手に閉まる扉ですのね。不思議ですわ」


 開けて、閉めてを何度か繰り返している。バネの力を利用するだけなので、原理はそれほどでもなかったりする。だがしかし、ゆっくりと扉を閉めるにはバネの反発力を何度も調整しなければならなかったし、うまく扉が閉まるように棒の長さを調節するのも大変だった。


「あとはこれを今の入り口の扉に取り付けるだけだね。それじゃさっそく……」

「ユリウス様、念のため許可をもらった方が良いのではないですか?」


 さっそく作業を開始しようとした俺を、青い顔をしたネロが引き留めた。どうやらいきなり扉に穴をあけて装置を設置することには反対のようである。


「大丈夫、大丈夫。調合室は俺が管理しているからね。調合室に関することは何をやっても大丈夫」

「本当ですか?」

「……一応、許可をもらうことにするよ。そうなると、さすがに今日は無理そうだね」


 今日はここまでだな。あとはもう少しだけ魔法薬を一緒に作ったらファビエンヌを家まで送り届けることにしよう。

 日が大分暮れて来たところでファビエンヌを家まで送り届けることにした。完全に日が落ちてしまうとちょっと面倒なことになりそうだからね。


 ライトの魔法を使えば暗くなっても気にせずに送り届けることができるけど、それをやってしまうとものすごく目立つ。光り輝く聖竜が空中散歩していたら、嫌でも注目を集めることになるだろう。


「もう少し夏が近づけば、もっと長く一緒にいられるんだけどね」

「そうですわね。暑くなるとミラちゃんの負担になるのではないかと心配です」

「そのときは、コールドクッキーを食べてから出かけることにしよう」

「キュ!」

「楽しみですわ」


 忘れずにコールドクッキーも作らないといけないな。きっとこれもヒット商品になると思う。外で働く人たちに大人気になるだろうな。

 ファビエンヌを無事に家まで送り届けると、そのまま来た道を引き返した。


 屋敷に戻ると、その足でお父様の執務室へと向かった。もちろん装置の設置許可をもらうためである。

 口からの説明だけでは分からないかも知れない。模型も持って行こう。作ってて良かった。


「また唐突だな」


 眉をハの字に曲げて困った顔をしたお父様が、模型の扉を開け閉めしている。模型を見た人はみんな同じことをやるので、よほど珍しいんだろうな。これは別の場所にも設置して欲しいと頼まれるかも知れない。


 今のところは調合室の扉だけにしておこうかな。絶対に閉まっていて欲しい扉はここだけだからね。あとは工作室の扉? いや、あそこは別に重要な物はないし大丈夫か。ロザリアが欲しいって言いそうだけど。


「分かった。許可しよう。やってみなさい。ただし、完成したら必ず成果を報告するように」

「もちろんですよ」




 翌日、ファビエンヌを家に迎えたらすぐに作業を開始した。今日の予定は、午後からファビエンヌと一緒にダンスの練習である。そのときはロザリアも一緒だ。

 そんなわけで、ダンスの時間までに昨日作った「勝手に扉が閉まるようになる装置」を設置しなければならないのだ。


「それじゃ、さっそく始めるとしよう。と言っても、装置を取り付けるだけだからすぐに終わるんだけどね」


 ファビエンヌも気になっているようで、俺の作業に注目している。もちろん調合室にはロザリアとミラ、ネロとリーリエの姿もあった。みんな気になるようである。

 昨日、模型で散々開け閉めしたはずなのに、まだ足りなかったのか。

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