第351話 長く効く
二人の目の前でせっせ、せっせと薬草園を作っていく。拡張したスペースがちょっと広かったので、薬草で埋め尽くすことができなかった。空いたスペースには育つのに時間のかかる魔力草を植えておこう。
「手慣れておりますわね……あ、私も手伝いますわ」
「いや、ファビエンヌはそのままで。服が汚れるといけない。ここは俺に任せてよ。すぐに終わらせる」
キリッとした表情をファビエンヌに向けると、何だか複雑な表情をしていた。もしかして、貴族の息子の庭いじりにしては、こなれすぎていると思われているのかな。これはうまく誤魔化さないといけないな。
「毎日欠かさず手入れをしているから、このくらいの作業は何ともないよ」
「それにしては、庭師よりも手慣れているような気がしますけど……」
ネロが薬草園に水やりをしながら、あきれたようにそう言った。まずい。不審に思われている。このままではお母様に告げ口されてしまうかも知れない。
「ネロ、このことはお母様には内緒にしておくように」
「……分かりました」
「ユリウス様……」
どうやら二人とも察してくれたようである。鋭い子たちで良かった。
その後は何事もなく薬草園の拡張作業は終わった。これだけの広さがあれば、しばらくは薬草が不足することはないだろう。その間に、新しく雇う庭師たちに薬草園を拡張してもらいつつ、栽培の技術を磨いてもらう。
庭師たちに栽培技術が身につけばあとは全部丸投げする。何という完璧な作戦なんだ。思いついた自分の才能が怖い。欲を言えば、だれかが『栽培』スキルを身につけて欲しいところである。
「これで良し。あとは植物栄養剤をまけば、しばらくは大丈夫だろう」
「さすがはユリウス様ですわね。あっという間でしたわ」
感心するファビエンヌの近くでネロが頭を抱えていた。きっとどのように報告するかで悩んでいるんだろうな。頑張れ、ネロ。キミの両肩に俺の命運がかかっているからな。
庭仕事の次は魔法薬の作成だ。当初は初級体力回復薬を作る予定だったのだが変更する。植物栄養剤を改良しよう。
「ちょっと予定を変更して、植物栄養剤の作り方を教えるよ。それが終わったら、改良だ」
「分かりましたわ。でも、そんなに簡単に魔法薬を改良しても良いのですか?」
「人に使うわけじゃないからね。それに改良と言っても、効果を薄めるだけだし、それほど大したことはないよ」
ファビエンヌは魔法薬の勉強もしているようであり、魔法薬を勝手に改良してはいけないことを知っているようだ。しかし俺は国王陛下に直接許可をもらった魔法薬師である。毒でも作り出さない限りは大丈夫だろう。
まずは普通に植物栄養剤を作った。もちろん俺は隣で見ているだけで、作ったのはファビエンヌである。冬の間、ファビエンヌを鍛えていたので、初めての魔法薬でも危なげなく作りあげた。
「できました」
「完璧だね。もうファビエンヌは魔法薬師を名乗っても良いと思うよ」
「ありがとうございます。学園を卒業する日が待ち遠しいですわ」
俺が魔法薬師を名乗っているのは例外中の例外。しかも、一部の人の間でしか名乗っていない。正式に名乗ることができるのは学園を卒業してからになる。条件はほとんどファビエンヌと同じである。
「それじゃ、これを改良しよう。ただ薄めるだけじゃ物足りないから、その代わりに効き目が長く続くようにしよう」
こうしてファビエンヌと共に魔法薬の改良が始まった。ベースに使う素材は同じ物にして、配分や作業手順を少しずつ変えていく。地道な作業である。もちろん、追加で素材を加えることもあったりする。
「思ったよりも大変ですわね」
「違う効果を持たせるためにはどうしても試行錯誤を重ねないといけないからね」
三時のおやつの時間になったので休憩する。試作品をいくつも作ったので、さすがのファビエンヌもお疲れ気味である。だがこれで、ある程度の物が出来上がった。
あとはこれを実際に試してみるだけである。
「それにしても、ユリウス様の能力はすごいですわね。私にも見ただけで魔法薬の性能が分かる能力が欲しかったですわ」
「こればかりは教えられないからね。色んな種類の魔法薬を観察していれば、もしかすると身につくかも知れないよ」
「頑張りますわ」
気休めに言ったわけではない。物を見比べて、その違いが分かるようになれば『鑑定』スキルが身につく可能性は大いにあるのだ。あきらめてはいけない。あきらめたらそこで終わりだ。
精密な鑑定ができる魔道具を作るか? でも、それをやろうと思えば新しい魔法陣を生み出さないといけないんだよな。前に調べた限りでは、そのような魔法陣がなかったからね。
借りにもしそのような魔法陣を生み出したら、「どうやって作ったんだ」と大騒ぎになるだろう。そして「またユリウスがやらかした」とみんなの記憶に残ることになるのだ。
すでに遅いかも知れないが、それはさけたいところである。
「試作品を実際に試すのは明日にしよう。今日はもう一つやりたいことがあるからさ。その間、ファビエンヌは初級体力回復薬を作っていてもらえないかな?」
「一体何をするおつもりですか?」
「この部屋の入り口の扉を勝手に閉まるように改造しようと思ってさ」
ファビエンヌとネロが入り口の扉を見た。そして首をかしげた。まあ、何を言っているのか分からないかも知れないな。だけど完成すれば、すぐにどういう意味なのか分かるはずさ。
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