第348話 色々と動き出す
「ただいま戻りました」
「お兄様!」
「キュ!」
ハイネ辺境伯家の玄関にたどり着くとロザリアとミラが突撃してきた。それを何とか両手を広げて受け止める。ロザリアも随分と大きくなってきたし、そろそろ片手で受け止めるのは難しくなってきそうだ。
「二人とも良い子にして待ってたかな?」
「もちろんですわ」
「キュ」
そのままサロンに向かい、戻って来たことをお母様に報告する。お父様とお兄様は仕事を開始したようである。その場にはいなかった。
「ユリウスも寂しいと思っているんじゃないの?」
お母様が眉をほんの少しゆがめている。ファビエンヌがいなくなったことを心配しているのだろう。そして寂しいのはお母様も同じはず。
「それはそうですけど、明日にはまた会えますからね。ミラ、頼んだよ」
「キュ!」
「良いわねぇ。私もミラちゃんの背中に乗ってみたかったわ」
「きっと、もう少しの辛抱ですよ」
ファビエンヌが実家に戻ったからと言って俺の仕事がなくなるわけではない。まずはハイネ商会に行って、在庫のチェックと従業員たちの様子を見に行く必要があるな。
お客が増えて、商品の在庫の減り具合もこれまで以上になっていることだろう。無理してないといいんだけど。
「ユリウス様、お帰りなさいませ。出かける準備は整ってますよ」
「よし、それじゃ商会に向かおう」
今度はネロと共に馬車に乗って領都に繰り出した。ジャイルとクリストファーはこの時間は騎士団で鍛錬中だ。雪が溶けたこともあり、本格的な鍛錬が始まっていることだろう。
カインお兄様とミーカお義姉様が参加したかったって言ってたな。まあ、学園を卒業すれば、嫌でも毎日できるようになるさ。
商会に到着した。いつのもように人でにぎわってる。これからどんどん増えるのかな?
お兄様は忙しそうだし、挨拶はあとにしよう。そんなわけで、工房へと向かった。
「こんにちは。何か問題は起こっていませんか?」
「これはユリウス様、こんにちは。今はまだ大丈夫ですが、在庫の減りが早いような気がしますね。このままのペースだと、夏前には在庫が尽きると思います」
「なるほど」
毎年、夏は多くの人でハイネ辺境伯領はにぎわう。ここは避暑地として有名だからね。それに加えて競馬の知名度もあるため、相乗効果で毎年来る人が増えていた。
その稼ぎ時の前に在庫不足に陥るのはまずいな。
「お兄様に相談してみるよ。間違っても、仕事の時間を延長するようなことがないように」
そう通達すると、職人たちが苦笑いしていた。釘を刺しておいて良かった。やりかねないところだった。
工房の作業環境は良さそうである。冷温送風機も設置してあるし、冬でも夏でも、ちょうど良い室温になるはずだ。
「そうだ、差し入れに初級体力回復薬を持って来たんだった。疲れたときに飲んでよ」
「ありがとうございます!」
初級体力回復薬はここでも人気である。まさかこんなに人気が出るとは思わなかった。これはもしかすると、商会の主力商品になるかも知れないな。
これは薬草の消費がとんでもないことになるぞ。そのためにも、温室の建築を急がないといけないな。
「アレックスお兄様、工房の様子を見てきましたよ」
「ああ、ユリウス、戻って来てたのか。助かったよ、ありがとう。ダニエラ様がいなくなっただけで、ここまで忙しくなるとは思っていなかったよ」
お兄様が苦笑いしている。まだ半日もたっていないのに、早くもそのことを実感しているようである。もしかして、結構ギリギリだったりするのかな?
「お兄様、人を増やす計画を前倒しにした方が良いかも知れません。工房の人たちも在庫が不足するんじゃないかと思っているようです」
「そうか。商会に来る人も増えて来たし、求人の紙を張り出すことにしようかな」
「もしかして、ダニエラお義姉様が準備していたのですか?」
「そうだよ」
得意気にアレックスお兄様がそう答えた。さすがはお義姉様。こんなこともあろうかと準備をしていたようである。
張り紙を見せてもらったが、お義姉様らしく、スラッとした気品あふれる文字で書かれていた。かわいらしい絵も描いてある。思ったよりも多才である。
「これなら人がすぐに集まりそうですね」
「そうだとうれしいんだけどね」
アレックスお兄様も期待できると思っているようだ。その顔には余裕の笑みがある。ハイネ商会は大丈夫そうだな。夏になればダニエラお義姉様も戻って来るし、問題はない。
「温室の建築を急ぎたいと思っています。どうも初級体力回復薬が人気みたいでしてね」
「ユリウスも気がついたのかい? 店頭で並べている初級体力回復薬も人気でね。増産をお願いしようかと思っていたところだよ」
「それなら薬草がもっと必要になりますね。庭の薬草園も広くしないと……」
これは温室だけでは足りないな。お母様と相談して薬草園を拡張しないと。お母様にも手伝ってもらおうかな? さすがにそれは無理かな。
屋敷に戻るとすぐに相談した。もちろん許可をもらうことができた。そしてそれだけ必要になるのなら、専属の庭師を雇えば良いということになった。
「今働いている庭師の息子や親族に力を借りることになりました」
「それなら一安心だね」
夕食の時間にお兄様に報告する。これでお兄様の心配事を少しは減らすことができたはずだ。お父様も気になるのだろう。お兄様にいくつか質問をしては、うなずきを返していた。
「明日からはファビエンヌちゃんをお迎えすることになるわね。ユリウス、しっかりとエスコートするのよ。失礼のないようにね」
「もちろんですよ。婚約者だからと言って、手を抜くようなことはありません」
「いいなぁ。私もミラちゃんの背中に乗って一緒に行きたかった」
「さすがに三人は無理かな? お茶の時間にミラの背中に乗せてもらえないか頼んでみるよ」
「キュ」
どうやらオーケーのようである。少しずつ慣らしていって、最終的にはロザリア一人でも乗れるようになってもらおう。俺がいないときにミラの力が必要なときもあるだろうからね。
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