第341話 取りあえずはよし

 先に俺たちがお風呂に入ることになった。お母様はお父様に水着を披露したいらしく、仕事が終わるのを待つそうである。「あとで感想を聞かせてね」とファビエンヌにお願いしていた。

 お父様がどんな顔をするかな? あとでお母様に聞くとしよう。楽しみだ。


 脱衣所で水着に着替える。使用人に頼んで、脱衣所に男女を分けるついたてを設置してもらった。

 これでよし。ファビエンヌの生着替えシーンは見えないぞ。突如、ついたてが倒れるといった想定外のアクシデントでもない限り!


「ユリウス様、大丈夫ですよ。しっかりとした土台がついているので倒れることはありませんよ」

「そ、そうだよね。ネロ、サイズはどうだい?」

「問題ありません。ちょっと不思議な感じがしますけどね」


 ネロが苦笑いをしている。ブーメラン型じゃないものの、多少の違和感はあるようだ。まあ、すぐになれるさ。それに毎回、着用するわけじゃないしね。レディーと一緒に入るとき限定である。


 しまったな。ファビエンヌつきの使用人たちの水着も作っておくべきだったな。タオルを巻いてもらえば大丈夫か? こちらは簡単に着替えることができるビキニタイプにしておこう。


 着替え終わった俺たちは先に浴槽へと向かった。もちろん体を洗ってから入る。そのときに水着のチェックも行う。大丈夫だと思うけど……。


「すごいですね、ユリウス様。この生地、本当に水で透けませんよ。これならお風呂に入るときに着ていても問題なさそうです」

「そうみたいだね」


 ネロに背中を流してもらっていると、後ろで人が入ってくる気配がした。泡だらけになっている状態だが、気にせずに振り向いた。

 まずはファビエンヌの状況確認が大事だ。そこでネロを追い出すかどうかが決まる。頼む、問題なしであってくれ。


「ゆ、ユリウス様、そんなに見つめられると恥ずかしいですわ」

「ご、ごめん」


 水着を着たファビエンヌが恥ずかしそうに顔を赤らめて、両手で体を隠した。思わず目をそらせて前を向く俺。

 うーん、合格! 見てはならない部分は見えないし、かわいらしく、グッと来る部分は健在だ。良い仕事したな、俺。


「良く似合ってますよ。その水着」

「それはそうですわ。ユリウス様が作ってくれた水着ですもの」


 そう言って俺の隣に座る。止まっていたネロも再び動き出した。どうやら問題ないと認識したようである。まあファビエンヌの後ろから来る使用人たちは全裸だったわけだが。今日中に用意しておこう。頑張れ、俺。


 ひかえめのフリルにしておいたが、それでも野に咲くかわいらしい黄色い花のようになっているファビエンヌ。次はブルーの水玉模様にでもしようかな? 夢が広がる。ネロも安心したのか、体を洗う手に力強さを感じる。


 ファビエンヌと一緒に体を洗ったあとは湯船につかる。そのときに良く観察させてもらったが、透けてはいなかった。

 透けてはいなかったんだが、生地の厚みが少し足らなかったのか……うん、これ以上は言えないな。次からは大事な部分はもう少し生地を厚くしよう。


 取りあえずはこれでよし。これでネロを連れてお風呂に入ることができるようになったぞ。それにこれなら気兼ねなくダニエラお義姉様とも一緒に入ることができる。ダニエラお義姉様に悲しい顔をさせなくてすむぞ。


 一度みんなでお風呂に入って以来、定期的に一緒に入ろうと誘って来るのだ。さすがに両親には面と向かって言えないようなので、今のところは未遂で終わっているが。

 そのたびにダニエラお義姉様が悲しい顔をするのだ。こう、胸がギュッとしめつけられるような。


 確かにあんな顔をされれば断れないな。それでアレックスお兄様もダニエラお義姉様と一緒にお風呂に入っているのだろう。スケベ心も無きにしも非ずだろうけど。


「これなら安心して一緒にお風呂に入れますね」

「そうですわね。楽しみが増えましたわ」


 うれしそうにファビエンヌが笑っている。どうやらウソではないようだ。たまにはみんなで一緒にお風呂に入るのも良いかも知れない。これならお父様もお母様も一緒に入っても大丈夫だ。ファビエンヌからお母様にしっかりと報告してもらおう。


「それにしても、ピッタリですわ。この水着」

「……」


 ファビエンヌが水着をビヨンビヨンとさせながらそう言った。ある意味、測ったようなものだからね。ピッタリに決まっている。ダニエラお義姉様とミーカお義姉様の水着を作るときは気をつけよう。使用人に寸法を測ってもらうんだ。

 最初からそうしておけば良かった。俺のアホ。


「ファビエンヌ、気に入ったようなら別の模様の水着も作るよ? 水色の水玉模様の水着とかどうかな」

「まあ、かわいらしい水着になりそうですわね」

「ロザリアもおそろいの水玉模様にするかなー」

「うふふ、ロザリアちゃんも水着が欲しいって言いそうですものね」


 良く分かってらっしゃる。ファビエンヌとお母様が水着を持っていることが分かれば、自分も欲しいと思うはずだ。ここは先手を打って作っておくべきだな。

 職人たちも仕事を覚えてきたし、そろそろ自分の時間に余裕ができるかなと思ったけど、どうやらまたしばらくは忙しくなりそうだ。


 それでも全裸のファビエンヌやお母様、お義姉様たちと一緒にお風呂に入るよりかは、はるかに気まずい思いをしなくてすむぞ。ここが頑張りどころだな。あとでお義姉様たちにどんな水着が良いかを聞いておこう。

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