第340話 さっそく作ろう
愛する息子のスケベ疑惑が晴れたあとも、お母様はデザイン画をしきりに眺めていた。もしかして気に入った水着があったのかな?
「お母様、どれか気に入った物があれば試しに作りますよ? ファビエンヌはこれが気に入ったみたいなので、これにしようと思います。色は黄色にしようと思うんだけど……」
うかがうようにファビエンヌの方を見た。ファビエンヌは笑顔である。不愉快には思っていないようだ。
良かった。どうやら俺のことをただのスケベ野郎だとは思っていないようだ。
「黄色で構いませんわ。出来上がるのが楽しみです」
「楽しみにしておいて。ガッカリはさせないよ」
ウフフとお互いに笑い合う。周りにいる使用人たちもほほ笑ましそうにこちらを見ている。ちょっと照れくさいが、不仲説がささやかれるよりかはずっとマシである。
「これをお願いしようかしら?」
「ビスチェタイプですね。分かりました。色はどうしますか?」
「そうねぇ、ファビエンヌちゃんと同じ、黄色にしようかしら」
「分かりました。ファビエンヌとおそろいの黄色にしますね」
お母様なりの気づかいなのだろう。ファビエンヌを本当の娘のように思っている。そういうわけだ。
そのことにファビエンヌも気づいたのか、うれしそうに「お義母様」と言って顔をほころばせている。仲良きことは良いことかな。
お母様がお風呂場に向かったところで俺たちもサロンをあとにした。サロンで冷たい物を飲んだこともあり、頭も体もシャキッとしている。これならもう一仕事できそうだ。
ファビエンヌと別れて部屋に戻るとさっそく水着を作ることにした。
もちろんネロは追い出している。『糸作成』スキルを見られるのはまずい。どうやっているのかと聞かれると非常に困る。
スキルは便利なんだけど、この世界のスキルはまだ研究が進んでいないみたいなんだよね。みんな無意識で使っている。
魔法と違って決められた手順で使うことがないからだろうな。だから発動条件が分からない。
それでは俺がスキルの覚え方を、他の人にも教えられるかと言われれば「ノー」である。だって俺はスキルポイントを振ってスキルを覚えたからね。ロザリアのように自力で『クラフト』スキルを身につけたわけではない。よって教えることができない。
「俺が悩んでも仕方がないね。できないものはできない。そのうちだれかが研究してくれるさ」
そんなこと考えながら、その日は水着を作ってから眠りについた。夢で裸のファビエンヌが出て来て慌てて飛び起きたが大丈夫だった。危ない危ない。もう少し年齢が上がれば色々とアウトになるだろう。それまでにハイネ辺境伯家で水着の着用を義務づけなきゃ。
翌日、お風呂の時間帯の前にファビエンヌとお母様をサロンに呼び出した。もちろん水着を披露するためである。食事のときに話題に出さなかったのは、アレックスお兄様たちに負担をかけないためである。
さすがに商品化はしないだろうが、間違いなく気にはなると思う。
「もう完成したのね。さすがはユリウスだわ~」
「すごいです!」
テーブルの上の黄色い水着を見て、二人が手をたたいている。それぞれが手に取り、生地の感触を確かめている。伸縮性を確かめるように引っ張っており、それを見ている使用人たちも興味津々のようである。
「変わった生地だわ。随分と伸びるし、ぬれても透けないんでしょう? どんな糸を使っているのかしら?」
「えっと、知らない方が良いと思います」
「……」
お母様が何かを察したかのように無言になった。くんくんと匂いを嗅いでいる。無臭なんで大丈夫ですよー。
本当は俺が生み出した糸なのだが、お母様は魔物から入手した糸だと思っているに違いない。主にスパイダー系の魔物の尻から出るやつだと思っているはずだ。
ファビエンヌは分からなかったのか、首をかしげている。
でっかいクモがいるなんて知れば悲鳴を上げることだろう。教えない方が良いな。ファビエンヌにはあとから内緒で本当のことを話しておこう。気になって調べて、巨大クモに行き着くと困る。
「それじゃユリウス、さっそく試してみるわね」
「私もさっそく試してみますわ」
ファビエンヌがこちらに熱視線を送っている。これは今日も一緒にお風呂に入ろうと言うことだな。望むところだ。こちらも男性用の水着を用意している。もちろんネロの分もある。
今回からは一緒にお風呂に入ってもらう。お互いに水着を着ているのなら問題ないはず。
「ところでユリウス、サイズは大丈夫なのかしら?」
「問題ありませんよ」
そう、サイズに問題はない。なぜなら『鑑定』スキルを使って二人のスリーサイズを確認しているからである。ワッハッハ。
その結果分かったことは「お母様はヤバイ」ということと、「ファビエンヌもヤバイ」ということである。説明不要。そしてファビエンヌは現在、成長中である。将来が怖い。
「……どうして問題ないのかしら?」
笑うお母様。お母様が言わんとしていることが分かって、真っ赤になって胸を隠すファビエンヌ。
まずいこれ、完全に変態疑惑がかかっている。本当のことを言ってもまずいし、だれかのせいにすることも難しい。これは甘んじて変態疑惑を受け入れるしかないか。
「その、見た目で判断して……それにほら、生地が伸びるでしょう? なので多少はサイズが違っても何とかなるんじゃないかなーと思って……ハハハ」
「はぁ……まったく、お義父様にも困ったものね。ユリウスに変な部分が似てしまったわ」
お母様があきらめたかのように首を左右に振っている。もしかして許された?
どうやらお母様は胸のサイズの見分け方をおじい様が俺に教えたと思っているようだ。
ありがとう、おじい様。おじい様のおかげで、俺、何とか面子を保つことができそうです。
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