第339話 疑惑の判定
俺がその辺の紙に描いたイメージ図をファビエンヌとネロがジッと見ている。気になったのか、使用人たちも集まって来る。
何だろう、この光景。恐らく端から見れば悪巧みをしているように見えるだろう。違うんだけど。
「下着とどう違うのですか?」
首をかしげながらファビエンヌが聞いてきた。
確かに図だけじゃ分かりにくいね。いきなり下着を紙に描かれたら、そりゃ困惑するか。
「下着は水にぬれると透けるけど、水着は水にぬれても肌が透けて見えない生地で作るんだよ」
「なるほど。ユリウス様はそれを作ることができるのですね?」
「そうだよ。ぬいぐるみを作れるだけじゃないんだよ」
そうだった。俺、裁縫もできるんだった。さっき思い出したよ。俺がぬいぐるみを作れることを知らないネロが首をひねっている。「ロザリアが持っているぬいぐるみは俺が作った」って言ったらビックリするかな?
「みんなはどう思う?」
集まって来た使用人たちに話を振る。俺一人の思いつきでやると、まだ何か言われそうだ。ここは広く意見を聞いて、進退を決めた方が良いだろう。使用人たちがうーんと考えている。
「あの、肌の露出する範囲が広すぎるのではないですか?」
「確かにそうだね。それなら水着を着るのはお風呂限定にするのはどうかな?」
「ユリウス様、他の場所でも着ようと思っていたのですか?」
「これを着て湖とかで泳ぐのも良いかなーって……ダメそうだね」
ネロだけじゃない。周りにいた全員の目から光が消えていた。どうやら貴族が泳いではいけないという話は本当だったようである。これまで湯船で泳がなくて良かった。広いから泳げそうではあるんだよね。
カインお兄様が泳いだりしなかったのかな? ハイネ辺境伯家の中では一番それをやりそうなんだけど。
「水着の着用はお風呂限定にする。異論は認めない」
「それがよろしいかと思います。その、下着と見分けがつくようにした方がよろしいのではないでしょうか?」
おずおずとネロがそう言った。ちょっと恥ずかしそうである。下着くらいで赤くなるとは、まだまだネロも子供だな。俺くらいに堂々としていれば、恥ずかしくもなくなるぞ。
「そうだな、それじゃこんなデザインはどうだ?」
ビキニやビスチェ、ワンピースタイプの水着を提案してみた。もちろんフリルをつけたかわいらしいものもあるぞ。
女性用だけじゃない。男性用の水着も必要だな。こちらはハーフパンツタイプ一択だ。ポロリをしてはならない。
「これなんかはかわいらしいですわね」
ファビエンヌがフリルつきワンピースを指差した。これなら大事な部分が大幅に隠れるし、少女らしいかわいらしさもある。ファビエンヌにピッタリだな。色は黄色にしようかな?
「こんなにポンポンとアイデアが浮かぶだなんて……さすがはユリウス様」
尊敬のまなざしでネロがこちらを見ている。ちょっと照れるな。でも女性の使用人たちが困惑するような目でこっちを見てるんだよね。どうして。
「あらあら、どうしたのかしら? 何だか騒がしいわね」
「お母様、どうしてここに?」
「お風呂に入りに来たのよ。そしたら何だかサロンが騒がしいみたいだったから気になって……ところでユリウスちゃん、その紙は何かしら?」
お母様がちょっと首をかしげて聞いてきた。その様子はまるで少女のようであり、幼く見えた。どんなアンチエイジングをすればそうなるんだ。この世界の七不思議の一つだな。
なぜ貴族の奥方は美しいまま年を重ねることができるのか。
そんなことを思っている間にもお母様はテーブルに近づいてきた。海が割れるように、サッと使用人たちが道をあける。そしてそのままテーブルの上にある描きかけの紙を見つめた。
「これは?」
「それは水着です。着たままお風呂に入ることができる下着のようなものですね。ぬれても透けない生地で作ろうと思ってます」
「なるほど、水着ねぇ……良い考えだと思うわ。これを着て入れば、マックスも目のやり場に困らなくてすむわね」
うふふと笑うお母様。分かってて一緒に入っているのか。旦那を試すなんて悪趣味だぞ。でもそうすることで、自分が愛されていることを確認しているのかも知れないな。どっちも大変だ。
「それにしてもユリウス、随分と良く下着のことを知っているのね」
「え?」
お母様がほほえんでいる、ような気がする。なるほど、先ほどの使用人たちの困惑はそのせいだったのか。日本にいた頃の知識を総動員しただけなのだが、それを知らない人からすれば困惑すること間違いなし。
どうする? このままではただのスケベな問題児になってしまう。
「あ、えっと、おじい様に教えてもらったのですよ」
「……ほんっとにお義父様は余計なことしか教えないんだから」
許された。お母様がブツブツと愚痴をつぶやいている。どうやらおじい様はそういった類いの物を所有していたようである。たぶんエロ本だな。それが亡くなったおじい様の部屋を片付けていたときに大量に見つかった。うん、ありえそうだ。若かりし頃はプレイボーイだったみたいだからね。
そのため、おばあ様の視線が厳しかった。
でも一応、謝っておこうかな? ごめんね、おじい様。おかげで何とか危機を乗り越えることができそうです。
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