第329話 お見舞い作戦
「朝から何やっているんだよ。熱々かー?」
「カインお兄様! もう、からかわないで下さいよ。手を貸して下さい」
何事かと集まって来たカインお兄様とミーカお義姉様に助けを求める。そのまま何とかファビエンヌをサロンへ連れて行く。
「おや、どうしたんだい? 何があった」
「まあ、ファビエンヌちゃんが真っ赤だわ! 早く! 何か冷ます物を持って来てちょうだい」
ちょうどサロンにいたアレックスお兄様とダニエラお義姉様に見つかってしまった。これはそのうちお父様とお母様に伝わることになるな。それなら早いところ、弁解しておいた方が良さそうだ。
「あの、その、ファビエンヌと添い寝をしたいなーみたいな話になりまして……」
「なるほど」
「ファビエンヌちゃんはまだ汚れてないのね」
「ミーカお義姉様、その言い方はちょっとどうかと思いますが」
それを聞いたダニエラお義姉様は真っ赤な顔をしている。どうやら心当たりがあるようだ。ミーカお義姉様と同じように。と言うか、自分で言っておいて顔が赤くなっているぞ、ミーカお義姉様。
「まあまあ、そのくらいで……今日も警備を頑張らないとなー」
「そ、そうですわね。頑張りましょう!」
すかさずカインお兄様がフォローに入った。やっぱり自分の嫁はかわいいよね。俺もそう思います。
今日は魔道具作りに専念しようかな。職人たちも、ようやく魔道具を作れるようになってきたし、この辺りで在庫を抱えておきたいところだ。
親方たちは小物だけでなく、もちろん魔道具も作れるのだが、どうやら俺が作る魔道具は独特と言うか複雑らしく、技術の習得に苦労していた。そう言えば、普通の魔道具って、あまり分解したことがなかったな。いつも頭の中にある知識で作っていたからね。
これはちょっとその辺りに売っている魔道具を集めて、分解してみた方が良いかも知れない。ついでにロザリアも教育しないといけないかも知れない。常識、大事。
ファビエンヌが正気に戻ったところで、アレックスお兄様たちと一緒に商会へ向かった。工房はこの商会の中にあり、そこへ職人たちが通勤するようになっている。
「魔道具作りは順調かい?」
「ええ、大きな問題はありませんよ。みんな楽しそうに作ってますよ」
馬車の中でアレックスお兄様が聞いてきた。どうやら朝食の話を気にしているようである。
言わなきゃ良かったかな? でも、手遅れになってからじゃ遅いし、俺もハイネ辺境伯家の一員なのだ。自分にやれることはやりたいと思っている。
「それなら良かった。あまり遅くまで仕事をしないように、ユリウスからもしっかりと言って欲しい」
「分かりました」
工房に到着すると、すでに仕事が始まっていた。ちょっと早すぎる気もするけど、注意した方が良いのかな? そう思っていると、アレックスお兄様がみんなを集めた。
「みんな、毎日良く働いてくれている。そのおかげで、商会も順調な滑り出している。春になれば、もっとにぎわうことになるだろう」
わあ! とちょっとした歓声が上がった。自分の作っている物が売れているのがうれしいのだろう。売り上げがいくらかなんて、ここまでは伝わってこないからね。さすがに利益は秘密である。
「これからもその調子でやってもらえると心強いのだが、ちょっとみんなが働き過ぎなのではないかと思っている。ユリウスが作る魔法薬があるとは言え、何事もやり過ぎは良くない」
そう言って、みんなの顔を見渡した。心当たりがあるのか、苦笑いしている人もいる。主に親方たちだが。さすがは職人。
「心当たりがある者は用心してもらいたい。万が一倒れるようなことがあれば、家族の方に合わせる顔がないからね」
ニッコリとアレックスお兄様が笑った。それはつまり、「君たちが倒れればお見舞いに行くからね?」と言うことである。
何という脅し。貴族が庶民の家に向かえば、その家族は戦々恐々とすることになるだろう。
あ、何人かの従業員の顔が引きつっている。これで少しは抑制できるかな?
その後は解散となり、みんなが自分の持ち場へと戻って行った。当然のことながら、俺たちは工房へ向かう。
「ユリウス様、先ほどのお話ですが……」
「ああ、ケガや病気で倒れたらお見舞いに行くってことだよ。俺も魔法薬を持って行くからね」
アレックスお兄様と同じようにほほ笑みかける。親方の顔に「オーマイガ!」って書いてあった。
親方たちが頑張りすぎるおかげで、他の職人たちが影響を受けている可能性があるのだ。まずはトップを何とかしないといけないだろう。
親方は顔を引きつらせて自分の作業へと戻って行った。
「何だかちょっとかわいそうですわね」
声を潜めてファビエンヌがそう言った。身に覚えがあるのだろう。魔法薬を作るときのファビエンヌはいつも生き生きとしてるからね。もしかして、肺の病に効く魔法薬を頼んだときは、遅くまでやりすぎてお義父様に怒られたりしていたのかな?
「まあ、そうだけど、体を壊すよりかはずっと良いよ。やっぱり職人を増やすべきかな」
「その準備はしておいた方が良いかもですね」
作業を見回りながら、惜しみなく技術を提供する。若い職人にも魔道具の作り方を教えている。作業手順書があるので、問題なく習得できているようだ。魔道具ギルドに頼むという案もあったが、まずは商会でやってみようと言うことになったのだ。
この感じだと何とかなりそうな気がする。作業手順書を作っておいて良かった。ロザリアや親方たちと一緒に苦労して作ったかいがあったな。
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