第312話 ちょっとした祝賀会
ロザリアと一緒に食堂にたどり着くと、アレックスお兄様とダニエラお義姉様の姿がすでにあった。これはチャンスだぞ。みんながそろう前に、それとなく話しておこう。
「アレックスお兄様」
「ユリウス、ずいぶんと活躍したみたいだね。どうしたんだい?」
う、やっぱりアレックスお兄様も思うところがあるのかな? ちょっと皮肉っぽく聞こえるぞ。隣に座るダニエラお義姉様はご機嫌そうだけど。おっと、それよりも。
「私が作った魔石懐炉をロザリアが改良したのはご存じですか?」
「うん。話には聞いているよ」
「それはちょうど良かった。私もさっきロザリアに作り方を教えてもらったのですが、あの魔石懐炉は良いものですよ。売りに出すならロザリアが改良したものの方が良いと思います」
そう言ってロザリアの方を見ると、照れているのか、うつむいてモジモジしていた。何かかわいいぞ、俺の妹。いや、いつもかわいいんだけどさ。今はさらにかわいくて、守ってあげたい感じになっている。
「ユリウスがそこまで言うとは……分かったよ。改良型魔石懐炉を商会で売ることにしよう。ロザリアも良いかな?」
「もちろんですわ!」
赤い顔をして元気よく答えた。自分の実力が認められて、よっぽどうれしかったようである。飛び上がらんばかりの様子だった。それを見たダニエラお義姉様がほほ笑ましそうに扇子を口元に当てて笑っている。
「そうでした、ユリウスお兄様がすごいガラスペンを作ったのですよ!」
今度は自分の番だとばかりにロザリアが鼻息を荒くした。やめてくれ、ロザリア。あまり広めないでくれ。また俺が注目されることになってしまう。
「ほう、どんなガラスペンなんだい?」
「星空を閉じ込めたガラスペンですわ!」
「星空を閉じ込めた?」
興味をそそられたのか、ダニエラお義姉様が身を乗り出してきた。それからロザリアが必死にどんなガラスペンなのかを説明している間に、他のみんなが食堂に集まって来た。
今日はハイネ辺境伯家の家族だけでなく、騎士団長のライオネルや、魔導師団長も来ている。他にも副団長や、部隊長の姿もある。
「みんなそろっているようだな。カイン、ユリウス、任務ご苦労だった。二人の活躍はライオネルから聞いている。ハイネ辺境伯家の一員として良くやってくれた。そして調査団の隊員は本当に良く動いてくれた」
食堂がシンと静まり返った。俺たちの前には料理人たちが丹精込めて作ってくれたおいしそうな料理が運ばれている。黄金色のスープに、ターキーの丸焼き。他にも魚料理や、肉料理、パスタなんかもあった。
「調査団の奮闘により、大きな損害もなく作戦は終了した。まだ予断を許せない状況ではあるが、当面の危機は去ったと言えるだろう」
お父様が安心させるかのように、お母様、ダニエラお義姉様、ロザリア、ミーカお義姉様の方を見た。ミーカお義姉様はカインお兄様からガッツリ聞いているだろうし、ダニエラお義姉様もアレックスお兄様からある程度は聞いていると思う。
知らないのはお母様とロザリアくらいかな? ロザリアはスノウワームの内容物が飛び出た話になった段階で逃げてたからね。
「これでしばらくは穏やかに過ごせるだろう。無事に任務を果たしてくれた調査団に、我が領地を守ってくれた皆に乾杯をしよう」
みんながグラスを掲げ、乾杯をする。もちろん俺たちのグラスにつがれているのはジュースである。お酒は成人になってから。そうなると、十五歳からお酒が飲めるようになるのか。早いな、この世界の成人は。
お父様の乾杯によって食堂が一気ににぎやかになった。きっと今頃は騎士団の宿舎でも祝賀会が行われているはずである。上司が軒並みこちら側に来ているので、向こうはどんちゃん騒ぎになっているかも知れないな。羽目をはずし過ぎて、あとでライオネルに怒られないと良いんだけど。
「ユリウス様、お疲れ様でした」
「ライオネル、お父様にどのくらい話したんだい?」
「それはもう、余すことなくお話しましたよ。旦那様にもユリウス様のことをもっと良く知っていただかなければなりませんからね」
その心遣いが良いのか悪いのか。確かにお父様が全てを知っている方が、俺の力を公開するにしろ、隠すにしろ、都合が良いだろうからね。その反面、それによってお父様に問い詰められることになるんだけどね。どうしたものか。
「そうだ、魔石懐炉の改良版がそのうち出回ると思うよ」
「もうそのような物をお作りになったのですか?」
「俺じゃないよ。ロザリアだよ」
隣に座るロザリアを見ると、どうだ、みたいに胸を張っていた。うむ、まだ平らだな。まあ、そうそう大きくはならないか。
「ロザリア様が……お見事ですな、ロザリア様。ユリウス様に似て、素晴らしい才能です。これで騎士団もより働きやすい環境になりますぞ。ありがとうございます」
深々とロザリアに頭を下げるライオネルに、ロザリアがアワアワとしている。こんなのは初めてだろうからね。俺はもう慣れっこだけど。
そんなロザリアをほほ笑ましく見たり、果物を狙うミラに食べさせたり、魔導師団長と話したりしながら祝賀会は続いていった。
「さあ、そろそろ子供たちは夜の支度をする時間ですよ」
お母様がパンパンと手をたたくと、俺とロザリアは退出になった。他の人たちはまだ酒盛りをするようである。料理長に先に初級体力回復薬を渡しておいて良かった。今頃みんな飲んでくれているかな? 今夜は仕事が長引きそうだぞ。
そしてどうやら、お父様に呼び出されるのは明日以降になりそうだ。もしかすると、忘れられているのかも知れない。そうであって欲しいな。
「ほら、ロザリア、行くよ」
追い出されてふて腐れたロザリアの手を引っ張った。
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