第313話 お酒はほどほどに
食堂から退出したのは俺とロザリアにミラ。そしてカインお兄様とミーカお義姉様である。どうやら二人も「子供カテゴリー」に入れられたようだ。二人して同じような顔をしていた。
「ユリウスとロザリアはともかく、俺たちまで追い出されるとは思わなかったよ」
「仕方がないですよ、カインお兄様。まだ成人になっていませんからね」
「そうね。仕方ないわよね」
ちょっとくらい飲んでみたかったのかな? ミーカお義姉様も残念そうな顔をしている。そんなカインお兄様とお義姉様をロザリアとミラと一緒になぐさめる。
「成人するまでの楽しみにとっておきましょうよ」
「楽しみはとっておくものですわよ」
「キュ」
「そうだな」
「そうね」
何とか納得してくれたようである。あ、ロザリアが眠たそうな顔になってきたな。これは早いところお風呂に入れて、寝かしつけないと。お兄様たちに挨拶をして、ロザリアを使用人たちに任せた。
リーリエは頑張っているようだが、ロザリアが眠いのなら同年代のリーリエも眠たいよね。
部屋に戻った俺はネロに「自分の部屋の寝る準備を整えるように」と言ってから部屋から追い出すと、すぐにファビエンヌ嬢に連絡を入れた。ちょっとした祝賀会をしていることと、近いうちに遊びに行くことを告げる。
『無事に戻られたようで安心しました。こちらへはいつ来てもらっても大丈夫ですよ。冬支度が本格的に始まって、出かける予定も、だれかが来る予定も、今のところはありませんわ』
「それは都合がいい。それでは雪が深くなる前に一度、訪問させていただきますね」
これでよし。あとはプレゼントを準備するだけだな。とは言ったものの、あとはプレゼントを包むだけである。それならあとは訪問する日程を決めるだけだな。ちょうど良くネロが戻ってきたので、聞いてみることにする。
「ネロ、近いうちにファビエンヌ嬢のところに行こうと思うんだ。いつぐらいがいいかな?」
「そうですね」
そう言ってからパラパラと手帳をめくるネロ。これはもう完全に俺専用の執事だな。これはもう依存するしかないな。
「今週末が良いかと思います。調査に行っている間に勉強時間がおろそかになっていますので、取り戻しておく必要があるかと。雪が降れば、先生方もこちらへは来られなくなりますからね」
「あー、確かにそうだね。よし、それじゃその日程でお父様にお願いすることにするよ」
ファビエンヌ嬢への手紙を書きつつ、お風呂の順番が回ってくるのを待った。
翌日、朝食の席にはみんなの姿はなかった。姿が見えたのは、カインお兄様とロザリア、ミーカお義姉様だけである。もちろんミラも俺の膝の上にいるけどね。昨日はどれだけ遅くまで酒盛りしていたんだよ。
苦笑していると、元気な顔をした料理人たちがキビキビとした動きで朝食を運んで来てくれた。どうやら初級体力回復薬が効いているみたいだな。渡しておいて良かった。
「ユリウス、どう思う?」
「お酒はほどほどにした方が良さそうですね。ちょっとした祝賀会のはずでしたよね?」
「俺もそう聞いていたんだがな」
どうやらみんなまだ寝ているようである。これは昼過ぎまで起きてこないかも知れないな。家庭教師が来るのは昼からだし、それまではプレゼントの準備と、訓練場に顔を出して、ジャイルとクリストファーに今回の調査のことを話しておかないといけないな。
「今日の訓練はまともにできるのかな」
「……向こうも酒盛りをしていたでしょうから、ダメかも知れませんね」
「何かあったらどうするつもりなんだよ」
カインお兄様があきれていた。その通りなんだよね。どうしてこうなった。冬になるとこの辺りは雪の影響で身動きが取れなくなるから、比較的に安全と言えば安全なのだが、それでも油断してはいけないと思う。
これはあとでお父様たちにガツンと言い聞かせておかないといけないな。子供から言われれば少しは応えるだろう。
朝食を食べていると料理長が魔法薬のお礼を言いに来た。昨日の晩は、どうやらかなりの修羅場だったらしい。料理長いわく、これからしばらくは冬ごもりになるため、最後の晩餐のつもりだったのだろうとのことだった。
「渡しておいた魔法薬が役に立ったみたいで良かったよ」
「はい。あれがなければ大変なことになっていましたよ」
苦笑いする料理長。きっとそれは料理人たち全員の総意なのだろう。これはまた近いうちに差し入れをした方が良さそうだ。午前中はまともな訓練ができそうにないし、魔法薬を作ろうかな。
「ユリウスちゃん、一体どんな魔法薬を渡したの?」
「あー、えっと」
どうしよう。ここでミーカお義姉様に初級体力回復薬の話をしたら、自分も飲みたいと言い出しかねない。
俺が考え込んでいることに気がついていないのか、カインお兄様が得意気に話し始めた。
「たぶん初級体力回復薬のことを言っているんだと思うよ。あれはイイ魔法薬だからな」
「まあ、カイン様も飲んだのかしら?」
「もちろんさ。調査団で一仕事終えたあとに一本飲んだよ。飲んだら疲れが一気に吹き飛んだよ」
そのときのことを思い出したのか、目をつぶって天を見上げるカインお兄様。その口元はだらしなくゆがんでいた。そんな顔をしていたら百年の恋も冷めるぞ。
「ユリウスちゃん、私も飲みたいな」
初級体力回復薬のあのハジケる炭酸を思い出したのだろう。ミーカお義姉様がおねだりをしてきた。だが、魔法薬師として、無用な魔法薬の摂取は推奨できない。
「ミーカお義姉様は疲れていないでしょう? 必要なときに飲んでいただかないと」
「それはそうね。それじゃ、訓練で疲れてくるから、そのあとなら飲んでもいいかな?」
両手を組んで、期待するようなキラキラする目でこちらを見てきた。これは断れないな。訓練の後なら良いよね?
「分かりました。ただし、無限にあるわけではないので、今回限りにして下さいね」
「あれ? でもあの魔法薬って騎士団へ定期的に届けているんだよな。この前、そんな話を聞いたぞ。それならたくさんあるんじゃないのか?」
そう言ってカインお兄様がくびをかしげた。チッ、余計なことを。
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