第309話 才能あふれる兄妹

 翌日は朝から大忙しで撤収に入った。急いで出発すれば、何とか日が暮れるまでには麓の村にたどり着くことができるからだ。何人かの騎士はそのままその村に滞在することになっている。もちろん、スノウウルフが村に来ないかを確かめるためだ。


 昨日の夜の話し合いで、仮拠点の壁はそのまま残すことが決まっていた。そのため、俺は特にすることもなく、カインお兄様と一緒に雪合戦をして待っていた。


「お二人とも元気そうですな。これなら手伝ってもらっても良かったですな」

「そうだぞ、ライオネル。俺たちも調査団の一員なんだから、遠慮なく仕事を割り振ってくれ」


 頼りにされていないと思っていたのか、カインお兄様がちょっと口をとがらせてそう言った。俺は楽できたから、別にこのままで良かったんだけどね。ライオネルが苦笑している。それもそうか。領主の息子に雑用なんかさせられるわけがないからね。


 撤収が終わり、麓の村に向かう。事前に連絡が行っていたようで歓迎された。ライオネルの報告を聞いた村長は大喜びだった。どうやらスノウウルフが姿を現したことに、ずいぶんと危機感を持っていたようである。


 その翌日も朝から出発し、昼過ぎには無事にハイネ辺境伯家へ帰ることができた。家族全員が玄関の前で待ってくれていた。お互いに無事を確かめ合うと、報告はカインお兄様とライオネルに任せて工作室に向かった。


「ユリウス様、お疲れではないですか? 先に休憩を挟んだ方がよろしいかと思いますが」

「そうだね、そうするよ。でもその前に、材料の確認だけをしておきたくてさ」


 ネロの意見はもっともだし、ネロも疲れていると思う。休むべきなのだが、素材がないと物作りができないからね。足らなそうならすぐに注文しないといけない。そうでなければ、ファビエンヌ嬢に会いに行けない。


「ユリウスお兄様! これを見て下さい。魔石懐炉を改良したんですよ」

「どれどれ、お、このスイッチで暖かくしたり、しなかったりを切り替えることができるんだね」

「そうですわ!」


 さすがロザリア、仕事が速い。この短期間の間に、魔石懐炉に切り替えスイッチを付けてくれたようだ。これでいちいち魔石と取り外さなくてすむぞ。ファビエンヌ嬢にはこの改良型魔石懐炉をプレゼントしよう。


「ガラスペンも作ったみたいだね。……思ったよりも数があるね?」

「これはリーリエが作った物ですわ!」

「!?」


 ネロがものすごい勢いでリーリエの方を振り返った。リーリエは恥ずかしそうにうつむいている。いつの間に……もしかして、リーリエに『クラフト』スキルが芽生え始めている?


 手に取って一つ一つ確認するが、なかなか良い作りをしている。持ち手の部分にも工夫がしてあって、持ちやすいようになっている。これは「リーリエモデル」として売りに出しても良さそうだ。まさかリーリエにそんな才能があるだなんて。


 まあ、ネロにも剣術や隠密の才能があるし、リーリエにも何かしらの才能が隠れていても不思議じゃないけどね。……二人の両親ってどんな人だったんだろう。ちょっと気になって来たぞ。


 そんなことを考えながら材料の確認を行う。金属部品はありそうだ。あとは色ガラスだが、これも何とかなりそうである。紺色を基調として、軸の部分に金箔で星を降らせて夜空を再現してみようかな? ホットクッキーは材料だけ持って行って一緒に作ろう。その方が楽しいことになりそうだ。


「おっと、そう言えば、雪の精霊様にドライフルーツをお供えしないといけないんだった」

「お供えですか?」

「そうだよ。今回の調査でたくさん助けてもらったんだ。だからお礼をしようと思ってね」

「私も会ってみたかったです」

「いやー、やめておいた方が良いんじゃないかな?」


 ロザリアがお母様と同じように倒れることはないと思うが、何かしらのトラウマを残すことになりかねない。もう少し大きくなるまで我慢してもらった方がロザリアのためだろう。


「キュ、キュ!」

「どうしたんだ、ミラ?」

「きっとドライフルーツに反応したのですわ」

「キュ!」


 ずいぶんと食い意地が張っているようで。よほどドライフルーツが気に入ったようである。ミラとロザリア、リーリエを連れて調理場へ向かった。


 料理長にことの一部始終を話すと、喜んでドライフルーツを分けてくれた。今はドライフルーツの生産で忙しいだろうに申し訳ないことをしてしまったな。そうだ、あとで初級体力回復薬を料理人たちにプレゼントしてあげよう。きっと喜ぶぞ。


 袋に「雪の精霊様へ。大変、お世話になりました」と書いてから、庭に設置されている小屋へと向かった。部屋の中に設置されている神棚は毎日掃除されているようであり、スッキリとした静かなたたずまいをしていた。

 神棚にドライフルーツが入った袋を三袋おいた。すると目の前でスッと袋が消えた。


「キュ!?」


 目の前で突然消えたドライフルーツにいち早くミラが反応する。そして何度も空になった神棚を確認していた。何度見ても奇妙な光景だな。どうやって回収しているのかがかなり気になる。その機能を再現できれば、自動アイテム回収装置なんて代物を作ることができそうだ。


 サロンに戻ってお茶を用意してもらう。もちろんミラのためにドライフルーツも用意してある。それを食べさせながらお茶を飲むと、ようやく肩の荷が下りたような気がした。

 調査団を率いていたのはライオネルだったとは言え、やっぱりどこかで責任を感じていたようである。上に立つのは大変だな。カインお兄様も同じように感じているのだろうか? そうでないと、ちょっと困るぞ。無責任はさすがにまずい。

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