第306話 雪山での作戦会議
「ライオネル、この中に魔力を感知できる人はどのくらいいるのかな?」
そこそこレアなスキルだが、これだけの人数がいてゼロということはないだろう。だがライオネルの表情は暗い。もしかして、いない?
「一人、ですな」
そう言って視線を向けると、一人の魔導師が手を上げた。どうやら彼一人のようである。俺も合わせれば全部で二人。あとは『探索』スキルを持っている人を二人組にして捜索すれば何とかなりそうではある。
あとは俺が参加させてもらえるかだな。
「ライオネル、実は俺も魔力を感知することができるんだ。明日からの調査には俺も参加するよ」
「しかし」
「春になればスノウワームは土の中で次の冬を待つんだったよね? また同じことが繰り返されるだけだよ。次はカシオス山脈に生息する魔物が麓の村を襲うかも知れない。それを未然に防げるのは今しかない」
目をつぶり、考え始めるライオネル。調査する人数が多い方が良いのは分かっているはずだ。ここに滞在できる時間にも限りがある。やるなら早めに決着をつけた方が良いに決まっている。
「分かりました。ただし、私のそばから離れることのないようにして下さい」
「ユリウス、俺も行くぞ」
「いけません! カインお兄様が巻き込まれたらどうするのですか」
「それなら俺が巻き込まれないように、安全第一で行動してくれ」
ライオネルが反論しないところを見ると、どうやらカインお兄様と同じ考えを持っているようである。つまり、カインお兄様が近くにいれば俺がむちゃをやらないというわけだ。
もちろんむちゃをするつもりはないけど、それほど苦労せずにスノウワームを倒すことができると思うんだよね。
俺が考えている方法はゲーム内では使えない手だが、現実世界ならたぶんいけるはずだ。スノウワームは雪をかき分けて進む速度は速いけど、土の中も同じように進めるわけじゃない。
もし土の中でも、雪の中と同じように進めるのなら、春から冬にかけて土の中で待つ必要はないからね。土の中からパクッとやってしまえば良いのだ。それができないということはそういうことなのだろう。
なので、周辺の雪を溶かしてしまえば、その機動力を大幅に奪うことができると思うんだよね。ついでに巨体もさらされることになるだろうし、戦いも楽になるはずだ。
うん。考えれば考えるほどいけそうだ。
「どうしたんだ、ユリウス、ニヤニヤして」
「ちょっと良い作戦を思いつきまして」
「ほほう、気になりますな」
再びみんなの視線が集まる。俺が考えた作戦を話すと、魔導師たちが度肝を抜かれていた。だが、反論してくることはなかった。
「でも一つだけ問題がありまして……」
「問題?」
「はい。周辺の雪を溶かすことで、雪崩が起きるのではないかと思いまして……」
そう言いながら雪の精霊の方を見ると、雪の精霊がドンと自分の胸をたたいた。
「そこでワシの出番じゃな? 雪のことなら任せてもらおう。雪が動かないようにしっかりととどめておくのでな」
「ありがとうございます。あの、作戦が終了したら、その場所に雪を積もらせてもらいたいのですが、お願いできますか?」
「任せておけ。ドライフルーツ二袋で手を打とう」
「あ、ありがとうございます」
どうやらドライフルーツをとても気に入ってくれているようだ。二袋で済むのなら安いものである。みんなの表情が明るくなった。これならきっと何とかなるだろう。
明日からは調査団全員で調査に向かう。もちろん雪の精霊も参加する。今回の作戦の要と言っても過言ではないからね。
夜が明け、調査が開始される。今日は先日までに調査隊がつけた足跡を追うことになっている。スノウワームが通っていれば消えているはずだからね。それを見つければ、スノウワームが本当にこの辺りにいることがハッキリする。
ライオネルと共に調査をしてると、ライオネルの念話に連絡があったようだ。何やら緊迫した様子で話している。
「ユリウス様の予想通り、スノウワームがいるようです。途切れた足跡を発見したそうです」
「そうか。こちらに被害が出る前で良かったな。俺たちもそっちに向かおう」
「待った、ユリウス。まずは一度全員を拠点に戻して、作戦を立てるべきだ」
「カイン様の言う通りです。無策で向かうのは危険過ぎます」
「分かったよ。すぐに戻ろう」
ライオネルはすでにそうなるように連絡をしていたようである。俺たちが拠点に戻るころには他の調査隊も戻って来ていた。
どうも俺は一人で何もかも解決したいという欲があるようだ。これは気をつけないといけないな。もっと人に頼るようにしなければならない。何でも一人でできるからと言って、本当にそれを続けていると、いつかどこかで足下をすくわれることになるだろう。
昼食を食べながら作戦会議が始まった。簡単な周辺の地図が作られ、大まかな印が描かれていく。どうやら周囲にあまり木が生えていない場所にスノウワームは潜伏しているようである。
「この辺り一帯の雪を溶かせば有利に戦えると思います」
「そもそも地面の上に出たスノウワームと戦ったという話を聞いたことがないな」
「普通は雪の上で戦うでしょうからね。雪を溶かすなんて発想はなかったのではないですか?」
騎士たちのが様々な意見を交わしている。スノウワームに逃げられないようにするためにも、なるべく広範囲の雪を溶かした方が良いだろう。周囲に木がないのは運が良いな。これなら魔導師たちも周囲を気にせずに火属性の魔法を使うことができるはずだ。
場所と作戦の確認が終わった俺たちは昼食を食べ終わるとすぐに現場へと向かった。
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