第297話 再び目のやり場に困る
「もう、ユリウスちゃんのせいでひどい目に遭うところだったわ」
「勝手に私のせいにしないで下さい。どちらかと言えばロザリアのせいでしょう」
「お兄様、私のせいじゃありませんわ!」
「キュ!」
ロザリアとミラが否定しているが完全にロザリアのせいなんだよな~。ミーカお義姉様もそれが分かっていて、あえて俺に振っているのだ。本気でロザリアを責めたら泣き出すかも知れないからね。
あのあと、俺がミーカお義姉様の顔色をうかがっていることにお母様が気がついた。そしてミーカお義姉様に「まさか、ミーカさんは忘れていませんわよね?」とほほ笑みかけたのだ。
その後はやたらと意識した食事マナーで何とか乗り切ったミーカお義姉様は、どうにか再教育を言い渡されずに済んだ。カインお兄様もお母様から観察されていたようなので、きっと味がしなかったことだろう。
そして今、俺たちはそろってお風呂に入っている。何でかって? 俺が聞きたい。
今日こそゆっくりとお風呂に入ることができるぞ、と思ってお風呂に入ったら、ミーカお義姉様とロザリアが、あとから一緒に入って来たのだ。
俺はネロに確認したよ。ちゃんと風呂の前に「ただいま使用中」の看板を立てたのかと。そしたらリーリエが「ちゃんと看板はありました」と答えたのだ。
……それならなぜ入って来たんだ。看板の意味ないじゃん。
ミーカお義姉様いわく、昨日はダニエラお義姉様と一緒にお風呂に入ったのだから、それなら今日は自分の番だとなったらしい。どうやら万年筆のお礼がしたかったようである。つまり、それだけ気に入ってもらえたということだ。悪い気はしない。
そうしたら、お風呂場の前でロザリアがミラを抱えてウロウロしていたので、一緒にお風呂に入らないかと誘ったそうである。フリーダムが過ぎるぞ、ミーカお義姉様。ラニエミ子爵は一体どのような教育をしているんだ、けしからん。
あとでこのことがバレたら、カインお兄様に後ろからバッサリとやられそうだが、今日はネロも一緒である。二人がかりなら何とかなるかも知れない。それにしても、湯船に浮かぶおっぱいが目の毒だなぁ。
「前から思ってたんだけど、ネロちゃんって、本当に女の子みたいよね。本物の男の子だったけど」
「あ、ありがとうございます?」
ミーカお義姉様の発言にネロが困惑している。本人は気にしているが、それをミーカお義姉様に言うのははばかられたようである。ちなみにネロのケルベロスは緊張のせいなのかションボリとしていた。
微妙な空気が流れたところで、ネロの妹のリーリエが気を遣って動いた。
「ユリウス様、背中をお流しいたしますわ」
「あー、ネロに洗ってもらうから良いよ」
「それでは背中をお流しします」
ネロがザッと動いたところでミーカお義姉様から待ったがかかった。
「ダメよ。ユリウスちゃんの背中を洗うのは私がやるわ」
「ずるいですわ、ミーカお義姉様。私もお兄様の背中を洗いたいです」
どうしてこうなった。二人が俺の背中を取り合って不毛な争いを始めてしまった。このままだと決着がつかないと思ったので半分ずつ流してもらうことにした。そしてその際に「今回だけですよ」と言質をとっておいた。これで二人が俺が入っている風呂に突撃して来ることはないだろう。
「万年筆が気に入ってもらえたようで良かったです」
「とっても気に入ったわ。ありがとう、ユリウスちゃん。ハイネ辺境伯家に嫁いで来て良かったわ~」
「まだ正式に結婚式を挙げていないので、仮、ですけどね」
「もう、そんな意地悪を言わないの。もう決まっているのよ。あとは時間の問題よ」
そうなのか、知らなかった。もうそこまで決まっていたんだな。ミーカお義姉様の人柄も悪くないし、王都に定住しているラニエミ子爵は辺境に住むハイネ辺境伯家にとってとても重要な存在だ。
今は王家の力もあるし、ハイネ辺境伯家は非常に強力な力を持ちつつあると言えるだろう。
「お兄様があんなに素敵な万年筆を作っていただなんて。作っているところを見たかったですわ。私なんてまだまだですわ」
「そんなことはないよ。あと三年もすれば、すぐに俺なんて追い越されるよ」
ロザリアとは三歳年が離れている。三年前の俺は今のロザリアほど物作りをしていない。そのため今から物作りを続ければ、そのうち俺と同じくらいに優秀な職人になれるだろう。
「そうだった、ロザリアの万年筆も準備してあるんだった。お風呂から上がったら渡すね」
「本当ですか!? すぐに出ましょう!」
ザバッとロザリアが立ち上がった。先ほど体を洗い終わって、湯船につかったばかりである。このままじゃ体が冷えたままだな。これは良くない。
「落ち着いて、ロザリア。ちゃんと肩までつかって、暖まってからね。そうでないと風邪を引くよ」
「ロザリアちゃん、お風呂にゆっくりとつかったあとで私にも見せてもらっても良いかしら?」
「もちろんですわ」
ミーカお義姉様のおかげで、ロザリアがお風呂から上がるのをとどまった。この辺りは子供の扱いが上手だよね、ミーカお義姉様。子供が生まれたら、子煩悩なお母さんになりそうだ。
「ミーカお義姉様、今日のデートはどうでしたか?」
「楽しかった……じゃなくて、デートじゃなくて、領都の視察よ」
ちょっとほほを膨らませたミーカお義姉様だったが、説得力はなかった。だが、何か思い当たることがあったのか、両手を前で組んだ。胸元がますます強調される。
「そう言えば、近くの村でスノウウルフによる被害が出てるって聞いたわね」
「スノウウルフですか? スノウウルフが村を襲うなんて聞いたことがないですね」
「そうみたいね。だからみんな不審に思っていたわ。何かあったのかしら?」
スノウウルフは森の中を通っている街道に出没するのが一般的である。そのため、冬の街道は結構、危険だったりする。現に俺たちも街道でスノウウルフに襲われたからね。
でもあれは、冬の到来と間違えたスノウウルフが襲いかかって来ただけのはず。
今回の村が襲われたという話が本当ならば、スノウウルフの生息地域に何かトラブルがあった可能性がある。俺たちが襲われたのは雪の降るのが早かったことだけが原因ではなかったということか。
「これは調査の必要があるかも知れませんね」
「カインくんもそう言っていたわ。今頃、ハイネ辺境伯様とそのことで話しているかも知れないわ」
なるほど。だからそのスキを突いて、俺が入っているお風呂に突撃して来たと言うわけか。止める人がいないのならそうなるよね。
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