第294話 もちろんそのつもり
その間にもう一つ。鉛筆の先が短くなったらナイフで削ってねって言ったけど、仕事中は無理だよね? それなら鉛筆削りがあった方が良いはずだ。そんなわけで鉛筆削りを作る。木材を加工して作るので簡単だ。
箱形にして、フタを開ければゴミ箱にすぐに捨てられるようになっている。刃の部分は鉄製だ。さびるのが難点だが、刃がさびるころには替え時だろう。あっという間に完成。
「ネロ、これも」
「これは?」
「鉛筆削りだよ。こうやって使うんだよ」
ジョリジョリと鉛筆を削った。うん、良い切れ味だし、思った通りのとがり具合を再現できたぞ。鋭すぎず、太すぎず。これなら手軽に、いつでも良い感じの状態を保つことができるはずだ。
ネロがポカンとしているけど、まあいいか。あとは寝るだけだしね。
「あの、ユリウス様、お願いがあるのですが」
「ああ、リーリエにも同じものがあった方が良いよね。明日、ロザリアに作り方を教えることにして……いや、それはやめておこう。さすがに新商品が多すぎるな。分かったよ。すぐに同じものを作ろう。リーリエにはまだ内緒にするように言っておいてね」
「承知致しました」
材料も余っていたので、簡単に複製することができた。二回目ともなれば、もう慣れたものである。これで問題はないな。ファスナーを広めるのはまた今度にしよう。
ネロに筆箱と鉛筆削り、鉛筆キャップをリーリエのところに持って行くように指示を出し、眠りについた。
何だかんだで今日は疲れたな。心地良く眠れそう……でもなかった。目を閉じると、脳裏にダニエラお義姉様の豊かな胸が思い浮かぶ。これはまずい。お風呂では意識しないようにと頑張った。その反動なのか、つい、意識してしまう。
翌朝、暴発しないことを願いながら、何とかまどろむことができた。
翌日の朝食の席。お父様とお母様からちょっと小言を言われたものの、ダニエラお義姉様のやる気によって、何とか消しゴムつき鉛筆の話はまとまった。今の職人の採用に加えて、一般の人も採用する形で落ち着いたようである。
「ユリウス、他にはないよね?」
「ええ、今のところはありません」
探るような目でこちらを見ているアレックスお兄様の目をしっかりと見つめた。ここで目をそらせたら怪しまれる。
ふう、とため息をつくお兄様。どうやら何とかごまかすことができたようである。
アレックスお兄様をだましているので申し訳ない気持ちになるが、これもすべて、これ以上、お兄様の仕事を増やさないためである。今回の人員募集が落ち着けば、そのときに相談することにしよう。
今日はお父様の万年筆を作らないといけないな。それから注文していた色ガラスがそろそろ届くはずだから、ガラスペンも作らないと。忙しくなる前に、午前中のうちに訓練場に顔を出そう。最近運動してないからね。
「ネロ、騎士団のところに行くよ」
「かしこまりました。本日の午前中は、カイン様とミーカ様は領地の視察に行くことになっております」
「なるほど、デートか。うらやましい。でも都合が良いな。久しぶりに自由に体を動かすことができそうだ」
ちょっと楽しみになってきたぞ。カインお兄様たちがいないなら、ライオネルとやり合っても問題ない。ちょっと体がなまり気味だったので、ちょうど良い機会だ。スキップをしたい衝動に駆られたが、さすがにやめておく。
「これはこれはユリウス様。おはようございます」
「おはよう、ライオネル。今日はカインお兄様たちがいないんだってね?」
「良くご存じですな。何でも領地の視察に行くとか。先日、騎士たちにどこか良いデートスポットがないかと聞き回っておりましたよ」
「あはは……」
隠す気ないじゃん! だがそれがいい。それでこそカインお兄様だな。婚約者が隣にいてもブレないその感じ、好きだよ。
それならば遠慮なく。
「今日は久しぶりに鍛錬に励もうと思うんだ。ライオネル、相手をしてもらえないか?」
おおお! と周りに集まっていた騎士たちがざわめいた。どうも俺は騎士たちから崇拝されているようで、顔を出しただけで騎士たちが集まって来るのだ。男女問わず。
悪い気はしないけど、何やら変な教団の宗主になっているようで、良い気もしない。つまり、複雑な心境だ。
「分かりました。お相手致しましょう」
ライオネルがニコリと笑っているが、その笑顔にはどこかすごみがあった。まさに長年のライバルに向けるかのようなオーラである。隣にいるネロの顔から血の気が引いている。
まあ、こんなライオネルは初めてだからしょうがないか。一部の騎士たちも引いているけど。
そんなわけで午前中は訓練場で騎士たちと戯れた。もちろんネロとも戦ったし、他の騎士とも戦った。俺との訓練はとても参考になるらしく、なぜかみんなから好評なのだ。
つい最近までその理由が分からなかったのだが、一つだけ「まさか」と思い当たる節があった。
ゲーム内でモフモフの生き物と戯れたい。そんなよこしまな考えを元に、いくつか『テイマー』スキルを持っているのだ。
その中に、仲間にした生き物を訓練するスキルがあるのだが――もしかしてそれが影響していないよね? もしそうならば、いつの間にか騎士たちは俺のしもべのような存在になっていると言うことなのだけども……。
大丈夫だよね? 「仲間にしますか?」なんて選択肢、これまでなかったぞ。
「恐れ入りました。まさかユリウス様がこれほどまでに強いとは。もはや剣聖と言われてもだれも疑いませんよ」
「ネロ、そのことはだれにも言わないでね? 特に王都では言わないように」
「も、もちろんです。二度と言いません!」
ライオネルをまねてすごみのある笑顔をネロにしてみた。ネロが真っ青になっている。ちょっと脅かしすぎたかな。なかなか加減が難しいな、これ。
そんなわけで俺は新しく『ライオネルのすごみ』スキルを手に入れたぞ。テッテレー。
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