第272話 魔法を使いたい
2720_魔法を使いたい
魔導師団員に囲まれてるところにネロたちがやって来た。どうやらあちらの訓練は一息ついたようである。
助かった。このチャンスを逃さずに何とかこの場から脱出せねば。こりゃ、魔法の練習も気軽にできないな。
「ユリウス様、この騒ぎは一体?」
「ああ、何でもないよ。休憩にしよう。ジャイルとクリストファーも一緒に来るだろう?」
「お供します」
「もちろんです!」
頼もしき友のおかげで何とかその場を切り抜けることができた。危ない危ない。また騒ぎを起こすところだった。騎士団の宿舎にある休憩所に逃げ込むと、すぐにドライフルーツをテーブルの上に並べた。
「ユリウス様、これはもしかして、ウワサのドライフルーツですか!?」
「初めて見ました。ウワサどおり宝石のようにキレイですね」
どうやらジャイルとクリストファーは初めて見たようである。思ったよりも浸透していないな。本格的に事業が軌道に乗るまでにはもう少し時間がかかるようだ。それとも、高級菓子として高値で売るつもりなのかな? こちらのパターンもありそうだ。
「遠慮せずに食べてよ。なくなったら、また料理長のところからもらって来るからさ」
「さすがはユリウス様ですね」
「ボクたちにはとてもできないことですからね」
そう言いながらも遠慮なく、おいしそうに食べてくれた。それが一番。子供が遠慮してはいけない。ネロもしっかりと食べていた。
「ユリウス様、先ほどは何があったのですか?」
「ちょっと魔法を使ったら騒ぎになっただけだよ」
「なるほど」
なぜか納得するネロ。騒ぎがこれ以上大きくならないようにするために、念のために話したのだが深く納得されてしまった。なんかもう、そんな人として認識しているよね? 遺憾だからね?
「ユリウス様は魔法も使えますからね。ボクも魔法が使えたら良かったのに」
「こればかりは生まれ持った素質がいるからね。でもクリストファーも魔法を使えるかも知れないよ?」
王都でアクセルとイジドルに教えた方法を使えば、可能性はあるはずだ。それを聞いたクリストファーが目を輝かせた。隣に座っているジャイルも同じだ。
「一体どうすれば魔法を使えるようになるのですか?」
迫るクリストファー。思わずちょっとのけぞる。ここまで来てさすがに教えないわけにもいかないので、「ここだけの秘密」と念を押してから教える。
「まずは魔力があればだれでも使うことができる『ライト』の魔法を覚えてもらう。さすがにこれができなければ魔力はないから魔法は使えない」
「それじゃあボクは無理ですね。前にお爺様から教えてもらったときに、ぼんやりとしか光りませんでしたから」
「それなら大丈夫だよ。クリストファーには魔力がある。だから魔法は使える」
沈んでいたクリストファーの顔がパッと明るくなった。あとは努力次第だな。とても地味な訓練を毎日続けることになるが。
魔法を試したことがなかったジャイルも「ライト」の魔法を教えて使ってもらった。
ジャイルはクリストファーと同じくぼんやりと明かりが灯った。
「よしよし、これで二人には魔力があることが分かったわけだ。あとはそれの精度を上げて、鍛えていくだけだよ」
「ネロも魔法の才能はあるのですか?」
「もちろんだよ。ネロには王都にいるときから魔法を教えているからね」
俺が考案した「ライトの魔法を点滅させる方法」を使えば、自分の中に眠っている魔法をある程度は伸ばすことができるだろう。だが限界までは無理だろうし、限界以上に引き上げることはできない。そればかりは生まれ持った素質によるのだ。ゲームのように、能力値を自由に振れれば話は別だが。
ちょっと不満そうな顔をしているジャイル。どうもネロの才能に嫉妬しているみたいだな。さっきの剣術の練習でもネロが目立っていたみたいだし、変なわだかまりができなければいいんだけど。さすがに反目されると万が一のときに背中を預けることができなくなる。
二人の様子を見つつ、練習のやり方を教える。
「ずいぶんと簡単なやり方ですね」
「まあね。でも王都の友達は十分な成果を上げることができたよ。あ、注意点なんだけど、必ず寝る前にするように。魔力切れで倒れるからね」
魔力切れを起こすと結構ツライという情報は知っているようである。二人の顔が引きつった。高級菓子があれば少しは緩和することができるのだが、さすがに用意するのは難しいだろうな。
「ユリウス様、どうしてこのやり方を他の人に教えてはダメなのですか?」
「効果がありすぎて騒ぎになるからだよ。俺もそろそろ大人しくしておかないと、部屋に閉じ込められてしまうかも知れない」
「そんなことはないと思いますけど」
ネロが苦笑いしている。いや、あるんだよ、ネロ。すでにそのことが検討されていてもおかしくない。これ以上のやらかしは身を滅ぼすことになるだろう。
そんなわけで、ジャイルとクリストファーにはきつく言いつけておいた。これでしばらくは外部に漏れることはないだろう。
こうして無事に屋敷に戻った俺は神棚作りを再開した。王家に献上するものなので、気合いを入れて作らないとな。持ち運びは大人二人掛りでやってもらうことにしよう。そうすればもう少し大きくすることができるからね。大きい方が見栄えが良いし、細工がしやすい。
あ、中に入れる大きめの水晶を頼んでおかないといけないな。
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